第8話
一方方その頃、実彩はというと…………。
(こ……これは………!!)
雑貨屋にて触りのいい茶色の帽子をモフモフしていた。
(なにこれ、ナニコレ!? 何この手触り……!! サラサラ感が半端ないんだけど!)
めっちゃモフモフしていた。
(こっちに来てからの殺伐とした感情やそれに伴う疲労感が癒されていく! サラサラ~めっちゃサラサラ~~しかも、フワフワしている…………き~も~ち~い~──────!!!)
なんか軽く性格も変わっていた。だいぶ、疲れていたみたいだ。
(ニトもフワフワでモコモコなんだけど触らせてくれないんだよなー。マジックアイテムのリュックも生き物は駄目な癖に、鍼灸の針になったニトは収納可能だし………あれはアレで謎なんだよな)
最初は売り物である帽子を揉ん………触っている実彩に難色を示していた店主も実彩から放たれている喜色満面な気配に若干引き気味になり、今では呆れ顔で眺めていた。
実彩の触っている帽子はロシアの人や北極圏の人がよくかぶっている、動物の毛を加工して作られた耳当て付きの帽子だ。髪を隠すだけならフードだけでも大丈夫かと思っていたが………戦闘になった時。
頭巾でもないフードではいざという時脱げてしまう可能性が高いので、実彩は髪を隠せる帽子を探していたのだが………………。
「~~♪ ~~~っ!!!!! ─────♪♪」
春も終わりかけ、夏に近づいているのに冬真っ盛り満載の帽子を実彩は──────。
「店主! これ、いくらだ!?」
衝動買いした。
店主は、あっ、買ってくれるんだ。と思いながら実彩に話しかけた。
「どうせ売れ残ったものだから安くしとくよ。ところで坊主、あんた本当は何買いに来たんだ? その帽子見た瞬間にあんたすっ飛んでいったが、親から買い物でも頼まれたんじゃないのかい?」
「違う違う。もとから帽子を買いにきたんだよ。そもそも親はいないし(異世界にいるから)、一応自立してる」
「…………その、両方共亡くなったのか? 病気かなにかか………?」
店主はひどく驚いたようだった。
見た目からして浮浪児には見えないからだ。
そんな店主の様子を知ってか知らずか、実彩は帽子を手に陽気に答える。
「何か勘違いしている見たいだけど、私は成人しているよ」
「あ? そうなのか??」
実彩をマジマジ見つめる店主。
「ついでに言うが、私は坊主じゃなくて嬢ちゃんだ」
「ぶぅ!!?」
店主は吹き出した。
実彩は何でそんなに男に間違えられるのか、首を傾げる。
「え………あ? オンナぁ………?? マジか……」
「そんなに男に見えるんかい」
実彩は指をさしながら目を見開く店主に呆れてしまう。
「いや……だってよ。まぁ確かに言われて見れば女に見えなくはないか? でも胸が……つか、そんな格好じゃあ男に間違わられても仕方ないだろ」
「そうかぁーー?」
というか、途中で一部の女を敵にまわす言葉を言いかけなかったか? 私の気のせいかな??
実彩は手にしていた帽子をカウンターに置く。
「とりあえずこの帽子と。後は、春夏と夏秋で使える帽子は置いてあるか?」
「何でそんなに帽子が必要なんだよ。一年中被る気か? どんだけ帽子好きなんだよ、お前………」
店主は呆れながらも、ちょっと待ってろ、とわざわざ裏にいって在庫の確認をしてくれた。
そうして実彩は耳当て付きの春夏、夏秋用の緑色の帽子と赤色の帽子を購入した。
「ありがとね、店主。いや~いい買い物が出来たよ」
「こっちとしても、品物が売れるから別にいいけどよ。お前さん、まさかマジで一年中帽子を被る気なのか? 女ならオシャレに気を使うもんじゃないのか」
「あ~、私あんまりオシャレには興味ないんだよねー」
気のない返事をしつつ、実彩はさっそく帽子を被ろうとしたが、店主の目が気になりマジックアイテムのリュックの中に仕舞った。
「………ん?」
ふっと、実彩の視界に何かがかすった気がした。
そちらの方に視線を向けるとそこには、鈍い銀色の仮面が置いてあった。
「…………」
まるで惹きつけられるように仮面に近づく実彩。
手にとって見てみると、それは木で出来ていた。
おもむろに被ってみたその仮面は、ちょうど実彩の鼻が隠れる位の物だった。
パッと見、オペラ座の怪人の仮面を少し簡素にしたような感じだ。
「…………それが、気に入ったのか?」
「いや……、なんつうか。金属製かと思ったけど木製なんだな、コレ」
実彩はしげしげと仮面を眺めた。
「実はなソレ、マジックアイテムなんだよ」
店主は頭をポリポリ掻きながら話す。
「パッと見ただけじゃわかんねーが、使用者に一定の距離に近付いた人物の気配を察知させるスキルが備わっているんだが…………そのスキルを発動させる条件が常に装備している事と、発動している間は仮面に魔力を送り続けること、仮面に魔力を送っている間は他の魔法が使えなくなることの3つだ」
店主は実彩に向かって指を3本立てる。
「それはまた、何とも使い勝手の悪いマジックアイテムだな」
今、店主の言った内容が本当ならこのマジックアイテムはかなり使えない。
なぜなら、この仮面がどの位魔力を食うのかは分からないが自分が狙われているなどと言った状況でも内限りまず、使わないだろう。
実彩は森の中でセフィロトから貰った本に魔法と魔力についての記述が載っていたので、試しに自分が知識として知っている幾つかの魔法を使ってみた。
結果として、実彩は元の世界で目にしていたマンガやアニメのお陰で魔法を顕現するのに必要な想像力は高かったようで、大抵の魔法は一発で成功した。
しかし、(*この時、予想外の出来事に実彩は戸惑う事になったのだが)初めて魔法を使って分かったのだが、魔法は脳を酷使する。
魔法の発現の大部分に想像力を使うせいか、魔法を使った後は甘いものが欲しくて堪らなくなる程だ。
魔力操作自体は呼吸法を使うことによって大分身体に負担が掛からないようになったが、魔力操作も想像力を使って制御しようとすると脳がパンクしかかっているのではないか、という程の頭痛を味わう。
そして魔法と魔力は使うと疲労感を感じる。
これが割とキツイ。
倦怠感じみた疲労感は精神的にも堪えた。
(…………でも、私には割といいかも知れない)
何しろ、帽子で髪は隠せても顔までは隠せない。
この世界の人達はみんな西洋風な顔をしている。実彩の顔立ちはこの世界では幼すぎる。
しかし─────
(帽子に仮面…………不審者以外の何者でもってないよな…………)
容姿を隠すことを取るか、それとも髪だけ隠して素顔は晒すか。
(でも、喜與姉のこともあるから顔も隠したいんだよねーーー)
喜與姉こと“漆黒の武神二ケ”は大陸中の神殿に肖像画が飾られている。多くの伝説を残した喜與子は王侯貴族、平民異種族問わず慕われた結果らしい。
───喜與子とほぼ瓜二つの実彩からすれば迷惑極まりない話だが──────。
そういった訳で実彩は、出来ることなら顔も隠したいのである。
「おいおい。まさかお前さん、帽子どころか仮面までつける気なのか?」
「訳ありでね。出来れば容姿を隠したいんだよね」
「…………もしかして、お前さん魔力持ちなのか?」
「───どうして、そう思うんだ」
実彩は店主を見つめた。
なぜ店主は実彩が魔力持ちだと思ったのか。
店主は、大した事じゃねぇよと言った。
「基本魔力っていうものは血統によって伝えられる。これは知っているだろう? 王族貴族意外で魔力持ちなんていうのは貴族の隠し子、もしくは先祖に異種族と交あってその先祖返りぐらいだ。そして魔力の量や質っていうのは髪や瞳に反映される。明るい色なら明るい程、暗い色なら暗い程てな感じでな」
明るい色ならば、透明感があれば魔力の量が多くそこに光を纏っているような輝きがあれば質が高い。
暗い色ならば、深みがあれば魔力の量が多くて黒っぽければ質が高いのだ。
「今のところ、白金色と漆黒が最強の魔力持ちの証だ。本来なら平民はたとえ魔力を持っていたとしても、せいぜい指先にマッチよかマシな火を灯せるぐらいが関の山だが…………万が一、量と質の高い魔力を平民でありながら持っていた場合は」
「王族貴族に利用されないように隠そうとするってか」
いや、利用されるだけならまだマシかもしれない。
中には認める事が出来ずに命を狙う輩もいるだろう。あの鍋の具モドキみたいな貴族とかに。
だが野心がなく、むしろ権力や金に興味のない者達からすれば特権階級の干渉なぞ目障りなだけだ。
「私は一応魔力持ちだよ。…………別に貴族の落胤ではないけど(*異世界人だから)」
「はーん、やっぱりな。そうするってぇとお前さんは先祖返りってことか」
「……………まぁね」
それも違うけど。
「なる程。あー………今更だが俺に話しても良かったのか?俺が他の冒険者や貴族連中に話さない保証はねぇだろ」
「自分から聞いたんだろうが………別に構わないよ、私が隠したいのはあくまでも髪と瞳だけ。魔力持ちは知られても構わないんだ。そりゃあ厄介事は御免だが、新人とはいえ冒険者なんでね。戦闘になったら私は魔法を使う。一々隠すだけ無駄な手間だから、店主が話したいなら話していいよ。こっちはこっちで始末するから」
「スゲェ自信だなおい。返り討ちにする気満々か。そしてあくまでも隠したいのは魔力の量と質だけだと」
店主は実彩の傲慢とも取れる台詞に思わず笑った。
そんな店主に実彩はあっさりと言う。
「冒険者になった以上、貴族連中と関わるのは必然だからな。だから必要以上の情報と手の札は隠すけどそれ以外は全部自分で解決する問題だ。それくらいの覚悟はしているよ」
「女にしとくには勿体ないぐらいの漢気だな、お前。クックッ、気に入った!! その仮面は餞別に嬢ちゃんにくれてやるよ」
これにはさすがに実彩も驚いた。
「いいのか? マジックアイテムなんだろコレ、かなり貴重な品を餞別に貰うのは気が引けるし、逆に勘ぐりたくなるのだが…………」
「構わねぇよ、そいつは元々俺が冒険者だった頃に迷宮で手に入れた物なんだが、さっきお前さんが言ったように使い勝手が悪くてな。持て余していたんだが…………嬢ちゃんなら上手く使いこなせるだろう。これは冒険者だった俺から後輩に対する餞別だ、疑うのは良いことだがここは俺の気持ちを汲んではくれねぇか?」
「───質問の答えになって無いんだけど………」
怪しいとは思うものの、結局実彩は仮面をマジックアイテムのリュックの中に仕舞った。
「魔力持ちはどうゆうワケが髪と瞳の色を変えることが出来ないからな。帽子と仮面で隠すのは確かに目立つが、魔術師の多くがフードを被っているのは髪の色を隠すためだしな。それを考慮するとまぁ、悪くない考えだと思うぞ、俺は」
「目立つというより、不審者の間違えじゃね?」
「嬢ちゃん………自分で言ってて悲しくならないか?」
「………………………………………………………」
実彩はそのまま沈黙を返し、店主に料金を払ってお礼を言いつつ、店を後にした。




