18 詐欺事件④
騎士たちが詐欺師に詰め寄ると、詐欺師は涙を流して慈悲を乞うた。
「ど、どうか! どうか! お待ちを これには訳が、きっと訳が! ひえぇぇっ‼︎」
お祖父様が命令するまでもなく、騎士たちは詐欺師をロープで縛った。
伯父様はなすすべもなく呆然としている。
そんな伯父様にお祖父様が厳しい眼差しを向けると、伯父様が口をパクパクさせて何かを言おうとした――が、発言させてもらえなかった。
「パフィオ!」
「ひゃっ、はっ、はい!」
「お前は責任を持ってその男を衛兵に引き渡してこい」
「は、はい。行ってまいります」
ぎこちなく歩くパフィオを先頭に、簀巻き状態の詐欺師が両側から騎士に牽制されながら歩いて行く。
一行の姿が見えなくなると、お祖父様が穏やかな表情で私の頭を撫でてくれた。
「マリレーン。疲れただろう。サロンでお茶を飲むとしよう」
ランセが軽く会釈してスッとこの場を離れた。
諸々の準備をしに行ったのだろう。
◇◇◇ ◇◇◇
「お前はサロンは初めてだったな」
「はい」
サロンは大人たちしか入れないところなので、八歳の私はもちろん初めてだ。
後でお母様に話したら、きっとものすごく驚くと思う。
目の前には、紅茶と焼き菓子とフルーツが並べられている。
「ははは。緊張する必要はない。ここは日当たりもいいし、本来はのんびり寛ぐ場所だからな。遠慮せず好きなものを食べなさい」
「はい」
この世界の夏は日本の夏とは大違いで、どんなに暑い日でも気温が三十度を上回ることはない。
なので、天気のいい午後に燦々と日差しを感じられるサロンにいても快適だ。
中庭と違って、サロン専用の美しい庭園が目を喜ばせてくれる。
景色をうっとりと眺める八歳児。ちょっと変かな?
それでもお菓子を勧められたので、遠慮せず口に入れると、そのあまりの美味しさに、もきゅもきゅと夢中で食べてしまった。
疲れていたせいかもしれない。
どうしよう。マナー違反? そんな風におっかなびっくりお祖父様を見ると、大丈夫だよと微笑んでくださった。
ひとしきり食べて私が満足したことを見てとったお祖父様が、ようやく切り出した。
「マリレーン。さすがに私も驚いたよ。事の経緯を詳しく聞かせてくれるか?」
「はい。お祖父様」
一応、それらしいストーリー設定は考えてある。
「リドレイ先生から特別課題を出されたのですが、経済活動をするにあたり、経験のない私は、まずは実際の状況を――人々の購買行動を観察するところから始めるべきだと考えたのです」
「ほう」
「さすがに貴族家は無理なので、街に行き、平民の様子を観察することにしました。目立つ商店があったので、私も入店して商品の品揃えなどを見ておりましたら、どこか変わった雰囲気の男性が店に入って来たのです。それが先ほどの伯父様のお客様でした。屋敷の中で見かけた時は驚きました。あ、話を戻しますね」
「うむ」
お祖父様は両手を軽く組んで真剣に私の話を聞いてくださっている。
ちょっと照れるな。
「その商店ですが、ホーリード商会というところの本店でした。私を案内してくれたのが、商会の会長であるモサムさんの息子のロビウムだったのです。ロビウムから聞いたのですが、その男性は隣国から来て取引相手を探しているというのです。さすがにお祖父様が率いるアイスバーグ商会に飛び込みで商談を持ちかけてくることはないと思いましたが、もし私が商会を経営していて、そこにあのような方が現れたとしたら、私は自分が何をすべきなのか考えました」
「ふむ」
「信用できる人物かどうか調査を行う必要があると思ったのです。そこで、実際の商会ではどんな調査をしているのか、ロビウムに会長のモサムさんを紹介してもらって尋ねたのです」
「なるほどな」
「そうしたら、『商会組合』を利用して調査をするのだと教えてくれました。そこで、これを教材とすることを思いついたのです。私が自分の商会を運営するつもりで実際に信用調査をしてみようと」
「ん? ではお前があの男の信用調査を行ったのか?」
「はい。隣国から来たという話はロビウムから聞いていたので、似顔絵を描いてもらい、取り急ぎ隣国で問題行動を起こしていないかどうかを調査してもらいました。何もなければ、商談に臨んでよい相手ということになりますから」
お祖父様が今にも笑い出しそうなほど顔を綻ばせている。
「調査費用は金貨二枚でしたが、モサムさんによれば妥当な額だそうなので、彼を信じて支払いました。ただその結果が、まさか隣国でも指名手配されている詐欺師だったとは驚きましたが。事情が事情なので、調査結果はモサムさんにも共有しました。モサムさんからは、組合に加盟している商会にも情報を提供したいので調査料の半額を負担することで許可してもらえないかと言われたのです」
一昨日、速報と一緒にその旨の手紙をもらっていた。
ロビウムに金貨まで持たせていたので、私が断ることはないと踏んでいたのだろう。
「ほほう。そうか。ならば、アイスバーグ商会としても謝礼をせねばな。金貨十枚でどうだ?」
……え?!
金貨十枚?!
「ははは! そんなに驚くことはない。情報に対する謝礼だ。情報料というのは高いものだからな。私を信じてくれるなら、相場に色をつけた額だぞ?」
「信じます! もちろんです! あ、それでは私の銀行口座に入れてください。そうすれば日付と金額が記録されますので。一年後の評価の際に振り返りやすいと思います」
「ははは! そうだな。確かにそうだ。では望み通りそうしよう。それと。これは報酬とは別にお前への小遣いだ」
「お小遣いですか?」
「ああ。課題に一生懸命取り組んだご褒美だ」
「うわあ!」
そうして私は銀貨一枚を受け取った。
結果として、金貨一枚の元手で金貨十枚を儲けたことになる。
利益率九十パーセントって脅威の儲けじゃない?
おまけに、お祖父様の関心を引くことに成功した。
確実に一周目の人生とは別の道を歩み始めている。
この道を行けば、きっと後悔しないで済むはず。
まっすぐ突き進んでやる!
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