↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚息と体が入れ替わった王ですが、どうやら我が国は崩壊寸前らしい  作者: あずきまんま
第4部:王宮決戦と入れ替わりの終焉編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/50

第32話:暴君の真実

 国王の私室。


 夜が明けきらぬ時刻だというのに、室内には煌々と灯りが灯されていた。国王――中身はアデル――は、寝台の端に腰掛けたまま、身じろぎもせずに床の一点を見つめている。


 アルベルトは、供も連れずに、その扉を叩いた。


「入るぞ」


 返事はなかった。それでも構わず、アルベルトは室内へ足を踏み入れる。


 国王は、こちらを振り向きもしなかった。先ほどまでの狼狽も、玉座での傲慢さも、今はどこにも見当たらない。ただ、疲れきった一人の若者が、そこにいるだけだった。


「片付いた。ジュリアンは取り逃がしたが、王宮はひとまず、こちらの手に戻った」


 アルベルトは、淡々と告げた。


「お前は、しばらくここで大人しくしていろ」


「……俺は」


 国王は、掠れた声で呟いた。


「俺は、王になんて、なりたくなかった」


 アルベルトは、何も言わずに続きを待った。


「入れ替わった時、正直、笑えると思った。国王の身体になって、好き放題やれると思った。誰にも文句を言わせず、金も、女も、思うがままだと」


 国王の肩が、小さく震え始めた。


「でも、違った。玉座に座った瞬間から、何もかもが重かった。誰も、俺の話なんて聞いちゃいない。ただ、王としてどう振る舞うかだけを、求められる」


「それで、酒と女に逃げたか」


 アルベルトは、静かに問うた。咎める響きはなかった。


「逃げるしかなかったんだよ」


 国王は、顔を覆った。


「どうすればいいかなんて、わかるはずがない。あんたは、何十年も王をやってきたから、平然としていられるんだろうけど、俺は、いきなり放り込まれただけだ」


 国王は、次第に涙声になっていった。


「今夜だって、そうだ。剣を持った男たちが押し入ってきて、玉座に座っていたのに、ただ怖くて、震えることしかできなかった」


「震えて当然だろう」


 アルベルトは、低く言った。


「あの場を収めたのは、わしとエレノアだ。お前が震えていたことを、責めるつもりはない」


「慰めなんて、いらない」


 国王は、声を荒げた。


「あんたの息子は、こんな体たらくだって、ちゃんとわかってる。玉座に座る資格なんて、最初からなかったんだ」


 しばらく、沈黙が続いた。国王の肩は、なおも震え続けている。


 アルベルトは、寝台の傍らに歩み寄り、その隣に腰を下ろした。


「資格の話なら、わしにも同じことが言える」


 アルベルトは、静かに続けた。


「わしとて、若い頃から立派な王だったわけではない。お前と同じように、逃げたい夜も、投げ出したい日も、数え切れぬほどあった。それでも、玉座に座り続けねばならなかったというだけのことだ」


「……そんなの、慰めにならない」


「慰めるつもりはない」


 アルベルトは、短く答えた。


「ただ、事実を言っているだけだ」


 国王は、涙を拭うこともせず、ただ俯いていた。その姿は、傲慢な暴君でも、恐怖に駆られた愚か者でもなく、ただ、重荷に押し潰されかけた一人の若者だった。


「思えば、お前がここまで荒れたのも、わしに原因がないとは言えぬのだろうな」


 アルベルトは、独り言のように呟いた。


「王としての務めばかりを口にして、お前という人間そのものを、まともに見てこなかった。今更、詫びたところでどうにもならぬだろうが」


「……今更すぎるんだよ、それは」


 国王は、掠れた声で言った。それでも、その声に、先ほどまでの尖った棘はなかった。


「物心ついた頃から、ずっとそうだった。褒められるのは、王太子として振る舞えた時だけ。俺が何を望んでいるかなんて、誰も聞いてくれなかった」


 国王は、膝の上で拳を握った。


「だから、いっそ全部投げ出してやろうと思った。真面目にやったところで、誰も見てくれないなら、好き放題やった方がマシだって」


「でも、あんたにそんなことを言われるとは、思わなかった」


「わしも、こんな夜が来るとは、思っていなかった」


 アルベルトは、静かに答えた。


「入れ替わりのおかげで、と言うべきなのか、皮肉なものだが」


 国王は、小さく鼻を鳴らした。笑ったのか、それとも別の何かだったのか、アルベルト自身にも判別がつかなかった。


「これから、どうすればいい」


 国王は、掠れた声で問うた。


「今は、休め」


 アルベルトは、静かに立ち上がった。


「考えるのは、それからでいい。ジュリアンの件も、国庫の件も、山積みだが、今夜ばかりは、お前を追い立てるつもりはない」


 国王は、何も答えなかった。ただ、小さく頷いただけだった。


 アルベルトは、その背を一瞥してから、静かに部屋を後にした。扉を閉めてもなお、すすり泣きは、いつまでも止まなかった。


(第33話へ続く)


お読みいただきありがとうございました!


面白かったらぜひ【ブックマーク】とページ下の【★★★★★評価】で応援よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。