7 初夏の子ども茶会①
私が週に四日も勉強をすると聞いたお母様は、ものすごく心配してくれた。
これまでは週二日、それも一回一時間のレッスンだったのだ。
「お父様ったら何をお考えなのかしら? どうしてマリレーンにコラレットと同じ勉強をさせるのかしら……」
お母様は、「嫌なら止めて構わないのよ? 私がお父様に言ってあげるから」と、しきりに私から、「嫌だ」という言葉を引き出そうとしていた。
進んで勉強したいと申し出る人間がいること自体、理解できないのかもしれない。
お母様も、「女性に学問は必要ない」と言い聞かされて大人になった人だものね。
「お母様! 私は嬉しいですよ? お祖父様が私に目をかけてくださったんですもの! それに、先生方も皆さん優しくて、とても丁寧に教えてくださいます。おかげで私は自分が頭が良くなった気がするのです」
「あらぁ。まあ! うふふ」
機嫌直してね。
お祖父様に変なことを言わないでくださいね。
「まあ、でも。来週まではお勉強もお休みね。しっかりマナーの復習をしましょうね」
「はい! お母様!」
そうなのだ。
新しい先生方と顔合わせ&実力チェックを行って、さあこれから頑張るぞという矢先、今週と来週は休講となった。
なぜなら、来週末に皇宮で開催される子ども茶会に招かれているから。
毎年、春の社交シーズンの終わりに、皇后が八歳から十四歳までの子どもを皇宮に招待して茶会を開催するのだ。
侯爵家より下の貴族の八歳になった貴族子女のお披露目の場でもある。
公爵家だけは独自に六歳でお披露目のパーティーを開催する習慣があり、それを特別なものとして敬う姿勢を見せ、侯爵家以下は独自でのパーティーを開催しないのがお約束だ。
ということで、私とコラレットはお披露目を兼ねた参加となる。
初めての正式なお茶会で、しかも場所は皇宮、皇后主催ともなれば、誰だってはしゃがずにはいられない。
伯母様たちの浮かれようといったら!
一周目同様、コラレットを飾りつけるために、二ヶ月前からドレスやアクセサリーを準備していた。
まあ、コラレットは金髪に黄色の瞳を持つ美少女なので、「うちの娘が一番綺麗だ!」と思う気持ちは分かる。
伯母夫婦の親の欲目ではなく、客観的に見ても彼女はかなりの美人なので、お茶会でも相当目立つと思う。
だからこそなのか、お茶会で何がなんでもいい縁を掴もうと家族総出で気合いを入れているのだ。
その努力はあながち間違いではないため、お祖父様も口を挟むことなく見守っている。
彼女はアイスバーグ侯爵家の直系の長子なのだから、皇后の目に留まらなくとも、高位貴族と親睦を深めることができれば家のためにもなる。
結婚相手として有望な少年に唾をつけることができなら万々歳だ。
年頃の令嬢たちに混じって伴侶を奪い合わないといけないのだから、どこの家でも似たような感じなのだろう。
一周目の記憶では、優良物件は確か――皇子二人を除けば二、三人しかいなかったように思う。
記憶が曖昧なのは、私がずっと受け身で積極的に社交をしていなかったから。
生活に困らないのなら、結婚相手は別に貴族でなくてもいいやと腹を括っていたのだ。
そんな私だけれど、二周目の今回は積極的に参加するつもりだ。
一門を率いるには社交は不可欠。
公私を問わず、知人や友人は多い方がいい。
私の顔と名前を売っておかなくっちゃ。
そうなると、コラレットと並んだ私はどうしても見劣りしてしまう。
オレンジがかった茶色の髪は、とても高貴とは言えない。もちろん日本人だった私からしてみれば、めちゃめちゃファンタジーな感じで大好きだけど。
でも瞳の色は自慢に思っている。
透明感のある青色。実はお祖父様の瞳と同じ色なのだ。
コラレットがピンクとホワイトのフリフリドレスを作っていると聞いたので、私は瞳の色に合わせて青色のドレスが欲しいとお母様にねだった。
甘ったらしいフリルを段々に入れるのではなく、上品なレースを使用してクールで知的なイメージのデザインにしてもらった。
もちろん流行のパフスリーブも無視して、袖口も広がらないようシャープにしたので、会場では逆に目立つはず。
お母様は、「本当にこれでいいの? せめてここに大きなリボンをつけてみたら?」などと、最後まで糖度を高めようとアドバイスしてきた。
ほんと我が儘を言ってごめんなさい。
でも似たようなことをしたら埋もれてしまうので。
結局、「やだ。やだ。こっちの方がいい」と子どもっぽく駄々をこねて、思い通りのドレスに仕上げてもらった。
◇◇◇ ◇◇◇
待ちに待ったお茶会当日。
皇宮へは一台の馬車で行くので、私とお母様はエントランスで伯母様とコラレットが来るのを待っている。
先に馬車に乗っていようものなら、皇宮に着くまで延々と嫌味を言われかねないから。
「あら、スターシア。今日は子どもしかいないというのに、あなた、随分と張り切っているのね」
ムカつく!
お母様が再婚相手を探しているとでも?
「それはもちろん、娘の初めての茶会ですもの。母親の私が足を引っ張っては申し訳ないでしょう? お姉様と同じですわ」
一周目では、お母様は伯母様に嫌味を言われてもニコニコと受け流しているだけだと思っていたけれど、どうしてどうして。
しっかり言い返すこともあったのね。
ふふふ。頼もしいわ。
「なんですって?! あなたと私が同じはずないじゃない! コラレットとマリレーンじゃ立場が違うでしょ!」
あー、でたでた。
このセリフはこの後私が家を出るまでずっと言われ続けるのよね。
「分かっています。ですが、今日がお披露目なのは同じではありませんか。さあ、参りましょう」
「フン! 分かっているならいいのよ。コラレット、行くわよ」
「はい、お母様」
ツンと顎を上げて私を睨んでから、コラレットが伯母様に続いて馬車に乗った。
続いてお母様と私が乗り込むと、馬車が皇宮を目指して走り出した。
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