27 プレゼン
「今日はわざわざこのように時間を取ってくれてありがとう。大勢集まってくれたのね」
「お嬢様のご要望通り、女性の意見も聞けるよう集めました。女性向けの商品をお考えでしたね」
モサムが気さくに私に話しかけただけで、全員がギョッとしているのが面白い。
まあ彼はすっかり私に慣れているものね。
「ええ、そうなの。これまでにない商品を今までにないやり方で売ってみてはどうかと思っているの。だからできるだけ先入観を持たずに聞いてもらいたいわ」
「かしこまりました。まずは皆でお嬢様のお話を聞かせていただきます」
「ありがとう。じゃあ、この資料を――ええと、そうね。二、三人で一枚なら全員に行き渡るかしら」
実はプレゼン用に使うイラストをフラウに描いてもらったのだ。
追加で仕事を依頼するつもりだったのに、彼女に全力で断られてしまった。
サービスということで、ごくごく簡単なイラストを十枚描いてもらった。
「コホン。女性向けの商品を開発するにあたり、まず初めに、そもそも女性が求める物とはどのような物なのか改めて考えてみたの。男性には理解してもらえないかもしれないけれど、まあ聞いてちょうだい。男性も、私たち女性が噂話が好きなことは知っているわよね」
テーブルに座っている男性たちも思い当たる節があるようだ。
どちらかというとマイナスイメージなのか、「あぁ」と忌々しそうな顔をする人がちらほらといる。
「中には人の不幸話が好きな人もいるけれど、大抵はロマンチックな話が好きなのよ? 平凡な女の子が、誰もが羨むような男性と結婚した話とかね。そんなことは小説の中だけだと思いながらも、自分にもいつかそんな素敵なことが起きたらいいなと願ってしまう生き物なの」
男性陣はリアクションに困っているみたい。
八歳の子どもの口からこんな話を聞かされると脳がバグるわよね。
まあまあ。
「その証拠に、今若い女性の間では赤いリボンが流行っているわ」
男性陣がポカンとしているので、説明することにした。
「巷で不動産王と言われているあの名家に勤めていたメイドが、次男に見初められた話は知っているでしょう? 初孫誕生を祝って、使用人たちにも特別にワインが配られたそうだけど、そのラッピングの赤いリボンで髪をまとめていたメイドが次男の目に留まったのよね」
これは度々街に繰り出した成果だ。
やけに赤いリボンをしている人が多いな、と思って侍女に聞いてきてもらったのだ。
立っている女性たちの中にも数人が赤いリボンをしている。そして顔を真っ赤にしている。
ごめんなさいね。
「まあ、これはほんの一例よ。つまり、『○○したら△△になる』という幸せなストーリーを提示すると、女性はついつい○○に食いついちゃうという訳」
テーブルに座っている数人の口から、「ほう」とか「へえ」という声が漏れた。
「そこで私は、『○○したら△△になる』という幸せなストーリーとセットで、『○○』を売り出すことを考えたの。その商品が先ほど配布した資料の①よ」
資料①は、十七個の透明なガラス玉と、三個のローズクォーツでできたブレスレットのイラストだ。
「ピンクの石はローズクォーツという宝石よ。見た感じもとても愛らしいでしょう? ローズクォーツには『真実の愛』という宝石言葉があって、古くから『恋愛が成就する』との言い伝えもあり、『恋愛のお守り』として身に着けられてきた歴史があるの。これは私が都合よく言い出したことではなくて、ちゃんと出典となる書籍があるわ。過去に出版された説話集の中には、素敵な恋愛がしたいと願ってローズクォーツを身に着けていたところ、見事にその願いがかなった、という話もあったわ」
うふふ。女性陣はすっかり心を奪われている様子。
たくさんの物語の中からこういう話を探すのは大変だったんだから。
みんな興味津々にイラストに見入っているわね。
「ただ、私が読んだ本の物語だと、淡々とした文章であまり読み応えがなかったのよね。だから私が少しばかり手を加えて、よりロマンチックに心に訴えかけるような物語を再構築したの。再構築したものは、こうして本にして出版したわ」
「えっへん」と腰に手を当てて自慢したかったけれど、そこは我慢して、「これよ」と本を掲げてみせた。
「え?」と声を出したのはモサムだ。
「ええと。お嬢様。その本はお嬢様がお書きになったのですか? 出版されたと?」
「そうよ。どうぞ、見てちょうだい」
そう言ってモサムに渡すと、隣に座っていた男性たちも立ち上がって彼の側に集まり一緒に覗きこんだ。
あまりに真剣にページを捲るものだから、プレゼンが中断してしまった。
……どうしよう。
「コホン。その本はもともと発売が決まったらホーリード商会に寄贈しようと思っていたものだから置いて帰るわ。後でゆっくり読んでちょうだい。それに、資料②にストーリーを抜粋したものを転記しているから、今はそちらを見てちょうだい。続けていいかしら?」
「あ、はい。大変失礼いたしました」
「――つまり、これで、『○○したら△△になる』の部分は信憑性が高まった訳でしょう? あとは、このストーリーと一緒に、本で紹介されているパワーストーンでできたブレスレットを販売するの。恋愛が気になる人にはローズクォーツを、幸運のお守りが欲しい人にはラピスラズリといった具合にね。まずは資料③にあるように、恋愛のローズクォーツ、幸運のラピスラズリ、癒しのムーンストーンの三種類から始めるのはどうかしら?」
「……」
モサムはまだ思案中のようね。
まあすぐには無理よね。
「手頃な値段で、アクセサリーも兼ねた素敵なパワーストーンのお守りが手に入るなら、買ってみたいと思う人がきっといると思うの。そこで、まずはどれくらいの需要を掘り起こせるか、サンプルを作ってアンケートを取ってみてはどうかしら。そこで反応が良ければ少量でスタートする。その際は、資料にあるイラストの①や②を商品と一緒に置くことで、視覚から直感的にどんなご利益があるのか、今の自分に必要なパワーストーンは何なのかが分かるはずよ」
ふう。どうかしら?
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