26 書籍発売
フラウの攻撃をなんとかかわしてラフ案が固まると、十日ほどで、「完成した」と彼女から連絡があった。
こうして無事に原稿が完成したところで、最後に決めなければならない問題が一つ。
ペンネームだ。
アイスバーグと記載する訳にはいかないので、それっぽい作家の名前にしたいのだけれど。
……うーん。
前世でこういうジャンルの本って、どういう人が書いていたっけ?
占い師っぽい名前の方がそれらしいかな?
マダム何とか。
マダム マリレーン? これだとペンネームにした意味がない。
あ。マリレーンじゃなくてマリンは?
『マダム マリン』。これで決まりね。
◇◇◇ ◇◇◇
校正も終わり無事に印刷に回すことができたとサジスから報告をもらってから一週間。
今日は完成した本をサジスが納品に来てくれた。
応接セットのローテーブルに十冊の本が積まれると感無量だ。
「いかがでしょうか。装丁もご指示通りにいたしました。落丁もございませんし、なかなかの出来上がりだと思うのですが」
なかなか?
ものすごくいいと思うわ!
この世界の標準仕様の装丁がそもそも重厚感があるので、薄くしていてもかなり見栄えがいい。
手にとってみると、子どもの私でもそれほど重さは感じない。
表紙を開くと、タイトルが美しいフォントで記載されていた。
『あなたを幸せにしてくれるパワーストーン』
印刷されたページに触って手垢がつくのが怖い。何だか神々しさを感じる。
それでも、息を殺して、そっと摘んでめくってみる。
フラウのイラストが見事に再現されていた。
これは絶対に目を引くこと間違いなしだわ。
この世界の書籍は、まだまだ平民が気軽に手に取れるような代物ではないので、ベストセラーは生まれないけれど、ただの記念出版が目標だった私には十分過ぎる出来だわ!
「ありがとう。文句のつけようがないわ。とてもいい取引ができて大満足よ」
「……! そう言っていただけると嬉しいです。他にも書籍にしたい原稿がございましたら、いつでもご依頼ください。お待ちしております」
サジスが心底安堵した表情を見せたので、もしかしたら納品を拒否する顧客がいたのかもね。
「では、こちらを」
用意していた代金を支払うと、サジスが「失礼いたします」と数えて、「はい。きっちりちょうだいいたしました」とニッコリ微笑んで領収書を切った。
サジスへ支払った分は、ちゃんと「広告宣伝費」と帳簿に記載しておかないと。
お祖父様が執務室に金庫を置いてくれたので、いちいち銀行に行かなくてもよくて助かった。
「ところで、どちらの書店で販売されるか、もうお決めになっていますか? 内容を拝見しましたが、大変よく書けていました。文章も読みやすくて内容も面白かったです。これでしたら私からご紹介もできますが」
ん? もしかして、私じゃなくてゴーストライターが書いたと思っている?
まあ、そうよね。子どもの書く文章とは思えないわよね。
でも、どうしようかな。
書店で販売することは考えていなかったけれど、一、二冊でも販売実績があるに越したことはないかもね。
「そう? それでは五冊ほどお願いしようかしら」
「かしこまりました。では私が規模の大きな書店を選んで納入させていただきます。そうなりますと、書店の仕入れ代金を私が建て替えてお支払いしたいのですが、書店への卸価格はおいくらにされますか?」
えっと。
原価は一冊あたりだいたい銀貨二枚と銅貨三十枚だから、卸価格は銀貨三枚くらいかな?
「銀貨三枚にするわ」
「かしこまりました。それでは五冊分の銀貨十五枚です。よろしければこちらにサインをお願いします。それと受け取りの証となるものをいただけますでしょうか」
簡単な領収書を手書きすると、本当に取引をしたのだと実感が湧いてくる。
原稿を執筆したおかげで、自然と字が上手になっていた。
まだまだ拙いものの、恥ずかしくはないレベルだと思う。
「はい。確かにちょうだいいたしました」
なんだか握手でもしたい気分だわ。
もちろん貴族と平民だからしないけど。
さあ! これで準備は整った。
モサムの商人魂を揺さぶるプレゼンをしなくてはね!
◇◇◇ ◇◇◇
モサムはちゃんと約束を守って、私がプレゼンを行う時間を取ってくれた。
いつもの部屋に通されると、壁際に十数人が立って、私を待ってくれていた。
プレゼンは会長のモサムに対して行うものの、内容は女性向けの商品なので、女性従業員や、従業員の家族など、気軽に意見を言える女性を入れてほしいと要望しておいたのだ。
彼女たちは緊張しながらも、どことなく興奮気味に見える。
会長と一緒に会議をするのが初めてだからかしら。
……あ、私か。
そしてテーブルについている人たちが、この商会の意思決定メンバーなのね。
いよいよここから、私の輝かしい商人人生が始まるのね。
『ブックマーク追加』と下にある☆☆☆☆☆評価をよろしくお願いします。




