4 お祖父様! 私を見て! ②
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すぐにケーキが三種類運ばれてきた。
案の定、ナイフは私の前に置かれた。
「このテーブルに八人の客が座っていて、お前の目の前にあるケーキを等しく切り分けて全員に配ろうとしたとする。だが一人だけ我が儘を言って、みんなの半分のサイズが欲しいと言ったならどうする?」
なあんだ。八分の一の半分ってことじゃん。
すごい。四人共、私の手がどう動くのか注目している。
初歩的な質問なので、サクッと回答してお母様の気分を上げてあげないとね。
「はい。ケーキのカットはしたことがないので、均等に切り分けるのが至難の業ですが、考え方を説明しますので、間違っていたら教えてください」
「ふむ。よかろう」
まず八等分するために半分にカットして、それらをさらに半分にカットした。
これで四等分。
一番近いところだけを更に半分にして八分の一カットを作る。
「これが本来、配られるサイズのケーキでした。ですがこの半分をご所望ですので、更に半分にカットします」
八分の一をカットして十六分の一を作った。
「うむ。大きさは正解だ。ならばその大きさを言ってみろ」
大人たちが緊張しているのがおかしくて笑っちゃいそう。
何をそんなに構えているのかしら。
「はい。八分の一の二分の一なので、十六分の一です」
「ほお」
お祖父様が感心したように目元を緩めたので、お母様は相当嬉しいらしい。
私の肩にそっと手を当てて微笑んでくれた。
「そ、それくらいは分数を習っていない子どもでも、実体験から答えられることではありませんか」
うわぁ。伯父様がムキになってお祖父様に噛み付くなんて珍しい。
「そうか? その理屈ならばコラレットもできるな。コラレット。お前の前にあるケーキで教えてくれ。今度は客は五人だ。八人よりも減ったから簡単だろう? 先ほどと同じように五人に均等にカットしたケーキを出そうとしたら、一人だけみんなの半分がいいと言ってきた。その大きさを答えてみろ」
「え?」
コラレットはまさか自分に話題が振られるなんて思ってもいなかったのだろう。
慌てて目を瞬いている。
「お父様! 急にそんな無茶を――」
「無茶ではない。パフィオができると言ったのだ」
わぁ。伯母様が伯父様を殺意を込めて睨んでいる。
「どうした? 早く答えろ」
もしかしたらコラレットは、自分は関係ないと思って、一連の会話を聞いていなかったのかもしれない。
今何が起こっているのかさえ分かっていない様子だ。
でもお祖父様に、「もう一度おっしゃて」なんて言えるはずもない。
「ふっ。いまだに二桁の計算なんぞをやっておるくらいだからな」
えぇぇ!?
お祖父様がコラレットを、というか、伯母様夫婦を馬鹿にした?
このままだと私に負けたことになると焦ったのか、伯母様がコラレットに無茶振りをした。
「コラレット! まずはケーキを切ってごらんなさい。大きさが合っていればいいのよ!」
どういう理屈?
「コラレット! 五人で分けるの、五! 五よ! 五!」
伯母様の圧に負けたコラレットがナイフを手に取り、ケーキを切り分けた。
「五」という数字だけを頼りに五等分したけれど、大まかな目安もなしに切っていったため、一番小さいピースと一番大きなピースでは倍くらい大きさが違う。
五等分できたところで、伯母様が中間くらいの大きさのケーキを別皿に移し、コラレットに迫った。
「さあ、これの半分よ。さっきマリレーンは十六分の一って言ったの。これはどう見える? 何分の一? 数字を言ってごらんなさい」
無茶だと思う。
分数を教わってない子には無理だわ。
それでも鬼の形相の母親の手前、黙っていることはできない。
ちょっとコラレットがかわいそう。
「うーん。十四? あ――」
母親の表情から違うと察して、彼女は言い直した。
「えっと。十二?」
クイズじゃないんだから。
何度訂正しようが、もう分かっていないってバレてるわよ?
「十一かな?」
たまりかねたお祖父様が、「マリレーン」と私の名を呼んだ。
正解を言ってみろってことですね。
「はい。五分の一の二分の一なので、十分の一です」
「理解しているようだな」
「ありがとうございます」
「数字が好きなのか?」
「はい。数学は楽しいので、もっと色々と学びたいです」
「そうか」
お祖父様はそれだけしか言ってくださらなかったけれど、大満足だ。
おそらく今までは凡庸な娘だと思われていた私。
でも今夜、ごくごく小さくはあるけれど、キラリと光るものがあることを、お祖父様に分かっていただけたと思う。
数字のセンスがあるのだと。
ビジネスに数字はつきもの。というか必須。
決算書の読めない経営者がどこにいる?
だから、私は鍛え甲斐があって、成人した暁には商会で働かせてみたいものだと思わせることができたら勝ちなのだ。
ふふふ。
二周目の人生の最初の一歩としては上出来だわ。
――おっと。
アンジェリカ伯母様が鬼の形相で私を睨みつけている。
言葉は発していないのに、「お父様の前で、よくも私の娘に恥をかかせてくれたわね!」と叫んでいるのが聞こえてくるようだ。
いや、逆恨みも甚だしい。
違うでしょう?
私を恨むんじゃなくて、娘を甘やかしたことを反省するべきでは?
コラレットは先生が来た時しか執務室を使っていない。
つまり、予習も復習もしていないんだと思う。
コラレットの教師陣はお祖父様が厳選したのだから、当然、彼女の得意分野や理解度、学習態度に至るまで、全て報告されていると思う。
お祖父様の目には彼女はどう映っているのだろう。
これから徐々にアピールしていけば、いずれはコラレットと同等の教育を受けさせてくれるかしら?
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