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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第4章 学園入学編
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教室へ

 式はあの後、何のトラブルもなく終わり(気絶者が何人も出てる状況をトラブルがないと言えるのかはわからんが)、それぞれの教室に移ることになった。まずは戦闘科からだったので、アカネが移動した。次に、魔法研究科が移動するため、エレナがやって来てニーナと共に移動を始めた。俺はしばらく暇なため、適当に考え事でもしていた。


 『なんで拍手なんかされたんだ、って思ったの?』

 『……まあな。お世辞にも、いい内容だったとは言えないだろう?』

 『そりゃあ、毎年と比べたら異例だろうねー。でも、あれはあれでよかったと思うけどなー』

 『正気か、お前?』


 頭の上に乗っているシルフィと念話をする。開発科はあまり人が来ないとはいえ、総人数が二桁はいるのだ。一人で喋っていたら、頭がアレなやつだと思われるだろう。俺としては、そんなことは避けたいのだ。ここではなるべく平穏に暮らしたい。……いや、無理なことはわかってはいるのだが。避けられるものは避けたいのだ。シルフィが俺の前へと回り、説明するかのように人差し指を立てた。


 『だってさー、あの話って要約すれば、失敗することを怖がらないで、もっと努力しろ!ってことでしょ?わかる人にはわかったんじゃない?』

 『ほー、お前はいきなり殺気を向けてきたやつに感謝するのかね?』

 『それにしたって、必要処置なわけじゃん?冒険者になって、経験するかもしれないんだしさ。同じ状況になったらどうするかを考えさせたかったわけでしょ?自分と同じようになってほしくないからさ』

 『……別に、そういうのじゃねえよ』


 シルフィの言葉を否定していた。俺がああしたのは、ただイライラしていたからだ。能天気にずっとこのまま平穏な生活が続くと思っているような、あいつらの態度に。けれど、シルフィは首を横に振った。


 『それは違うよ。だって、レオンはほんとにお人好しなんだから。放っておけなかったからに決まってるじゃん』

 『本当にお人好しなら、人を殺しはしねえよ』

 『ほんとの悪人なら、人を殺したことになんにも思わないんじゃない?』


 シルフィに何か言い返そうとして……何も言えず、ただ口を閉じた。何を言えばいいかわからないからだ。それに、何を言ってもこいつは否定してくるだろう。目の前で自信満々といった様子で胸を張っているシルフィを、よくわからないと思うのだった。


 (……いや、本当はわかっているのかもしれないな………)


 自分が理解したくないだけで。

 人には4つの領域があると言われている。自分しか知らない部分。自分や他人が知っている部分。他人も、自分でさえも知らない部分。そして……他人しか知らない部分。ニーナもシルフィも俺のそんなところを見ているのかもしれない。あるいは俺が認めようとしないだけで、本当は自身でさえも知っているのかもしれない。


 「開発科のものは、私についてこい。移動するぞ」


 気が付くと、移動が始まっていた。俺は先程まで考えていたことを追い出し、立ち上がった。そして、そのまま移動を始めたのだった。シルフィがどんな顔をしていたのか、気付かないままに。


※               ※               ※

 「席を確認して、自分の席へとつけ。概要を説明する」


 前のボードで自分の席を確認する。ほとんどのやつはわざわざ前まで行っていたが、俺は視覚強化を行ってすぐに席に着いた。教室は縦に8列、横に3列という机の配置がされている。一つの机に二人座れるようになっているようだ。つまり、ここに座れる人数は48といったところである。開発科は2クラスしかないため、総人数は100にも満たないのだろう。

 頬杖をついて、話が始まるのを待つ。流石に単位が取れずに留年は、前々世でやらかした俺としては笑えない。最初はちゃんと聞いておいた方がいいだろう。


 「隣、いいですか?」

 「いいも何も、てめえの席なら勝手に座りゃいいだろうに」

 「そうですか。ありがとうございます」


 隣をちらりと見て、また元に視線を戻す。隣にいるやつは女で、なかなかに可愛かった。どこかで見たような気もしたが、そんなことを言えばナンパを疑われるだろう。黙っておくことにした。けれど、むこうの方から声を掛けてきた。


 「お久しぶりですね。こうして顔を合わせるのは初めてですけど」

 「どういうことだ?俺はお前と会ったことなんざないんだが?」

 「ふふ、すぐに気付きましたよ?背丈も同じですし、声も同じですから」


 言っている意味がわからず、再び隣へ視線を向ける。開発科の制服を身に纏ったそいつは、白い髪に淡く茶色が混じったような髪をしていた。エレナはクリーム色に近いが、こいつは白茶色とでも言えばいいのだろうか?瞳の色も茶色ではあったが、こちらは普通の茶色だった。そして、あまり見かけないそばかすが見られた。髪の毛は肩までで切りそろえられており、絶世とは行かないまでもかなりの美人だと思う。発育の方はあまりよろしくなく、腕や足は細いし、胸は慎ましい。

 やはりよく見ても、知り合いだとは思えない。何か引っかかっている気はするのだが、恐らく知らないはずだ。


 「人違いじゃねえのか?俺は知らねえぞ」

 「そんなことはないですよ。思い出せるようにしてあげましょうか?」

 「あん?どうやってだよ?」

 「それなら言いますけど……取り潰しになった侯爵家。これで何か思い出しませんか?」


 その言葉を聞いて、感じていたもやもやが晴れた。確かに、俺はこいつに会っている。


 「お前……あのときの侯爵の近くにいたやつか?」

 「そうですよ。その節はお世話になりました」


 ぺこりと頭を下げられた。俺はそれをやめさせた。別にそこまでしてもらうようなことはしていなかったからだ。


 「俺はただ単に依頼を受けていただけだ。礼を言われるようなことはしてねえよ」

 「それでも、私は確かに助けられました。父や母にまた会えたのも、あなたのおかげです」

 「……勝手にそう思ってろ」


 今日はどうにも調子が狂う。ニーナのことといい、シルフィといい、こいつといい。何故ここまで俺を持ち上げたがるのか、不思議で仕方ない。視線を逸らし、前へと戻した。そこで、どうやら全員が席に着いたらしく、教師が話を始めた。


 「まず初めにだが。今隣に座っているものが、寮で共に暮らすものだ。仲良くするように」


 その言葉にしばし固まる。隣を向いた。そこには、どう考えても女がいた。続いて周りを見回す。周りには、異性同士のペアなどいなかった。


 「……おい。どうするんだ、これ」

 「うわお、マジかー………」


 シルフィと二人、頭を抱えるのだった。

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