第16.5話
「これはアレン団長、お帰りなさい。随分大変だったようですね。お怪我はありませんでしたか?」
団長室に入った瞬間、目にしたのは満艶の笑みで自分を迎える副団長の姿だった。
副団長────フィン・ファルツ・ズィーゲンの笑顔を見た瞬間に開けたドアを閉めたくなった。
別に忘れていた訳ではない。
ただ余りにも問題事が舞い込みすぎて彼にも手伝って貰おうと色々おしつ…………頼んだらこうなっただけで。
「いやなフィン、忘れていたわけじゃないんだ。ただバズーラ家の私兵騎士が街中で暴れまわりやがったり、そのバズーラ家の馬鹿息子が急に居なくなったりしてな。それにチンピラ共と冒険者の喧嘩やらなんやらで色々あったんだよ。トドメが魔物の大量発生だろ? 人手が足りなかったんだ」
まるで浮気のバレた夫が妻に言い訳をする図のようだが、フィンはその秀麗な顔に冷たい笑みを浮かべたままだ。
目は笑っていないけどな!!
「くだらねぇ言い訳してんじゃねーよ。俺はテメェから例のガキの保護を頼まれたんだよな? 魔物の大量発生でメリスの防衛強化に駆り出されるのは仕方ないとして、な~んで後始末の報告書やら街の被害届やらが俺名義でくるんだぁ………? あ゛?」
「…………俺は書類仕事より現場向きの人間なんだから仕方ねぇじゃねぇか! アイツ等も分かっているからお前にだな………」
「ざっっっけんじゃねーーーーぞ! メリス中走り回ってガキ捜しているさなかテメェは楽しく馬鹿共叩きのめして日頃の鬱憤を晴らしてたんだろが!!」
怒りの理由はソコらしかった。
副団長、まさかの戦闘好き。
「やっぱりソコかよ! しゃーねーだろ。人手も時間もなかったんだからよ」
団長室の椅子に腰掛けて肩肘を立てながら聞いてくるアレンにフィンはギロリと睨んだ。
「あ゛!? 寝言は寝てからほざけや」
言葉を遮られた挙げ句、的外れな言葉にフィンは若干イラッとした。
「そういえば、俺達が保護しようとしていたガキのことだが」
「ん? あぁ、そういえば言ってなかったけどよ、例のガキは別件で連行したぞ」
「んなことはとっくに知ってんだよ。そうじゃなくて、あのガキ、成人した女らしいぞ」
「はぁあ!?」
あの身長で!?
つか女!!
本人が知ったら怒りそうなことをアレンは思った。
「俺があっちこっち駆け回って捜していたにも関わらず、俺に頼んできた当の本人が別件でソイツを連行して来るんだからやってらんねぇよ。たく。」
フィンはドカッとソファーの上に座り込んだ。
「マジかよ………」
アレンの方はというとフィンから聞いた話しに衝撃を受けていた。
俺、女とは知らずアイツを何度も殴ったりしたんだけど!?
知らず知らずのうちに女に手を上げた事実に罪悪感を感じていた。
「それからそのガキにレタック家の当主が依頼する話しが出ているみたいだぞ」
「依頼?」
フィンの言葉に落ち込んでいた気分を浮上させる。
「何でもバズーラ家の領地に行く息子の護衛をさせたいらしいぞ」
「ちょっと待って。何で坊ちゃんがバズーラ領に行くんだよ。おかしいだろ」
マロリーの事をバズーラ家の者に知らせるだけならば別にレタック家の子息を向かわせる必要はない。
「………あれだろ。バズーラ家の“あの噂”の真偽を確かめる気なんだろ」
「あー……アレか。まぁ確かに他家が入り込むなら今が絶好の機会だしな…………なる程な、メインは仮面のガキの方か」
アレンは納得したように何度も頷いた。
「立て続けに災難に見舞われるなぁーアイツ」
実力があるばっかりに。
その呟きにフィンも同感なのか、微かに笑みを浮かべた。
2人はしばしば仮面を付けた少女のこの後を案じたのだった。
絢爛たる大広間にて近衛騎士からの知らせを受けた玉座に座る王は、ため息をつきながら身体中から生気が抜けていくのを感じていた。
「よく知らせてくれた。バズーラ子爵が落ち着いてくれたのは助かった。いくら息子が起こしたこととはいえ、今、彼にいなくなってもらっては困るのだ」
バイエル国国王、グリニッジはそう呟いた。
バズーラ子爵が息子のマロリーの一件を聞き辞職の提出と自害をしようとしたとして近衛騎士から報告が上がった時、グリニッジは心臓が止まるかと思った。
確かに、子息のしでかしたことは国を亡国の危機たらしめるほどの重罪である。
しかし、バズーラ子爵がここで責任をとって自害したとしても国の命運は変えることが出来ない。
「いっそのこと、あの噂が事実であってくれたら何とかなったのやも知れないが……今は各国に散らばる我が国の冒険者貴族を呼び戻さねば。新たな火種が生まれる前に。そして同盟国と冒険者ギルド総本部に釈明をしなくては………やはり、バズーラ子爵にも交渉の席についてもらうほかないか」
それにしても。とグリニッジは思った。
(バズーラ子爵の小倅は、どうやって魔獣を魔物化させるほどの魔力を集めたのだ? 報告では魔石を使用したとあったが、バズーラ家の財力では数十匹に及ぶ魔物化させるのは些か無理がある)
しばらく考えていたグリニッジの脳裏に嫌な考えが浮かんだ。
「よもや、我が国に害を成さんとする者が潜んでいるのでは………調べてみるか」
国を守る、王として。
グリニッジは動き始めた。




