↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚息と体が入れ替わった王ですが、どうやら我が国は崩壊寸前らしい  作者: あずきまんま
第2部:危機回避と外交・軍事の掌握編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/50

第13話:第2王子の暗躍

 王宮、ジュリアンの私室。


 夜。


 卓上に広げられた書類は、どれも思うようにいかない現実を映していた。


 対グラナダの関税は、王太子府の権限で止められた。


 開戦を望む国王の性急さも、いつの間にか宥められている。


 誰が。


 どうやって。


 考えるまでもなかった。


「兄上……」


 ジュリアンは、低く呟いた。


(あの酒を仕込んだ時は、もっと分かりやすい破滅を期待していた)


 賢王が愚かに変わり果て、その手で国を傾ける。


 そのはずだった。


 兄上は、元々愚かだったはずだ。


 放っておいても、いずれ自滅する。


 そう高を括っていた。


 だが、今の兄上は。


 むしろ、以前より鋭くなっている。


 まるで、別人のように。


 そこまで考えて、ジュリアンは小さく笑った。


 馬鹿げた想像だった。


 窓の外、月明かりが庭園の噴水を白く照らしている。


 その静けさが、今はひどく癇に障った。


 扉が静かに開く。


 灰衣の男が、音もなく入ってきた。


「お呼びでしょうか」


「調べはついたか」


 ジュリアンは、書類から顔を上げないまま問うた。


「王太子殿下の周辺、これまで以上に固められております」


「近衛か」


「はい。信の置ける者だけを、選んで配置しているようです」


 ジュリアンは、指先で卓上を軽く叩いた。


「用心深いことだ」


 独り言のような呟きだった。


「誰かの入れ知恵か」


 灰衣の男は答えなかった。


 主の言葉に、応じる必要のない時があることを、彼は知っている。


「殿下」


 しばしの沈黙の後、灰衣の男が口を開いた。


「いかがなさいますか」


 ジュリアンは、ようやく顔を上げた。


 その口元には、いつもの穏やかな笑みがある。


 だが、目だけは違った。


「兄上には、そろそろ退場していただこう」


「本気で、仰っているのですか」


「本気でなければ、口にはせぬ」


 ジュリアンは立ち上がった。


 窓辺へ歩み寄る。


「兄上が生きている限り、私の計画はすべて後手に回る」


「殿下の手を、直接汚すことになりかねません」


「だから、お前に頼んでいる」


 振り返らないまま、ジュリアンは続けた。


「暗部を動かせ」


 灰衣の男が、わずかに眉を動かした。


「暗部は、王家の直轄。私如きが自由に動かせる組織ではございません」


「表の暗部ではない」


 ジュリアンは、ゆっくりと振り返った。


「裏の伝手を、お前は持っているはずだ」


 灰衣の男は、しばし目を伏せた。


「……心当たりが、ないわけではございません」


「頼む」


「代償は」


「望むものを言え」


 灰衣の男は、初めてわずかに笑った。


「後ほど、ご相談させていただきます」


「時期は」


「十日後、離宮で夜会がございます」


 灰衣の男は、間を置かず続けた。


「諸侯を招いての、社交の場。人の出入りが多い分、隙も生まれやすいはずです」


「ちょうどいい」


 ジュリアンは、微笑んだ。


「表向きは、慶事だ」


「はい」


「誰も、疑わぬ」


 窓の外、雲が月を覆っていく。


 部屋は、再び暗がりに沈んだ。


 同じ頃。


 王太子府。


 執務室には、行灯の明かりだけが灯っていた。


 アルベルトは、報告書に目を通していた。


 差出人は、王妃付き女官クララ。


 内容は。


 王宮内で、見慣れぬ人影が幾度か目撃されているという報せだった。


「灰衣の男、以外にも動いている者がいるようです」


 エレノアが、静かに言った。


「複数か」


「はい。近衛の目を盗むように、離宮の周辺を探っている者が」


 アルベルトは、報告書を閉じた。


「ジュリアンが、本腰を入れ始めたということか」


「おそらくは」


 ヴィクトリアが、扇を握る手に力を込めた。


「十日後の夜会、出席は避けられません」


「分かっている」


 アルベルトは、頷いた。


「王太子が病を理由に欠席すれば、かえって疑いを招く」


「危険は承知の上で、出るしかない、と」


 エレノアの声には、隠しきれない硬さがあった。


「近衛の増員は」


「進めている」


 アルベルトは、抑えた声で答えた。


「だが、限界がある」


「限界とは」


「宮廷の目だ」


 アルベルトは、窓の外へ視線を移した。


「あからさまに守りを固めれば、こちらが何かを知っていると、ジュリアンに教えるようなものだ」


 部屋に、重い沈黙が満ちた。


「陛下」


 エレノアが、まっすぐにアルベルトを見た。


「夜会には、私も同行いたします」


「危険だ」


「離れている方が、危険です」


 エレノアの声に、迷いはなかった。


「何かが起きた時、傍にいなければ、守れません」


 アルベルトは、しばらく彼女を見つめた。


 やがて、小さく息を吐く。


「……好きにしろ」


「はい」


 ヴィクトリアは、二人のやり取りを見つめていた。


 その目には、母のような、王妃のような、複雑な色が浮かんでいるように見えた。


「私も、参ります」


「王妃陛下まで危険に晒すわけには」


「王妃が夜会を欠席すれば、それこそ噂の種です」


 ヴィクトリアは、扇をぱちりと閉じた。


「それに」


 一拍置いて、続ける。


「あなたを、みすみす危険な場所へ一人で送り出すほど、私は薄情ではありません」


 その言葉に、アルベルトは何も言い返せなかった。


 窓の外、夜はさらに深くなっていく。


 十日後、離宮で開かれる夜会。


 それが何をもたらすのか、まだ誰も知らなかった。


(第14話「夜会での伏線」へ続く)


お読みいただきありがとうございました!


面白かったらぜひ【ブックマーク】とページ下の【★★★★★評価】で応援よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。