再会
「うう、だりい………」
誰が好き好んで、面倒だとわかり切ったところに行かにゃあならんのだ。ぶっちゃけ、参加したくない気持ち10割である。今なら100%と間違えて、100割と言っても間違いじゃないかもしれん。俺のその様子に不満を持ったのか、隣を歩いているニーナが抗議の声を上げる。
「レオン君、ちゃんとしてください。せっかく認めてもらえたんですから、胸を張るべきですよ?」
「面倒事にしかならんのなら、名誉も汚名も同じだっつの。俺は普通に暮らしたいもんだね」
「普通、って……どんな感じにですか?」
ニーナが少し首を傾げて、俺を見上げてくる。俺は少し考えた後に、思ったことをそのまま口にしていた。
「小さくてもいいから、あんまり人が来ねえようなとこに家持って、のんびり暮らしたいわな。近くに川かなんかがあれば、なおよし」
「それじゃあ、もう隠居生活と変わりませんよ………」
「それじゃ、もう隠居したいわあ………」
「レオン君………」
ニーナがジト目で見てくるが、仕方ない。こちとら面倒事に突っ込むのは、勘弁したいところなのだ。大体、入学式卒業式という二大イベントは、往々にして面倒だということがわかっている。さしてありがたくもないようなことを、だらだらと並べる話が続くのだ。そんなことはない?じゃあ、卒業式で来賓やら校長やらから貰った言葉を覚えているだろうか?俺は即忘れたね。入学式は適当に寝てればいいかと思っていたのに、とんでもないことが舞い込んだものである。
「そういえば、これどうでしょうか?変じゃないですか?」
「ん?ああ、似合ってんじゃねえのか?」
ニーナが聞いてきたのは、自身の制服のことだ。魔法研究科は白いワイシャツに、紺色のブレザーを着ていた。で、赤いリボンが襟の周りに巻いてある。俺は普通に似合っていると思うのだが、いかんせんファッションセンスがない。何をどう褒めればいいのか、それすらもわからないのだ。
「そうですか。よかったです」
けれど、ニーナは嬉しそうにしていた。これで十分なのだろうか?いや、そんなわけないわな。どう考えても、言葉が足りな過ぎる。読んでたラノベでも、これで上手くいくのは主人公補正があるやつか、もしくはよほどのイケメンかだ。どっちもないわけだし、これはニーナくらいしか喜ぶやつはいないだろう。少しは勉強した方がいいかもな………
「おや?君は………」
後ろから聞こえた声に振り向く。そして、瞬時に見なかったことにした。
「ええ!?いや、君だよ、そこの黒髪の子!確かレオン君だったかな?」
そこら辺をきょろきょろと見回す。チッ、周りに黒髪のやつがいねえ。なすりつけようかと思ったのに。
「人違いです。見間違いです。では、僕はこの辺で」
「いや、それは無理があると思うよ?黒髪で黒目の人なんてそうそういないんだし、何より隣に妹さんがいるからね」
「……チッ、無駄に勘が鋭いやつだ」
仕方なく振り返り、後ろにいた人物の応対をした。ニーナは首を傾げて、俺の袖を引っ張る。
「レオン君、知り合いさんなんですか?」
「知り合いっちゃ知り合いだわな……というか、お前は少し世間に興味を持て」
「???どういうことですか?」
「こいつはクリストファ・ディルロス・グレンヴィル。要はこの国の王子様だよ」
俺の紹介にも、王子の方は笑っているだけだった。反応があったのは、ニーナの方だ。俺を見て、王子の方を見て、再び俺の方を見た。
「……ええっと、ききまちがいかもしれないですから、もういちどききますね?このひとはだれなんですか?」
「クリストファうんたらかん。王子」
いちいちフルネームを言うのもめんどくさいので、もうファーストネームのところだけを抜粋した。俺のその説明に、王子は苦笑しながら反論してくる。
「いや、そこはちゃんと説明してほしいな」
「うるせえ、全部言うのはめんどくせえんだよ」
「あ、あわわわわわ、レオン君!」
「ん?どうした……って、うおっ」
ニーナの声にそちらを向くと、いきなり襟首を掴まれて、ガックンガックンと揺さぶり始めた。ちなみに、目が焦点を結べてなかった。うーん、ヤッてる最中なら興奮するやつもいるかも?この目。何をとまではいかんが。あと、想像したやつ表出ろ。ぶち殺す。
「ななななんで王子様と普通に会話してるんですか!礼儀は必要だって、あれほど言ってたじゃないですかあ!」
「ん?ああ、嫌われねえためにはな。別に俺は嫌われようが構わんから、この口調なだけだ」
「ど、どうするんですか!いきなり処刑だとか言われたら!」
「こいつに限ってそれはねえだろ。したがってるのは、周りのやつらだろうさ」
後方を見やれば、殺気を向けているメイドや女騎士がいる。……というか、女性率高過ぎじゃねえか?みんなこいつの女だったとしたら、全国の非リアを代表して、部屋に爆弾を投げ込むかもしれん。リアルにリア充爆発しろと言う状態である。まあ、テロ行為と取られても仕方ないのかもしれんが。
「ん?ああ、そうかもしれないね。みんな、いいんだ。彼とは主従関係にはなりたくない。ただの友人でありたいんだ」
「しかし………!」
「お願いだよ」
王子の願いに折れたのか、全員が渋々といった様子で下がる。それにしても、今聞き捨てならないセリフがあったんだが。
「おい、誰が誰と友人になりたいって?」
「私が君となんだけれど……構わないかな?」
「却下で」
俺が即答した瞬間、辺りが凍り付いた。ニーナも口をパクパクとさせている。まあ、あまり時間を掛けていると、後ろのやつらがうるさいだろう。先に口を開くことにした。
「まずお前と友人になることの利点。お前っつー後ろ盾ができるわけだ。多少の無茶は許されるようにはなるし、表立ってくだらねえことをやるやつは出てこなくはなる」
「ふむ……ということは、悪いこともあるということかな?」
「ああ。そもそも、俺から声を掛けられたことがまずい。周りの貴族どもはほぼ確実に敵に回すと考えられる。さらに、表立ってしないだけで、目立たないところではやってくる確率もある。最後に。お前との橋渡し役に使われることになる。どう考えても、損失の方が利益を上回ってるだろ。だから嫌なんだよ。俺は面倒事が嫌いなんだ」
「……そうか。わかった。そういうことなら、諦めるよ」
王子はどうやら引いてくれるようだ。内心ホッとしながら、適当に見送ろうかと思った。が。
「じゃあ、次は友人として、利益があると思えるようなことを考えておくよ」
「……はあ?」
「いや、だって、君は自分に利益があるなら、友人になってくれるみたいだったじゃないか。それなら、利益があるようにすれば頷いてくれるかなと思ったんだ」
「いや、まあ、そうだが」
首を捻らざるを得ない。何故こいつはここまで俺に執着するのだろう。意味がわからないのだが。
「なんでそこまで俺にこだわる?別に他のやつでもいいだろうが」
「勘だよ。君とは深い関係を結んでおいた方がいい。そう思ったんだ」
そう言って微笑む姿は、男の俺から見ても魅力的なくらいだった。入学してもいないのに、初めから厄介事が舞い込んできた現実に、俺はため息をつくのだった。




