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有言の実行者 〜成句の能力で俺は世界を敵に回す〜  作者: 宴元蒼井


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第2話 白銀一振

「――ギ、ギギ、ギィィィィィィィッ!!」

空間そのものを咀嚼する魔獣『虚空の捕食者ヴォイド・イーター』が、不快な高音を撒き散らしながら顎を広げる。

その内側は、底のない暗黒。触れれば肉体だけでなく、存在そのものを消滅させられるという圧倒的な『破滅』の塊だ。

恐怖で全身の毛が逆立ち、胃の底からせり上がる嘔吐感を必死に飲み込む。

なまくら刀を握る右手は、今でも油断すればガタガタと震え出しそうだ。魔法の適正を示す成句の格を持たない俺には、身を守る防御魔法の一枚すら張ることができない。

「ソラ……っ、もういい、もういいから逃げて……!」

後ろでルナが、絞り出すような声で懇願する。

国一番の天才と謳われ、軍勢をも滅ぼす『一騎当千』の魔力出力を持つ彼女が、完全に戦意を喪失していた。それほどまでに、目の前の怪物が放つ「成句の格」は絶望的だった。

だが。

俺の肉体は、一歩も後ろへ退くことを拒絶している。

いや、拒絶しているのではない。

10年前、泣きじゃくるルナの前で俺の口が勝手に紡いだ、世界で最初の『有言』。

その言葉の鎖が、俺の骨をキシキシと鳴らしながら、強引に前へと固定し続けているのだ。

(ああ、クソ……本当に、最高に不自由で、愛おしい呪いだ!)

その時、脳裏に響き渡る世界の声は、さらに冷徹に、そして加速していく。

『――累積実績値:100,000に到達――』

『全条件の達成を確認。固有成句『有言実行』の限定解除オーバーフローを執行します』

『これより、当該個体の成句ランクを【神話級ミソロジー】へと仮託。魔力出力を世界法則システムの限界値まで強制引き上げを行います』

「……ガハッ!?」

鼓動が、爆音を立てた。

心臓の奥底から、これまで経験したことのない暴力的と言っていいほどの『熱量』が溢れ出す。

成句の格が魔法の出力を決める。それがこの世界の絶対のルール。

だとしたら、口にした言葉を世界を書き換えてでも実行する『有言実行』の真のスケールは、一体どれほどのものになる?

――答えは、**『因果を従える』**だ。

ガタガタと震えていた両足の震えが、嘘のようにピタリと止まる。

俺の全身から立ち上る魔力は、あまりの超高密度ゆえに白銀の炎となり、迷宮の濁った闇を瞬時に焼き尽くしていった。

「な,に……これ……? ソラの、魔力……っ!?」

後ろのルナが、驚愕に目を見開く。

一軍を滅ぼす彼女の魔力すら、今の俺から溢れ出る輝きの前には、あまりにも小さく頼りない灯火に過ぎなかった。

これほどまでの魔力は見たことがない。いや、この世界に存在するはずがない。

世界を救うとまで言われたルナの『一騎当千』は、あくまで人間に扱える最大規模の出力。だが、今の俺に流れ込んでいるのは、個人の器に収まるような生ぬるいエネルギーではなかった。

「言葉」という絶対の鎖で世界を縛る、理そのものの解放。

俺がこれまでの人生で笑われ、蔑まれながらも積み上げてきた十万回分の「宣言」が、すべて魔力の燃料となって爆発しているのだ。

『警告。対象『虚空の捕食者』が絶対不可侵領域ヴォイド・シールドを展開。通常攻撃の到達確率、0%』

脳内の声が告げる。

魔獣の周囲で空間がさらに歪み、あらゆる攻撃を無効化する絶対の盾が構築されていく。

それは神話の時代から、どんな大魔術師の攻撃すら届かせなかった絶望の空間断裂。

「到達確率、ゼロ,か」

俺は白銀の炎を纏ったなまくら刀を、ゆっくりと上段に構えた。

恐怖は、もうない。

身体の奥底にある言葉の檻が、今や俺のすべてを肯定するように駆動している。

確率がゼロだろうが、世界のルールが無理だと言おうが、そんなものは知ったことか。

俺がこの命よりも重い言葉で「やる」と言ったのなら、世界はそれをねじ曲げてでも達成させなければならない。それが、俺の能力の本当の価値だ。

「関係ねぇよ。俺は『ルナの盾になる』って言ったんだ。あいつを傷つけるもんが目の前にいるなら――」

すぅ、と深く息を吸い込み、俺は正面を見据えて、ハッキリと言葉(有言)を紡いだ。

「――次の、たった一振りの一撃で、あの化け物を塵一つ残さずブチ抜く」

言霊が、空間に固定される。

『――有言を認知。実行プロセスの書き換えを開始します――』

『世界命令を上書き。これより、当該攻撃の命中確率、および即死確率を【100%】へと強制固定』

バキィィィィィィィン!!!

世界のシステムが悲鳴をあげるような音が響いた。

魔獣の展開していた絶対不可侵の歪みが、俺の言葉一つによって、まるでガラス細工のように粉々に砕け散る。

「ギ、ァ……ッ!?」

初めて魔獣の目が、明確な『恐怖』に染まるのを俺は見逃さなかった。

空間の支配者であるはずの怪物が、逆に自分を取り囲む空間そのものから「死ね」と圧迫されていることに気づいたのだ。

「いくぞ、化け物。10年分の、重みを受け取れ」

俺の一歩が踏み込まれた瞬間、迷宮の地面が爆ぜた。

ただのFランクが放つ、最弱のなまくら刀の一振り。しかしその刃の軌跡は、世界で最も強固な『有言』の輝きを放っていた。

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