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有言の実行者 〜成句の能力で俺は世界を敵に回す〜  作者: 宴元蒼井


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第8話 調律無様

俺の激走と同時に、周囲の空間が悲鳴を上げた。

数十体の調律者が一斉に十字の光剣を掲げ、その刃から放たれるのは、触れたものの存在確率をゼロにする調律の光。それが全方位から、網の目のように俺の退路を断ちながら殺到する。

「おいおい、世界システム様ともあろうお方が、随分と必死じゃないか!」

俺の斜め後ろを並走するレイが、引き剥がした眼帯の奥の右目をカッと見開いた。

そのドス黒いノイズの文字列が暴風のように狂い咲いた瞬間、俺たちの身体に触れるはずだった数多の光線が、磁石に引き寄せられる鉄屑のように、不自然にその軌跡をグニャリとねじ曲げた。

「『付和雷同』――限定解除オーバーフロー・『因果流転ベクトル・パス』!」

レイが叫ぶ。光線は俺たちを傷つけるどころか、互いに交差し、調律者同士を内側から爆破し始めた。

世界が定めた「エラーを消去する」という絶対の攻撃ルールに、レイがその身をもって同調し、攻撃の矛先(対象定義)をシステム自身へと書き換えて流したのだ。

「がはっ……クソ、さすがに神の防衛プログラムは重てぇな……!」

レイの右目から、タラリと一本の鮮血が流れ落ちる。

他人の、それも世界のルールに同調するということは、その絶大な負荷を一度は自分の魂に通すということだ。レイの身体もまた、俺とは違う形の限界を迎えつつあった。

「レイ!」

「前を見ろソラ! 俺のことは気にするな、お前が止まればその瞬間に因果のロックが外れて全員死ぬぞ!」

レイの怒号が俺の背中を強烈に押し出す。

そうだ、俺は「世界のシステムを正面からブン殴る」と、地下空間であの大人数の前でハッキリと言葉(有言)にした。その言葉はもう世界に固定され、俺が足を止めること自体を、俺の肉体が、魂が、能力が絶対に許さない。

バキバキと音を立てて、俺の全身の皮膚から白銀の魔力が再び噴き出し始める。

それは前回の戦闘のような、システムから一時的に借り受けた力ではない。十万回の実績を超え、自らの意思で「未来を確定させた」ことで、俺の魂そのものが世界のシステムから強奪してきた、本物のバグの輝きだ。

学園の正門が近づく。

上空を見上げれば、純白の巨大な魔法陣『神罰グランド・オーダー』はすでに最終充填フェーズに入っていた。

中心部に集束していく光の質量は、もはや一つの太陽を生み出そうとしているかのようだ。

「ルナ……っ!!」

時計塔の屋上。結界を維持し続けるルナの姿が、はっきりと目に入った。

彼女の顔は蒼白で、衣服は自身の膨大な魔力の逆流によってボロボロに引き裂かれている。国一番の天才と持て囃された少女が、世界の悪意そのものである神罰を前に、ただ一人で、街の人々のために盾になろうとしていた。

その姿を見た瞬間、俺の胸の奥で、10年間のあらゆる想いが爆発した。

周囲の奴らにどれだけ無能だと笑われようが、毎日泥水をすするような鍛錬を繰り返してきた。あいつに追いつきたくて、あいつの隣に立ちたくて、あいつを守ると言ったあの日の自分を、一秒たりとも裏切りたくなかったからだ。

「ソラ……? なんで……あなたは、死んだはずじゃ……っ!?」

時計塔の上から、ルナがこちらに気づき、その瞳に驚愕と、そして止めどない涙を溢れさせた。

死んだと思っていた幼馴染が、全身から見たこともない白銀の炎を吹き上げながら、世界の軍勢を蹴散らして走ってくるのだ。あり得ない光景に、彼女の思考は完全に停止していた。

「遅くなって悪かったな、ルナ!」

俺は正門を飛び越え、そのまま時計塔の壁面を、白銀の魔力を足場にしながら垂直に駆け上がっていく。

『――警告。エラー個体が最終排除対象に接近。神罰の投下カウントを強制変更します。即時執行、残り三秒――』

世界の声には、もう機械的な冷静さはなかった。

バグがルールを壊しにやってくることへの、明確な「拒絶」の意志がそこにはあった。

空が、割れる。

神罰の魔法陣から、直径数百メートルに及ぶ純白の光の断頭台が、学園都市に向けて真っ直ぐに振り下ろされた。触れれば、物質も、魂も、因果も、すべてがこの世界から「最初からなかったこと」にされる絶対消去の光。

「ソラァァァァァァッ!!」

レイが下層で叫ぶ声が聞こえた。

「関係ねぇ……関係ねぇよ!!」

俺は時計塔の屋上へと飛び上がり、ルナの前に着地すると同時に、なまくら刀の柄に両手をかけた。

上空から迫る光の濁流。その圧倒的な質量を前に、俺の刀など、一本の針にも満たない。

だが、俺の後ろには世界で一番守りたい奴がいる。

ここで俺が引く確率は、世界のルールをどれだけひっくり返そうが、絶対にゼロだ。

「俺は、お前の盾になるって言ったんだ。世界がそれを消そうってんなら――」

すぅ、と深く、深く息を吸い込む。

体内の全細胞が、全魔術回路が、10年分のすべての記憶が、この一瞬の「有言」のために完全に同調していく。

「――お前のご自慢のルールごと、そのクソ高い席から引きずり落としてやるよ、神術システムッ!!!」

叫びとともに、俺はなまくら刀を、迫り来る神罰の光のド真ん中へと向かって、下から上へと一気に振り抜いた。

『――有言を完全認知。実行プロセス:最大出力オーバーフロー

『世界命令を強制上書き。これより、当該攻撃の対象を【世界システム・第一規律の概念そのもの】へ設定――』

バキィィィィィィィィィィィィィン!!!!!!!

世界そのものがガラスのように、いや、巨大な鏡のように、文字通り真っ二つにひび割れる音が、大陸全土へと響き渡った。

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