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第15話



アレンの下に3つの知らせが届いた。


1つは王宮遣騎士本部で保護されていた実彩が姿を消したこと、2つめはバズーラ家の子息と残りの私兵騎士が街中から居なくなったこと。

そして────。



「近隣の森に大量の魔物が集まっているだぁ?」



数十匹の魔物が街外れの森に集まっている。

この知らせはアレンを大いに混乱させた。


基本的に魔物は破壊衝動と殺戮衝動に狂った獣だ。

魔物は過度に魔力を取り込んだ魔獣の成れの果て。

魔獣は種族によっては気性が穏やかなモノもいるが、ひとたび魔物と化したら手当たり次第に人も物も壊す。


その凶暴性と狂暴性は危険視され、魔物が発見されたなら被害が出ない内に冒険者ギルトと連動して討伐隊が組まれる。


その魔物が大量に現れる?

前提として魔獣が過度に魔力を摂取しないと生まれないものが?


ただでさ保護対象の“少年”の失踪と私兵騎士達とマロリーの逃走は頭が痛いことなのにトドメが魔物の大量発生とは。



「どうしろっつうんだよ。ただでさえこの街にはすぐに動けるDランク以上の冒険者はいないんだぞ、俺達だって私兵騎士の馬鹿共のせいで動ける奴が少ないっていうのに…………」



Dランク以上の冒険者は派遣騎士に協力して私兵騎士達の捕縛に手をかしていた。


その結果、負傷した冒険者が多くいる。

派遣騎士も冒険者も魔物の相手をするには致命的に足りない。


応援を呼んだとしても、それまで持ちこたえることが出来るかすら疑問だ。

このままだと街は魔物によって蹂躙されてしまう。

だが迷っている時間はない。



「仕方ねぇ……フィンの奴に伝えろ、出来る限り残りの騎士と冒険者を集めろ。魔物が街に向かってくる前に撃って出るからテメェも支度しろてな」


「し、しかしフィン副団長は他に任務がありませんでしたか?」


「馬鹿野郎、んなこと分かってる! けどな、魔物を止められなきゃどちらにしろ俺達は全滅しちまうんだ、四の五の言ってないでとっとと行きやがれ!!」


「すみませんでした!!!」



部下は一目散に走っていった。



「アレン団長殿」



アレンは後ろを振り返るとそこにはクリストファーがいた。


先ほどまでアレンに掴み掛かっていたクリストファーは頭が冷えたのか。他の派遣騎士達と共に炎上したギルトの片付けを手伝っていたのだか、いつの間にか後ろにいたようだ。



「何のようだ。坊ちゃん、なんかあったのか?」


「僕も魔物の討伐に参加します。そして坊ちゃん呼びはやめて下さい」


「あ゛ぁ?」



アレンは思わず呻いた。

オイオイ、今なんつったこの坊ちゃん。



「僕はこの街の領主の息子で冒険者です。僕には街を護る責任と義務があります。決して足手まといにはなりません─────お願いします」



そういって頭を下げてくるクリストファー。

アレンはガシガシと頭を掻いた。


 仕方ねぇか。



「分かったよ、その代わり…………少しでも無理だと思ったら必ず引け。それが条件だ」


「……………分かりました」



しぶしぶといった感じにクリストファーは頷いた。

……………連れてくだけでも感謝しろや。



「はぁ………んじゃ、行くぞ坊ちゃん」


「坊ちゃんは止めて下さい!」












その頃、実彩はリメスの街中にいた。


周りは魔物の大量発生の知らせを聞いてパニックになっていた。

そのおかげか、実彩の異様な風体に気にもとめず右往左往している。



「……………」



実彩は街中の喧騒が聞こえていたいのか、ひたすら街中を歩いていった。













「うわーー、こりゃあマジで大量だわ」



遠くに見える魔物の集団にどこかあっけらかんと言うアレンに思わず白い目を向けるクリストファー。


アレンは幅の広い大剣を杖のように体重をのせ、くつろいでいるように見える。


一方、クリストファーは初めての討伐に緊張していた。



「緊張してんのか? 坊ちゃん…………そう言えば坊ちゃんは最近成人したんだったか。あ゛? つまりなんだ、坊ちゃんはこれが初陣になるのか!?」


「そうですよ。悪いですか? ………………今更気付いても遅いですよ」



ボソッとクリストファーは呟いた。

アレンはヤレヤレと獲物の肩に担ぐ。



「今更帰れなんて言わねぇよ。たく、せいぜいヒデー怪我しねぇようにしろよ、坊ちゃん」


「だから坊ちゃんは止めて下さいと何度も言っているでしょう!!」



クリストファーはアレンとのやり取りで肩の力が抜けていたが、本人は気付かなかった。


すると斥候を担当していた騎士が駆けてきた。



「報告します! アレン団長大変です、一部の魔物がメリスに向かって来ています。その数およそ小中型の魔物10匹程!! 更に森に集まっている魔物は百に届くそうです!」


「小中型の魔物と言ったが、中型は何匹いる?」


「2匹です」


「分かった。その2匹は俺と坊ちゃんで仕留める。フィンに伝えろ。お前はメリスの守りの強化をしつつ俺達が取りこぼした奴の始末しろと」


「分かりました。それでは早速フィン副団長に伝えて来ます!」



騎士はメリスの街中に向かって走り去って行った。

大門の上からその様子を見届けたアレンはクリストファーに話しかけた。



「聞いた通りだ坊ちゃん。お前は俺と一緒に中型の魔物を狩る。他の小型は部下達にやらせるが俺達が片付き次第加勢に回る。分かったな?」


「分かりました。アレン団長殿の指示に従いましょう」


「お前は魔法が使えるからな………だからと言って無茶するんじゃねぇぞ」



アレンはクリストファーに釘を刺すが本人は聞いているのかいないのか。



「オイ」


「………忠告は胸に留めておきます」



クリストファーはそれだけ返した。

あきらかに無茶する気満々のクリストファーにアレンは自分が気をつければいいかとクリストファーと共に中型の魔物を狩る為、2人は大門から降りた。


そしてアレンとクリストファー、派遣騎士達と魔物との戦いの火蓋が切って落とされた…………。


派遣騎士達は2人1組で小型の魔物の討伐にあたった。


アレンとクリストファーは中型の魔物2匹を相手に順調に戦っていた。

中型の魔物は角の生えた犬のような姿のものと、蛇の胴体と鳥の頭を持った姿をしていた。


角の生えた犬型の魔物はアレンが、蛇と鳥の頭を持った魔物をクリストファーが相手取る。



「ハッアァ………!!」



大剣が宙を舞う。

その瞬間、犬型の魔物の胴体が薙払われる。



「グッッオオオォォォォオ!!!!!!」



叫び声を上げてアレンに襲い掛かる犬型の魔物。

前脚がアレンに向けて振り下ろされるが、アレンは難なくかわし、新たな一撃を魔物に叩き込んだ。

一方クリストファーは蛇(鳥?)型の魔物を相手に少し苦戦していた。



「くっ…………はぁあ!」



間一髪、蛇型の口から放たれた毒液をかわしたクリストファーは蛇型の魔物に魔法で生み出した風の刃をぶつけようとするが、蛇型の魔物はアッサリとかわし、胴体をクリストファーに叩きつけた。



「いっっ!?」



クリストファーは避けきれず、左肩を強く打った。

衝撃が全身に響くがクリストファーは構わず蛇型の魔物に魔法を仕掛ける。



【 風よ 研ぎ澄まされ 刃と化せ 我が敵を切り刻め ウインドーカッター!!】



目には見えないはずの風の刃を、蛇型の魔物は避ける。


クリストファーは自身の魔法が当たらず、更に魔物の攻撃を防ぎきれない事に苛立ち、周りが見えなくなっていた。



────────それがクリストファーの致命的な隙となった────────



【 炎よ 燃えろ 灼熱と化し 我が敵を焦がし尽くせ   ファイヤーボール!】



突如クリストファーに襲い掛かる炎の玉。



「なっ!? 【ウインドーウォール!!】くぅっ………」



とっさに風の壁を作ってクリストファーは急いで後ろに下がった。


炎の玉と風の壁が激突しした。

風の壁によって炎の玉が上空に火柱のように立ち上った。


炎と風が消えた。

砂塵によって曇った視界が晴れる。



「随分な挨拶ではありませんか、マロリー・プファルツ・バズーラ!」



そして、クリストファーの瞳に映ったのはメリスから居なくなったマロリーだった。



「ふん。たかが冒険者が気安く俺様の名を呼ぶとはなんたる不敬だ。大人しく俺の炎に焼かれればいいものを」



汚いものを見る目つきでクリストファーを見るマロリー。

そんなマロリーをクリストファーは鼻で笑う。



「僕が分からないのですか? 相変わらず、愚かですねマロリー・プファルツ・バズーラ。貴方とは王宮で何度も顔を合わせているというのに」



王宮と言う言葉にピクリと反応する。



「貴様何者だ」


「僕はレタック家のクリストファー・バーグレイツ・レタックですよ……………同じ貴族の、それもメリスの領主の子息の顔ぐらい覚えていたらどうですか」



マロリーはクリストファーの顔をマジマジ見るといきなり笑い出した。



「あはははっ、貴様レタック家の! みすぼらしい姿をしているものだから誰かと思ったぞ。貴様こんな所で何をしているのだ」


「領主の子息として冒険者として魔物の討伐に来ているに決まっているではありませんか」



クリストファーの答えにマロリーは怪訝そうな顔をした。



「そんなもの…………派遣騎士共や冒険者共にやらせればいいだろうが、俺達とは違って奴らは有象無象にいる使い捨てのゴミなのだから」



その台詞にクリストファーは怒りを覚える。



「マロリー・プファルツ・バズーラ、貴方はっ! 派遣騎士達や冒険者達を何だと思っているのですか!?」


「何を怒っているのだ。レタック家の?」



マロリーは心底不思議そうにクリストファーを見やる。その様子にクリストファーは激しい怒りと虚しさを覚えた。


コイツに何を言っても無駄だと───。



「しかしここで貴様に会えたのは僥倖だったな。オイ、レタック家の、俺様に謝罪しろ」


「……………今、なんと言いましたか?」



クリストファーは自分の聞き間違いだと思いたかった。

しかし、そんなクリストファーの思いも虚しくマロリーは謝罪の理由を述べる。



「この街の人間は高貴で特別な存在である俺様に向かって不敬を働いた。あろうことか俺の命令に従わず楯突き、高尚なこの身体に傷を付けた…………まったくもって許しがたい。それもこれも貴様等レタック家の人間が街の人間共をしっかりと治めていなかったからだろう。だから俺様はレタック家の人間である貴様に謝罪を要求する」



自分勝手にも程がある言い分に、クリストファーは絶句した。


なにしろ謝罪して欲しいのはこちらの方だ。

いや、謝罪だけでは済まされない。

今回の一件でバイエル国にどれだけの損害が出るとこの男は思っているのだ?



「…………ふざけているのですか、貴方は」


「ふざけているのは貴様等の方だろう。俺が何の為にこれほどの魔物を用意したと思っている」



頭が真っ白になる。



魔物は魔獣が魔力をなんらかの原因で過度に取りすぎることで起きる現象だ。

そしてその現象は確かに人為的に行うことも出来る。しかしそれは─────。



「魔獣を人為的に魔物化させるのは全大陸中で禁忌にされているのは貴方とて知らないはずないでしょう!? 貴方はこの国を滅ぼすつもりですか!!」



人為的に魔獣を魔物化させた場合、その術式にもよるが自然発生した魔物化と違い発動させた術式を壊さない限り魔物化する魔物は増え続ける。



「何より魔獣を魔物化させる為の魔力はどこから!?」


「なんだ、そんな事を知りたいのか?」



マロリーは懐から光沢のある石を取り出した。



「それは、魔力石?」


「違う。これは魔石だ」



魔力石と魔石。

魔力石は自然界に存在する魔力が固まって生まれるのに対し、魔石は魔獣が生まれながらに持つ自身の魔力が石になったモノをさす。


最も魔石を持つ魔獣は少ない。

何故なら魔力が石になるには密度の高い魔力と固まるまでの長い時間が必要だからだ。



「せいぜい感謝するんだな、レタック家の。王宮に仕えるどころか領民すら従える事が出来ない貴様等のために、俺様が無用なゴミ共を掃除してやろうというのだからな」



クリストファーの怒りが頂点に達する。



「貴方には民に対する思いはないのか!!!」


「あんなゴミ共に、いったい何を思えというのだ」



嘲笑するマロリーに向かってクリストファーは魔法を放つ。



「何をするレタック家!」



かろうじて避けたマロリーはクリストファーに怒りの眼差しを向ける。

その眼差しをクリストファーは真っ直ぐに受け止めた。



「黙れ、マロリー・プファルツ・バズーラ。我が領地に住まう民に対する数々の非道。レタック家に対する非礼。王と国に対する侮辱。全く持って許しがたい! この場で貴様を拘束する!!」



そう言い放ち魔法を繰り出すクリストファー。

この時、彼は度重なる怒りで忘れていたのだ。



 ズシャアアアアッッツ



地面からクリストファーが狩ろうとしていた蛇型の魔物が飛び出してきた。

どうやらマロリーの出現に驚き、地面の下に潜んでいたらしい。



(しまった! マロリーに気を取られてしまっていた!?)


蛇型の魔物はそのままクリストファーに襲いかかろうとした。


その様子をマロリーは高笑いして見ていた。

その時。



「一発ブン殴られるだけじぁ足りなかったみたいだから? こっちから来てやったぞ鍋の具モドキ」



突如として聞こえてきた声。

その声が聞こえた瞬間、蛇型の魔物の身体に地面から生えた土の槍が無数に突き刺さり、蛇型の魔物を絶命させた。


クリストファーとマロリーは固まってしまった。


クリストファーは魔法の詠唱とその人物に最後まで気付かなかったことに驚いて。

マロリーは身に覚えのある、その魔法とその人物の声に驚いて…………。


2人は同時に振り向いた。



「それはそうとお前、ちょっとは見直したぞ? この馬鹿とは違って一応まともな考えが出来るじゃないか。私の時に半場脅すように依頼をして来たからコレと同類かと思っていたんだが」



そこにいたのは冒険者ギルトから支給される黒ローブを身にまとい、仮面を付けた小柄な“少年”が口元に笑みを乗せて、そこにいた。












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