断章「登場人物・用語集」
『凪の轍』の世界観と登場人物をまとめたページです。物語を読み進める中で参照用としてお使いください。ネタバレは含みません。
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## 世界観
本作の舞台は二〇六〇年代初頭の日本。陸海空すべての物流はAI最適化ネットワーク「NERVA」のもと完全に自動化され、人間による手動運転は法律で原則禁止されている。教習所も運転免許制度も過去の遺物となった社会で、ある日、NERVAが沈黙する──。
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## 用語集
### NERVA
正式名称:Networked Engine for Routing, Vehicles & Autonomy(ルーティング・車両・自律制御統合エンジン)。日本の陸海空物流および一般車両の交通管制を統合するAI最適化ネットワーク。全国の自動運転車両、自律航行コンテナ船、配送ドローンをマイクロ秒単位の精度で管制し、「社会の血管」と称される。
### 日環ロジスティクス・グループ
旧社名:日本環太平洋物流株式会社。自動運転が生んだ大不況の結果、全国の物流事業者が一斉に合併して誕生した巨大コングロマリット。陸海空すべての物流を一手に担う。合併時の名残で略称「日環」が定着している。本社は千代田区、コントロールセンターと関東圏物流ハブを兼ねた主要拠点は埼玉県新座市にある。自動運転トラックを大小合わせ全国で二十万台運用する。
### via
米国系クラウド事業者が展開するクラウドサービスの名称。ラテン語で「道」の意。NERVAのクラウド基盤を提供する。宗国リージョンでのAIインフラサービスが先行して展開されていたが、日本国内リージョン(東京・名古屋)での同等サービスの提供開始は大幅に遅れていた。
### 宗国
架空の国家。略称「宗」。英略称:GASS。正式名称:アジア大宗主国(The Greatest Asian Suzerain State)。二〇六〇年代において日本を大きく上回る経済規模を持ち、viaのサービス展開でも日本より優先されていた。周辺国家への侵略と統合に野心を抱く独裁者の一族が、百年近くにわたり王政を敷いている。
### 印西ナショナルDCハブ
千葉県印西市に所在する国家統合データセンター。NERVAの国内オンプレミス拠点が置かれていたが、事業仕分けによるオンプレミス廃止政策の下で段階的に撤去された。
### 銀嶺号
荒木健三が所有する旧型ディーゼルトラック。キャブオーバー型の中型車両。銀色の塗装は経年で剥げが目立つ。前後左右独立制御のエアサスペンションを備え、荒木の神業的な操作により過酷な山岳路でも走行可能。百五十リットルの燃料タンクを持ち、満タンで約九百キロの航続距離を持つ。自動運転時代において手動運転が可能な、数少ない現役車両のひとつ。
### 西日本大震災
物語の約三十五年前に発生した巨大地震。南海トラフを超える規模で、名古屋以西に壊滅的被害をもたらした。二〇六〇年代初頭の時点でも西日本は完全復興に至っておらず、復興過程で自動化に全面対応したことが、後のNERVA崩壊時に被害を拡大させる一因となる。
### デジタル主権法
NERVA崩壊後の政権交代を経て制定された法律。国家の重要インフラにおいて、国内複数拠点への分散アーキテクチャとオンプレミス・クラウドのマルチ構成を法的に義務化する。
### ヒューマンバックアップ制度
デジタル主権法の一環として導入された制度。各地域に手動運転可能な予備車両と、訓練を受けた人員を配置する。自動化システムの停止時に人の手で最低限の物流・交通を維持するための安全網。
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## 登場人物
### 主要人物
#### 早瀬 凪
三十一歳。女性。日環ロジスティクス・グループ陸上輸送部門の現場主任。新座拠点勤務、清瀬市在住。冷静沈着で論理的な合理主義者だが、一度見聞きしたことをほぼ忘れない驚異的な記憶力を持つ。同僚たちからはその能力を「バグ」と呼ばれている。NERVAの全国道路データ──旧道・林道に至るまで──を業務の傍ら読みあさり、ほぼすべてを記憶している。その動機の根底にあるのは、伝説のトラック乗りだった祖父・早瀬源蔵への憧れ。
#### 荒木 健三
七十二歳。元長距離トラックドライバー。現役時代は配車・ルート選定もこなし、「走る管制塔」と呼ばれた。凪の祖父・源蔵とは同じ運送会社で働いた仲。自動運転全盛期に職を失い年金生活に入ったが、旧型ディーゼルトラック「銀嶺号」だけは手放さなかった。往年の手動運転免許は既得権益として失効しておらず、合法的に手動運転ができる数少ない民間人。寡黙だが、要所で発する言葉には重みがある。
#### 佐伯 信吾
五十四歳。国土交通省自動運転戦略室の室長補佐。温厚で地味な印象の官僚だが、その内面には鋭い危機意識と度を超えた心配性がある。岐阜県荘川の出身。口癖は「こんなこともあろうかと」。
#### 鶴見 洋一郎
六十三歳。現政権の幹事長を務める実力派政治家。事業仕分けを主導し、NERVAのオンプレミス拠点廃止を断行した。技術への理解は浅く、リスクを指摘する声を握りつぶしてきた人物。
#### 早瀬 源蔵
凪の祖父。故人。西日本大震災の日に荘川から旧国道を辿って福井・兵庫方面まで救援物資を届け、「業界の神様」と呼ばれた伝説のトラック乗り。その後、蓄積疲労が祟り居眠り運転による高速道路多重事故で死亡。この事故は手動運転の限界を社会に突きつけ、自動運転義務化とNERVA構想を加速させた。凪の回想と荒木の語りを通じてのみ登場する。
### その他の人物
#### 宮田
二十代半ば。日環ロジスティクス新座拠点の配車管理担当。凪の部下。生まれたときから手動運転が存在しない世代。正義感が強い。
#### 河野
三十代後半。女性。日環ロジスティクス新座拠点の管制要員。経理部門からの異動組。崩壊後は凪とともに緊急支援所の運営にあたる。




