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 -4 『魔法?』

「こっそりあの筋肉馬鹿育成所に通ってて、私に運動を押しつけようとしているのかと思ったわ」

「そ、そんなことないですよ……あはは」


 屋敷を出たお嬢様は僕を引き連れて大通りを歩いていました。


 今日は週末ということもあり人通りは多いです。老若男女様々な人混みの横を、たくさんの荷物を積んだ馬車の商人たちが数多くが通り過ぎていきます。


 マレスティの町は交易路の途中にあるため物流も盛んです。人の行き交いがとても多く、出歩いている人間の三割ほどは町の外からやってきた人です。


 遠くから商売をしにきた商人。ちょっと離れた村落から買い物にきた村人。そんな人たちが集まることもあって、町の中心部にある大通りはたくさんの人でごった返します。


 最も栄えているのは町の内外からよりどりみどりの品物が揃う市場ですが、大通りや路地の途中にあるいくつかある広場もそれに負けず劣らずの人混みができます。


 その群衆の目的の一つは、広場のいたるところでそれぞれに公演をしている大道芸人たちでした。


 調教された猿が回した傘の上でボールを転がしていたり、命令に忠実な犬が投げられたボールをキャッチしたり。


 その広場では左右のどこを見ても楽しげな芸が繰り広げられていました。


「へえ。こんなに賑わっているのね」

「お嬢様は来るのは初めてですか?」

「あることは知ってたけど、いつも人が多いから行く気になれなかったのよね」

「出不精なところありますもんね……いたっ」


 小突かれました。


「体力不足で悪かったわね」

「そこまでは言ってませんよ」


 気にしてはいるようです。

 ですが以前の筋肉痛が治って以来、まともに運動をしたところを見た覚えはありません。


「筋肉が痛くなるとわかっててわざと運動をするなんて変態だわ」とまで言う始末でした。


 別に世の人たちは筋肉を痛めたいから筋トレなどをしているわけではないでしょう。あまりにもな偏見です。


「そんな愚痴を漏らしていたら、またマスランディさんがやってきますよ」

「ひっ! それは勘弁だわ……」


 まるで夜更かしする子供にお化けが来るぞと脅かすようでしたが、そんなことに名前を使われるマスランディさんに少し申し訳なさがこみ上げてしまいました。


 またいつかお会いしたときは、ちゃんと以前の謝罪やお話などもするとしましょう。


「それよりもお嬢様。あれを見てください」


 人混みをかき分けて僕たちが進んだ先に、一際大きな人だかりのできている場所がありました。


 広場の一角を占有している、タキシードに黒いハットを被った若いの男性です。色黒の肌と無精ひげが特徴的で、三十前後の好青年といった風貌でした。


 その男性は多くの観客の視線を浴びながら、手にしていたステッキを振るってみせます。するとい彼のハットの中から鳩が飛びだし、観客の頭上を飛び回ると、その男性の肩へと止まったのでした。


 いわゆるマジックショーの公演をおこなっているようです。


 その男性のそばには大がかりなセットがいくつも組まれていて、非常に大規模な手品がおこなわれているのでした。


 二つ並んだ箱の片方に物を入れ、彼がステッキを叩くとその片方の物がなくなり、空であるはずのもう片方に物が入っていたり。円い筒を被せられた犬が出てきたかと思えば、その筒の部分に布が被せられると、途端に頭と尻尾だけを出した犬の胴体が長く伸びたり。


 しまいには男性自身が箱の中に入ったかと思うと、軽快な音楽とともに急にその箱が潰れ、観客を驚かせました。かと思うとまったく関係のないところから平然と登場したのです。


「ご覧ください! これぞ私めのマカ不思議な魔法でございます」


 男性のやや低めな声が響きわたると、観客の心配は強烈な興奮へと様変わりし、盛大な歓声と拍手が彼に惜しみなく返されたのでした。


 どうやらそれで芸は終わったようです。深く礼をして男性は去り、観客たちも投げ銭を送っては散り散りになっていきました。


「すばらしい」

「まるで何をやっているかわからなかった。本当に魔法なのではないか」

「これほどのものを路上で見れるとは」


 見ていた人たちから口々に彼をほめたたえる言葉があがっていました。


「――魔法!?」


 お嬢様はその言葉に反応を示していました。


「確かに、みなさんの言っているとおりあれはまさしく魔法でしたね、お嬢様。あんなこと普通の人には不可能ですよ」

「そうね、確かに。急に鳩が出てきたり、人が瞬間移動したり。魔法でなくちゃ説明がつかないわ」

「ですね」


 お嬢様は本気でそう思ったようで、心を弾ませたように明るい表情を浮かべていました。


 それが少し僕としては心苦しい気持ちにもなってしまいます。


 ――なにしろ僕は、これからお嬢様を騙そうとしているのですから。


「すごいわっ! 魔法を初めて見ちゃった!」


 興奮するお嬢様の熱とは正反対に、僕は今にも鳥肌が立ちそうなくらい冷や冷やした面もちでいたのでした。


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