17 詐欺事件③
お祖父様の威嚇とも取れる顔つきと視線を全身で受け止めて、逃げずに立ち向かって見返したら、「こちらに来なさい」とチャンスをもらえた。
「義父さん! 今はそんな子どもを相手にしている場合では――」
「黙れ」
「……う」
相変わらず伯父様はお祖父様の威圧に弱いんだから。
そのくせ、自分より弱い者には強くでる卑怯者。
伯父様が黙った隙にお祖父様に伝えようとしたら、詐欺師本人が嘘くさい笑顔で私に微笑みかけてきた。
「これはこれは侯爵家のお嬢様ですね。お初にお目にかかります。私ははるばる隣国から参りましたエピランサ・スパーバムと申します。どうぞお見知りおきください」
……こいつ。相変わらず胡散臭い顔。
「子ども相手でもちゃんと礼儀正しく挨拶してあげたよ。満足だろ?」とでも言いたげだ。
そんな奴に名乗ってやるつもりはない。
「こんにちは」
あ。カチンときてるわね。
詐欺師のことは無視して、お祖父様に駆け寄って、例の速報を差し出した。
お祖父様は、丸まっていた速報を広げてサッと目を通すと、明らかに顔つきが変わった。
お祖父様の表情を正しく読み取れなかった詐欺師が軽口をたたいた。
「コホン。侯爵閣下。お嬢様の成績表か何かでしょうか? さぞかし優秀なのでしょうね。ですが、そろそろ大人同士で先ほどの続きを――」
お祖父様が鬼の形相で制した。
「黙れ! エピランサ・スパーバム! いや、クノチェス・エマリアか? それともデンドラム・パーロットと呼んだ方がいいか?」
「なっ! なっ! 何を――急に何を――」
詐欺師の顔から血の気が引いている。
「ランセ! いるか」
ランセがドアを開けて返事をした。
「はい。旦那様」
え? お祖父様の商談中は、ランセっていつもそうやって控えていたの?
「騎士たちを中庭に呼べ!」
「はい。かしこまりました。では直ちに」
ランセはそれだけ言うとドアを閉めた。
「マリレーン。お前も一緒に来なさい」
「はい。お祖父様」
「え? 義父さん? 何ですか? 一体どうなって――」
「パフィオ。お前はその男を逃がさないよう連れてこい」
「へ? あ、はい」
何も理解できなくてもお祖父様には従わないといけないと刷り込まれているから、伯父様はほとんど条件反射でガシッと詐欺師の腕を掴んだ。
◇◇◇ ◇◇◇
中庭に出ると、既に騎士たちが集合していた。
我が家の騎士たちをこんな間近で見たことがなかったけれど、みんな背が高くて強そうだ。
侯爵家の騎士団てすごいのね。
詐欺師の目にも同じように映っているみたいで、プルプルと震えている。
「ぱ、パフィオ様。どうか手をお離しください。どういうことでしょうか。私には何が何だか――」
詐欺師は何とか手を振り解いて逃げようと足掻いているけれど、お祖父様の叱責を恐れる伯父様の恐怖の方が勝っている。
数人の使用人が、第一応接室のテーブルの上にあった金製品を中庭まで運んできた。
「あ! そんな素手で触るなんて! ちょっ、ちょっと! 気をつけてください。もしもの時には全部買い取っていただきますよ!」
すごいな、詐欺師。ここにきてもまだシラをきるつもりなの?
「黙れ! お前の言う通り純金でできているなら、望み通り全て言い値で買い取ってやろう。だが――。もし小細工をしてこの私を騙そうとしていたなら、どうなるか分かっているな?」
「ひっ、ひぃ。わ、私を、お、お疑いですか? ならば私の方で証明してみせます」
詐欺師はパッと伯父様から離れて、手のひらに載るサイズの猫の置物を手に取った。
こういう時のため用の商品なのだろう。
「まず、これは金メッキです。どうぞご覧ください。この通りです」
詐欺師が震えながらメッキを削ると、すぐに灰色の地がのぞいた。
「そして、こちらは純金です! 同じように削っても、どうです? 金のままでしょう?」
薄く塗ったメッキと厚く塗ったメッキの違いじゃないの。
こんな子ども騙しがこれまで通用していたの?
あぁ――。そうだった。
うんうんとうなずいている伯父様には通用したんだったわ。
でも、お祖父様はそうはいかないはず。
「団長」
「はっ!」
「これを二つに割れ」
お祖父様は十五センチくらいの乙女の像を指差した。
「はっ」
「……‼︎ なっ、おやめください‼︎」
詐欺師の言葉が届くはずもない。
精悍な団長は無慈悲に剣で像を真っ二つにした。
ゴロンと左右に転がった像の中身は灰色の石だった。
「ひぃぃ‼︎ わっ、私は違う‼︎ だっ、騙されたんです‼︎ 私も被害者です‼︎」
詐欺師は真っ青な顔でブルブル震えているけれど、一周目でどれだけの損害を被ったのか思い出すと同情なんてできない。
◇◇◇ ◇◇◇
一周目では伯父様が全責任を負うと豪語して、金製品を扱う新事業を立ち上げた。
あの詐欺師は、侯爵家の威信を借りたことで面白いように紛い物が売れると、大胆にも様々な偽造品を伯父様に輸入させた。
取扱量をさらに拡大しようとした矢先、見栄で買ったものの財政難に陥ったどこかの男爵が転売しようとして、転売先に紛い物と見破られたのだ。
そこからは蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。
お祖父様が直々に男爵に謝罪し、色をつけて買い戻すことで彼の口を封じた。
他も同様にしてお祖父様が揉み消したけれど、相当なお金をばら撒いたはず。
それでもどうしたって噂は漏れでてしまうもので、「アイスバーグ商会が詐欺にあったらしい」と同業者だけでなく、顧客である貴族たちの笑い者になってしまったのだ。
しばらくは家の中の雰囲気も最悪だった。
だから私は絶対にあなたを許さない。
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