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第16話



呆気とられている2人を見やりながら実彩は離れた場所で犬型の魔物を相手取っているアレンを確認していた。



(あのオッサン、マジで強いな。金刺の伯父さんといい勝負だぞ…………あっ。仕留めた)



テクテクと実彩はクリストファーに向かって歩いていた。



「何故、貴方がここに………」



クリストファーの茫然とした呟きを実彩は黙殺し、驚きと困惑に固まっているマロリーに視線を合わせた。



「よお、無駄に自尊心と無能さを肥大化させた馬鹿貴族のお坊ちゃま。朝ぶりだな」



侮蔑混じりの言葉に、すかさずマロリーが反応した。



「…っ、貴様のその魔法、そしてその声は───!」


「こちとら街中にお前がいるものと虱潰《しらみつぶ》しにあっちこっち捜し回っちまったが………こんな所でこんなふざけた事をしているとは思わなかったもんでな。─────魔獣の魔物化ね、マジでこの国終わったんじゃね?」



 禁術だろ、それ。


とクリストファーに向かって質問する。

クリストファーはこの場に実彩がいることに現実味を未だに持てないのかアッサリと答えた。



「えぇ、全大陸中で禁忌に指定されている禁術です。もしもこの禁術を使うものがいたら冒険者ギルトと全大陸中の国で国際指名手配されることになるでしょう」


「国の1貴族が使ったら?」


「それは…………」



クリストファーは言葉を濁した。


まぁ、無理はないだろう。

全大陸中で禁止されている術を国の顔でもある貴族が使ったのだ。しかも貴族の鏡と呼ばれている男の息子が。


アレンからバズーラ家の当主の話しを聞いて、冒険者ギルトが炎上し、空から紅い雨と朱く染まった布を見たとき。


実彩は確かに自身を責めた。

自分のせいだったのか、自分が全ての原因だったのではないか。


実彩の身体に染み付いた血の匂い。

焼け焦げた、モノの匂い。


けれど幾ら考えても実彩が自分が間違っていたとは思わなかったし、思えなかった。


そして考えて考えて、考え抜いた末に実彩の胸に浮かんだのは──────果てしない怒り。



「雪辱を晴らしたいんだろう? 鍋の具モドキ。いいよ、相手になってやる。私も私怨と言われようがお前をブチのめさないと気が済まないしな」



クリストファーは頭に疑問符が大量に浮かんでおり、目を白黒させている。



「ちょっと待って下さい。貴方はいったい───」



実彩にクリストファーが聞こうとしたとき、マロリーが怒鳴り声を上げた。



「貴様のような薄汚く穢らわしい塵芥に等しき下等な生ゴミの分際で高貴にして高尚なバズーラ家の選ばれし特別な人間である俺様に対してどこまで不遜な態度を取りやがって!! いいか! 俺はいずれ王宮で王太子の側近になることが決められている王族の次に崇高な人間なのだぞ!! 貴様のように身分も名誉も権力も何一つ持つことも出来ない生ゴミがこの俺様をブチのめすだと? 馬鹿にするのも程がある!!! 貴様のような生ゴミは大人しく俺になぶり殺されていればいいんだよ!! この生ゴミがぁあ!!!!!」



実彩は息継ぎ無しで罵倒を浴びせられたが、マロリーの台詞に聞き捨てならない言葉を聞いたのでクリストファーに思わず確認してしまった。



「え? なにアイツこの国の王太子の側近になる予定だったの?? そうゆうのってさ、普通物心ついた辺りから学友として一緒に居るもんじゃないのか。この国では違うのか? もしかしてわざわざ冒険者登録する為だけにこっちに来ているのか?アレは」


「いえ………王太子殿下の側近になる方々は王都の冒険者ギルトで登録します。御側を離れませんよ……それに僕もあの愚か者が王太子殿下の側近になる話しなんて聞いたことがありませんよ」



マロリーそっちのけで2人はコソコソ話し合う。



「じゃあ何アイツ、側近どうのこうのは単なる妄想てこと? うわぁ………」


「痛々しいですよね」


「俺的にはあんな奴が王太子の側近に選ばれることはねぇと思うぞ? 流石に王宮も考えるだろう。国の次代をにたう王太子にはむしろ近付けねぇよ。父親はともかく」


「それもそうだよなぁー。幾ら国の外交の中心人物の息子でもアイツの家て子爵家だしな。王太子の側近になるには身分が足りんだろ」


「最低でも侯爵位からですね。例外に、国にかなりの貢献をした人や手柄を立てた人がなる場合がありますが………」


「その手柄だって本人が自立で取った場合だろ? 親の手柄の場合はちと厳しいだろが」


「それはそうなのですが…………」


「アレの父親はまともな人なんだろ、王や王族に対して無理強いするような事はしねぇだろ。むしろ側近になりたけりゃ実力でやれつーんじゃないかな」


「もともと実力主義の国だしな」


「…………」


「…………」


「…………」


「「ん?」」



実彩とクリストファーは同時に背後を振り返る。



「あ?」



背後にアレンがいた。

いつの間に………。



「貴様等ァアアアアアアアアアア!!!」



無視され続けられたマロリーが頭をかきむしって地団駄を踏んでいた。



「貴様等なぞ俺様が直接手を下す価値もない! 貴様等如き俺様の生み出した魔物で十分だ!!! 街のゴミ共とくたばれーーーーーーー!!!!!」


血走る目で実彩達を睨みつけたマロリーはそのまま森の中に走り去って行った。


もちろん、実彩達とて黙ってはいない。

マロリーを捕まえようと3人は動き出そうとしたが、森に潜んでいた魔物が一斉に動き出した。


そして彼等はマロリーを捕らえるため魔物の群れに向かっていった。














大量の魔物が3人に殺到する。

アレンは大剣で持って5・6匹の魔物を一振りで薙払い、クリストファーは風の刃で魔物を切り刻んだ。


実彩は器用に襲いかかる魔物の群れの間を縫うようにかわしながら背後を取り、的確にニトを急所に打ち込む。


特にアレンと実彩は凄まじいものがあった。

クリストファーも善戦しているが2人と比べるとやや見劣りしてしまう。

その様子を派遣騎士達が驚愕の眼差しで見つめていた。


「なあ」


「なんだよ」


「俺達って必要か?」


「あの3人だけで十分そうではあるよな……」


「………確かに。誰だよ、戦力が足りないから今回マジやべぇて言ったヤツ」


「アレン団長についていってるあの仮面の子供がすげー………」


「いや、クリストファー様も中々だぞ」


「まーそうだけどよ」



派遣騎士達は3人の取りこぼした魔物を狩ろうと思っていたが、その取りこぼしが無いため魔物の中を突き進む3人の後をひたすら追っていった。



「それはそうとオッサン、オッサンはいつから私達の後ろに居たわけ?」


「オッサン言うな! 俺はまだ二十代だ!! ……………たく、俺はアイツがお前相手に長々と罵倒を浴びせ始めた辺りからいたぞ」


「気配消すの上手いな……、流石は団長と言うことか。私の背後取るなんてお前で5人目だ」


「俺は強いからな。で、他の4人は誰だよ、強いのか?」


「父、母方の祖父と伯父、そして従姉妹の4人だな。かなり強いよ」



特に従姉妹が。

爺ちゃんも伯父さんもあの人は別格だって太鼓判押してたもんなー。


昔を思い出し、ちょっぴり視線が遠くなる。



「貴方達!? 何ホノボノ喋っているんですか!と 言うよりこの状態で喋られるんですか?!」



クリストファーが魔物に魔法を浴びせながら必死に魔物を討伐していた。

…………そりゃ怒るわな、別にサボってないけど。


クリストファーの必死な様子に実彩とアレンは肩を竦めつつ討伐の速度を上げた。


そして3人はマロリーのいる森に足を踏み込んだ。



「はぁはぁ、マロリー・プファルツ・バズーラはいったいどこに…………」


「魔物は粗方片付けたが当の元凶はどこ行っちまったのかね」



アレンとクリストファーが周りを警戒しながらマロリーの姿を捜していた。



(………仕方ない、アレを使うか)



実彩は目を瞑り、大きく鼻から息を吸って口からゆっくりと吐いた。それを2、3回繰り返す。

そして自分の丹田《たんでん》から全身に“気”が巡る様子をイメージし、その“気”を両目に集中させる。



「………」



ゆっくりと目を開けた。

実彩の瞳には色とりどりの光が映し出された。



(んー………視界は良好。まさか目に魔力を集中させたら魔力そのものが見えるようになったのは驚いたけど、これって魔法じゃなくて道術だよなー)



もしくは仙術。

セフィロトに森の中に落とされて、魔法の鍛錬をしていたときに実彩はこの“目”に気が付いた。



(無詠唱の魔法もどっちかというと“目”で視た魔力の流れに自分の魔力を流して発動しているし、私の使っているのって呪術の類になるのか?)



自分の能力に少々疑問を覚えながらも実彩は周りをグルリと見渡した。



 ────見つけた。



森の中で一カ所だけ、魔力が不自然に集まり凝り固まっている場所がある。



「見つけたよ、2人共。………こっちだ」


「は? ……あっ、おい!?」


「ちょ、待って下さい!」



1人でドンドン進む実彩にアレンとクリストファーは訳が分からないまでも慌てて後を追った。


そして目の前に広がる光景に3人は絶句した。



血だまり。肉のこびりついた骨。目玉の融けかかった頭蓋骨。死肉にまみれた髪。飛び散る手足。原形を留めていない内臓。虫の羽音。血肉や骨に集ろうとする魔獣や獣。死臭がする魔石。



死の証の下で淡く光る魔法陣。



「なんだよ、こりゃあ」



アレンの呟きが実彩とクリストファーの耳に届く。

祖父や父に付き添って猪や熊退治をしたことがある実彩は、基本的に血や肉といった臭いや色に慣れていたが、流石に口元を押さえた。


クリストファーは顔面蒼白になり、今にも倒れそうだ。

戦場や魔物討伐によってそういったモノに耐性のあるアレンも顔をしかめた。



一番最初に動いたのは実彩だった。



無惨に行われたであろう死を目の当たりにしながらも、実彩は“目”を解かなかった。


“目”で視た実彩はリュックから取り出したナイフの柄で魔石を割る。

魔法陣は地面に流れる魔力(霊脈?)に自身の魔力を流して壊した。


……不自然に集まった高密度の魔力が一気に霧散したのをアレンとクリストファーは確かに感じた。



「…………術を解いたのか?」



恐る恐る聞いてくるアレンに実彩は黙って頷いた。

そして死体に手を翳し。



【 火よ 】



一言、実彩が呟いた瞬間、鮮やかな炎が一瞬にして全て跡形もなく焼き払った。



「ま、マロリーはいったい、どこにいるのでしょうか?」



震えそうになる身体を必死で抑えながらクリストファーは辺りを警戒した。

死体の衝撃が抜けないみたいだ。



「術が解かれたのは気付いている筈なんだか、近くにいる気配がないな…………ん?」



何かに気付いた様子の実彩にアレンとクリストファーが声を掛けようとした瞬間、突然頭上が暗くなった。

そして────。



「死ねぇえええええ!!!!!」



マロリーが、いた。



「何してんだ、アノ馬鹿?」



呆れた顔をする実彩。

そんな実彩に驚愕するアレンとクリストファー。



「何でそんなに飄々としてんだテメェはーーー!!」


「そんなことを言っている場合ではないでしょう!!!」



焦る2人。

無理もない。頭上に巨大な岩石が降ってきているのだから。



「ひ、避難を!」


「無理だ!! 間に合わねぇ!!!」


「…………」



 バキィイイイン。


派手な音が頭上から響く。

無駄と知りながらうずくまっていたアレンとクリストファーは驚いて顔を上げた。


顔を上げた先には頭上で止まっている岩石があった。


理解が出来ず、固まってしまっている2人を尻目に岩石の上で偉そうにしていながら岩石をアッサリ止められて口を開けているマロリーに、実彩は凄惨に笑った。


「随分な挨拶じゃあないか、鍋の具モドキ。よ~く分かったよ。あっははははは───半殺しにしてやるよ…………」



その場にいた全員がゾッとした。

それ程までに実彩は殺気だっていた。



「ひぃっ!」



実彩の殺気にビビりまくったマロリーはすぐさま逃げようとしたが、いつの間にか投げられたニトによって呆気なく捕まった。

そして。










「それにしてもこの馬鹿。いったいどーやってこの岩石を私達の頭上まで投げ飛ばしたんだ? ぜんっぜん分からなかったぞ………」



岩石から逃れ、足元に転がっているマロリーを足蹴にする実彩にクリストファーは引きつりながらも己の見解を述べた。



「恐らくは魔法陣が壊されたら現るように仕掛けていたんでしょう。マジックアイテムの中にはそういったモノもありますし、マジックアイテム以外での移転魔法は今のところ開発されていませんから………」


「ふーん、で? この扱いはなんだ。」



実彩は自分の背後を親指で指差す。

そこには実彩の首根っこを抑えつけているアレンがいた。



「あ? 妥当な処置だろうが」



アレンの目は明らかに危険物を見るそれだった。



「ワケの分からねぇ魔法を使って、この馬鹿餓鬼を袋叩きにした奴を野放しには出来ねぇだろうが」



心がへし折れるまでマロリーをたこ殴りしまくっていた実彩を止めなかった、アレンとクリストファーもある意味同罪だが、そこは大した事ではないので棚上げする。



「忘れているようだが、お前、チンピラ共を血祭りにあげたワケまだ話してないからな………本部に戻ったらキッッッチリ話して貰うからな!」


「それはまぁー約束だからはなすけど、それならそこにいる奴も連行しろよ」



そう言ってクリストファーに視線を向ける。



「私があのチンピラ共に絡まれた原因はソイツが別のチンピラ共を挑発して怒らせた報復だからな」


「え!?」


「はぁあ?」



クリストファーは目を白黒させ、アレンはそんなクリストファーを見やる。



「ちょ、ちょっと待って下さい!? チンピラに絡まれたのが報復? 僕が原因て…………あ、まさか!」


「そのまさか、だ。お前が無闇やたらにアイツ等を挑発したせいでお前を助けたとばっちりを私が受けたんだよ」



一応、クリストファーがチンピラ共を殺そうとしたことは敢えて伏せた。

……………別に未遂だったし。



「だから、話し聞くならソイツも本部に連れて家よ団長さん?」


「おいおい…………マジかよ、坊ちゃん。お前さ、何やってんだよ…………」



最早呆れて何も言えないのか、アレンは首を横に振るって右手に実彩を、左手にクリストファーを掴んで猫のように吊し上げた。



「アレン団長殿!? 何のつもりですか!!」


「げっ……またかよ───!?」


「うるせぇよ! 余計な仕事ばかり増やしやがって!! 大人しく連行されろ、この悪ガキ共が!!!」



そう言って、アレンはプラプラと両手に掴んだ2人を連れて行った。


途中、実彩が軽く身体を揺らしたが抵抗だと思いアレンは気にしなかった。













そんな3人の様子を見つめる男がいた。



「おやおや、バズーラ家のご子息は失敗してしまいましたか。成功すれば儲けもの程度でしたが、やはりやはり少しは残念ですねー? 最も“狼の牙”の戦いっぷりを見れただけでも良しとしますか」



少し離れた場所で様子をうかがっていた真っ白なローブを着た男だ。


その男はアレンに子猫のように吊されている子供2人に視線をやった。

すると仮面を付けた少年が身体を軽く捻った────瞬間。



 ガッ!!



短剣が男の顔を横切り、後ろの木に突き刺さった。

男は驚き、仮面を付けた少年を急いで見やるがすでにアレンによって連れ去られた後だった。



「ふっ、アハハハハハ!!!!!」



男は突然、大爆笑する。



「いやいや。これは中々面白いではありませんか!? 気配を消した私に気が付くとは! “狼の牙”でさえ私には気付かなかったのに!! バズーラ家のご子息には感謝しなくてはいけませんね。あの仮面の少年を知ることが出来た! 気に入りましたよ。見たことのない魔法に高い戦闘能力、これは是非とも欲しい……!!」



ひとしきりに笑った男は森の奥へと消えて行った。











(当たったか?)



アレンとクリストファーに気付かれないように短剣を投げた実彩は森の奥を見て、顔をしかめた。



(誰かに見られていたのは間違いないとは思うが、当たったかどうかは微妙だな。)



マロリーとの戦い(?)をずっと見られていた。

その視線を感じていた実彩は、その探るような視線にすぐさま敵認定をした。


嫌な予感がする。

アレンに連行されながら、実彩は森の奥を睨みつけた。














「旦那様、クリストファー様がメリスに帰還されました」



息子の帰還を告げる灰色の執事に、メリス領主は厳かに命じた。



「派遣騎士本部に向かい、クリストファーを迎に行け………そして、“例の少女”にも来てもらいなさい」


「それでは旦那様」


「あぁ、クリストファー1人では不安が残るが、彼女に動向してもらえば大丈夫だろう。私が直接依頼したい。しかし無理強いをするつもりもない。あくまでも1依頼主として彼女と接する」


「畏まりました」



深々と礼をとると灰色の執事は主の命を果たすため出て行った。


新たな事件の影が実彩に迫りつつあるが、本人は知らずにいた。














マロリーはこの後、派遣騎士本部の牢獄に入れらた後に王都に強制送還され裁判を受けます。



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