第10話 大言壮語
学園都市の空に響き渡った宣戦布告の余韻は、赤黒い雷鳴となって王都の上空にまで伝播していた。
数日後――。
大陸を統べる大国『神聖帝国』の謁見の間は、かつてない緊迫感に包まれていた。玉座に座る皇帝の前で、帝国最高戦力である【神聖騎士団】の団長、アルトリウスが険しい表情で報告を読み上げる。
「学園都市を襲った『神罰』の消失、およびFランク犯罪者・ソラによる、我が国への宣戦布告の言霊を確認いたしました。……信じ難いことですが、彼らが放った言葉の圧力により、帝国内の防衛結界の因果律が強制的に書き換えられ、我が国は『彼らとの戦争状態』にロックされております」
「馬鹿な……。ただの無能のハズレ成句保持者が、世界システムを動かしたというのか!?」
貴族たちの間に動揺が走る。彼らにとって、神から授かる「成句の格」は絶対であり、Fランクの言葉が国を動かすなど、天変地異に等しい悪夢だった。
「奴らはただのバグだ。世界を汚すエラーは、帝国の総力をもって完全にデリートせねばならん。アルトリウス、神聖騎士団を動かせ。物理的な圧倒的武力をもって、言葉を発する隙すら与えずに圧殺せよ」
皇帝の冷徹な命が下る。
帝国が誇る十万の軍勢と、世界システムの加護を受けた最強の騎士たちが、一人の少年と地下組織を潰すために動き出した。
その頃、ソラたちは再び地下組織『オーバーライト』の作戦室にいた。
巨大な光のモニターには、帝国軍の進軍ルートや、各地の魔力供給線のデータが緻密にマッピングされている。
「さて、ソラ。お前の大言壮語(有言)のおかげで、帝国軍十万がこちらの根拠地に向けて進軍を開始したぞ」
レイがモニターのチェスピースのような光を指先で弄びながら、楽しそうに笑う。
「正面からぶつかれば、いくらお前の『絶対命令権』があろうが、数と出力の暴力で押し潰される。お前が『敵は全滅する』と言葉にする前に、十万の矢と広域破壊魔法がお前の喉を焼き切るのが先だからな。……つまり、ここからは力任せの戦いじゃない」
レイは冷徹な瞳をソラに向けた。
「『頭脳戦』だ。奴らがシステムを信じ、帝国のルールに縛られているからこそ、その思考の裏をかく」
「ああ、分かってる」
ソラは自身のなまくら刀の柄に触れながら、モニターを凝視した。
自分の能力の本質が『絶対命令権』だと理解した今、使い方が見えてきた。迂闊に大きな言葉を使えば、世界からの「調律」で自滅する。なら、使うべきは最小限の言葉で、最大の連鎖倒し(バグ)を引き起こすための罠だ。
「帝国軍の進軍ルートにあるこの渓谷……ここには世界システムが管理する『天候制御の因果律』が通っているな?」
ソラが不敵に口元を歪める。
「レイ、あんたの『付和雷同』で奴らの進軍ルールをここに誘導してくれ。俺がそこで、一言だけ、最高の罠(有言)を仕掛けてやる」
最強の国家を相手に、バグたちの知略による絶対のハメ技が始まろうとしていた。




