8 初夏の子ども茶会②
皇宮が見えてくると胸中穏やかでいられなくなった。
一周目のお茶会では、ただ失敗しないようにと、それだけを考えて皇族方に挨拶をし、後はひたすら黙ってお菓子を食べ続けていた。
派閥に入るつもりもなかったし、その必要性も感じていなかったから。
でもその考えは間違っていた。この時友達を作っておくべきだったのだ。
この国の貴族令嬢は、十六歳になる年に社交界にデビューする。
皇宮で開かれるデビュタントで皇帝陛下に一世一代のご挨拶をするのだ。
誰もが憧れるデビュタントに、一周目は参加できなかった。
アイスバーグ侯爵家からデビューする令嬢は一人で十分という伯母様たちの判断で、私は連れていってもらえなかった。
だから、その後開かれた伯爵家の夜会が私の社交界デビューとなった。
子ども同士の茶会ですら、アイスバーグ侯爵家にくる招待状はコラレット宛ばかりで、どこの家も私とは付き合う必要はないと考えているようだった。
お母様も友人が少なかったので、私は友人を作るチャンスさえもらえなかった。
今回は同じ失敗を繰り返したりはしない。
貴族として生きていく以上、社交は必要。
そして人生を楽しむには友人は欠かせないもの。
皇宮は一周目の八歳の時と何一つ変わらず、美しかった。
広大な敷地の中にいくつもの宮殿が建っているので、4LDKの一軒家に住んでいた日本人感覚だと、ここ自体が一つの村に相当するように思えた。
――と、感慨に耽っていたら、お母様には緊張しているように映ったらしい。
「大丈夫よ、マリレーン。今日集まった方たちはみんな緊張しているはずだから。あなただけじゃないわ」
「はい。お母様」
「あらあら。本当に大丈夫なのかしら。マナーのレッスンはしていると聞いたけれど、お茶をこぼしたりしないでしょうね?」
娘を気遣う母親の言葉を、伯母様が台無しにしてくれた。
「それよりも、マリレーン。今日のあなたのそのドレスだけど、それっていったい誰の趣味なの? 流行も取り入れられないようだと、みんなに馬鹿にされるわよ」
ムッ!
それが可愛い姪っ子にかける言葉?
「スターシア。身の程を弁えるのは大切だけれど、卑下し過ぎてアイスバーグ侯爵家が他家から侮られても困るのよ?」
どっちなのよ!
あなたは一門の後継でもないし野暮だから、とお母様を貶しつつも、他家から同じように言われたら自分の面子が潰れるから、そこは毅然と振る舞って舐められるなよ、って言ってる?
ほんと自分勝手なんだから。
「本当に貧相なドレスよね。一緒に挨拶する私の身にもなってよ。こんなことなら私のお下がりでもあげるんだったわ。はあ」
――くぅ。
コラレットがわざとらしく大きなため息をつくと、伯母様までもが、「スターシア。準備ができなかったのなら、ちゃんと相談してくれたらよかったのに」と、私たちの努力にケチをつけた。
これは戦略なんだから。
女子からはライバル視されず、かつ、男子には印象的に映るよう考えてあるんだから!
「あら。着いたようだわ。コラレット、こっちを向いて……どこも乱れていないわ。さあ、いよいよね」
軽いノックの後、「アイスバーグ侯爵家の皆様、ようこそおいでくださいました」と、皇宮の使用人がドアを開けてくれた。
使用人の笑顔が眩し過ぎる。
そういえば一周目の時も、使用人たちの顔面偏差値の高さに驚いたんだった。
今回も、エスコート役のオーディションでもあったのかと思うほど、徹底してイケメンを選んでいる。
伯母様も満更でもない感じで使用人の手を取って、馬車を降りている。
コラレット、お母様、私と続く。
馬車を降りると、ずらりと並んだ馬車から令嬢たちが降りている様子が目に入った。
一周目と同様に、それぞれの家ごとに、皇宮の使用人が一人ずつ出迎えている。
「それでは皆様。会場までご案内いたします」
イケメンが微笑むと、なぜか私たちまでつられて笑顔になる。
あれ?
前回は確か、『なんとかの間』という名前がついている部屋に案内されたのに、今回は建物の中に入らないみたい。
建物から離れていっている。
歩きながら時々後ろを振り返って様子を確認してくれるイケメン使用人は、そんな風に不安に思っている私の気持ちを敏感に感じとったらしい。
「本日はガーデンパーティーだそうです。お茶会が初めての方がいらっしゃるので、開放的な雰囲気の方がリラックスして楽しんでいただけるのではないかと皇后陛下が企画されたそうです」
すごいなぁ。皇宮の使用人はみんなこんな風にデキる人たちなのかなぁ。
私も将来、こんな部下が欲しいものだわ。
様々な花が咲き誇る庭園の中を進んでいくと、会場が見えてきた。
下位貴族が先に会場入りするのが暗黙の了解となっているので、既に端のテーブルは埋まっている。
席はきちんと爵位順に決められているようだ。
皇族方のテーブルだけは他のテーブルと異なる装飾がされているので一目で分かる。
「皆様、どうぞ、こちらへ」
私たちが案内されると、既に着席している令嬢たちの視線が一斉にコラレットに注がれた。
ちょっと悔しい。
でも、女子が大好きな甘甘のデザインドレスを着ているのだから当然かもしれない。
私たちが着席したタイミングで入ってきた親子は皇族方の隣のテーブルに案内された。おそらく公爵家の方だろう。
さらにもう一組の親子が着席して、ゲストは全員揃ったみたいだ。
そうして私たちは皇族方のお出ましを待った。
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