番外編 店主の気持ち
理由なんて大したことじゃなくてもいい。
面白い奴が来た。
雑貨屋を営む元冒険者、ヤフー。
今日訪れた小柄な客は、様々な意味でヤフーを驚かせた。
最初は少年だと思っていたら実は少女で、しかも成人していて成り立てとはいえ冒険者をしている。
それだけでも十分というほど彼を驚かせたのに、その少女は魔力持ちだったのだ。
“先祖返り”と思われる少女。
先祖返りの者達は両親とは違う特徴を持って生まれる場合がある。
あの少女は、最初、先祖返りという特殊な生まれのせいで両親に捨てられたのかと思ったが、彼女からは捨てられた者特有の悲壮感や絶望感。世の中に対する憎しみや恨み辛みが感じられなかった。
それどころか彼女から感じるのは生命力に溢れた力強さ。
彼女が髪や瞳を隠したがるのは人間にはない異種族独特の特徴が有るからではないかとも思った。そういった者は王族貴族に魔力持ちだと一発でバレる。
王族に知られるのは問題ないが貴族にバレるのは非常にマズい。今の貴族連中は自身の役目を軽視し、平民を蔑視して金にものをいわせて使役し、搾取する。何よりマズいのは、今の貴族連中は魔力持ちの出産率が低い。
国を守り、民を護る気高き生贄。
彼らは強くなければいけない、賢くなければいけない。にも関わらず、魔力持ちの出産率の低さと衰えは貴族連中の立場に大打撃を与えた。
だからこそ平民の魔力持ちを彼らは恐れる。
家柄と血筋にものをいわせ無理やり従わせるのはまだマシな方で、人質をとったり下手をすれば殺そうとするものもいる。だからこそヤフーは彼女に聞いたのだ、自分に話しても良かったのかと、すると彼女は呆れながらも答えてくれた。
『自分から聞いたんだろうが………別に構わないよ、私が隠したいのはあくまでも髪と瞳だけ。魔力持ちは知られても構わないんだ。そりゃあ厄介事は御免だが、新人とはいえ冒険者なんでね。戦闘になったら私は魔法を使う。一々隠すだけ無駄な手間だから、店主が話したいなら話していいよ。こっちはこっちで始末するから』
“始末する”その言葉にヤフーは背中に悪寒が走るのを感じた。
その言葉は言葉だけのものではない。
いずれ自分に対して害するであろう者達に対する紛れもない殺意。
店に入ってきた時から分かっていた。
彼女からは、隙が全く感じられなかった。
明らかに戦闘に精通しているのが一目で分かった。
ヤフーは彼女が魔力持ちだと知った瞬間、抱いた感情は彼女に対する憐れみ。ヤフーは心から彼女に同情した。
なぜなら彼女は女だ、貴族連中に囲まれ強い魔力持ちの子供を産ませる道具にさせらる可能性が高かった。……しかし、そんな憐れみや同情心なぞ彼女はいとも容易く吹き飛ばした。
『冒険者になった以上、貴族連中と関わるのは必然だからな。だから必要以上の情報と手の札は隠すけどそれ以外は全部自分で解決する問題だ。それくらいの覚悟はしているよ』
ヤフーは感嘆した。
確かに冒険者になった以上は王族貴族と関わるのは避けられないことだ。だからこそ彼女はむやみやたらに情報を隠すのではなく、不利にならない程度の情報をあえて表にだすことを選んだ。
先を見据えた考え、そしてこれから訪れるであろう未来。
芯の強さがそこにあった。
マジックアイテムの仮面を彼女に渡したのはきっと楽しみだったからだろう。
あの若さで殆どの者が辿りつくことの出来ない境地にすでに立っている彼女の行く末に。
少しでも輝かしい明日があるように、自分が夢を見たかったのだ。
冒険者として一生を終えることが出来なかった、己のように、未練を残さないで欲しかった。
他人からしたら理由にもならない、くだらない理由。しかし嘘偽りのない、ヤフーの気持ちであった。
「頑張れよ、嬢ちゃん」
呟かれた彼女への激励は人知れず消えていくのであった……………。




