2-1 『お嬢様は魔法使いになりたい!』
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「魔法使いになりたいわ」
お嬢様がまた『なりたい病』を再発したのは、前回からちょうど二週間が経った頃でした。
いつもは二月ほど期間が開くのに今回ばかりはあまりに早く、お嬢様の紅茶を用意していた僕は思わずカップの縁まで並々に注いでこぼしてしまいそうになりました。
前回のが不完全燃焼だったのかもしれません。
お嬢様は自室の窓から外の町並みを、うっとりと見とれるように眺めていました。
その視線の先には、とんがり帽子を深く被って紺色のローブを羽織った人物が通りを歩いています。手には装飾のついたねじれた木の杖が握られていて、そんな似たような格好の人が数人ほど肩を並べていました。
魔法使いと呼ばれる人たちです。
僕たちの住む世界にも魔法というものは存在します。ですが決して有名なものではありません。
魔法使いは何もない場所から炎を吹き出したり水を生み出したり、地面を隆起させたりと、超常的な力を操れる人たちのことを言います。
人知を越えるほどの力であるため、魔法使いの家系は国によって管理されているほどです。
彼らの仕事は、以前にお嬢様が憧れた勇者と同じく、危険な場所を移動する行商人たちの護衛などです。他にも未開拓地を調査したりと、危険を伴う仕事を多くしています。
このマレスティの町の付近にはそれほど危険な場所がないために普段はあまり魔法使いを見かけないのですが、今日は珍しいです。
「いいわよね、魔法使い。あの杖をふるうと炎や雷なんかの魔法を使えるのでしょう? それなら剣を持って駆け回る体力も必要なさそうじゃない?」
やはり前回の勇者の剣を引きずっていたようです。いや、思い出して再燃したと言うべきでしょうか。
「あのローブも素敵だわ。絹でできているのかしら。でも光の当たり具合でちょっと色も変わって見えるし、なんだか不思議な素材でできていそうよね」
「は、はあ……」
「魔法が使えると便利でしょうね。きっと、うん、間違いないわ。ちょっと寒くなったら暖炉の火もちょいってつけられるし、水が呑みたくなったらコップの中にちょいって水を出せばいいし」
「それはどうでしょうか……」
なんというか、とても煩悩にあふれている魔法使い像です。ただの怠け者みたいですが、実際の魔法使いはそんなことはないでしょう。しかしお嬢様は真面目に言っているようです。
魔法もきっと「お嬢様には使われたくない」と言うことでしょう。立派な魔法使いの方々に謝らなければなりません。
呆れた思いを強める僕ですが、お嬢様はすっかり魔法を便利道具扱いに想像して楽しんでいるようでした。
「だから、ね? 私、魔法使いになりたいわ!」
非常にまっすぐに言ってくるお嬢様に、僕は曖昧な笑顔を浮かべて返すことしかできませんでした。




