表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あのとき、となりにいた人  作者: 木曜日のあこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/3

続編

会わなくてもいいと思っていた。


会っちゃいけない気もしていた。




あの日、カフェを出たあと、

連絡先も聞かずに別れた時点で、

それが一番きれいな形だと分かっていたから。


それなのに。


二度目も、やっぱり“たまたま”だった。


スーパーの、パン売り場。


子どもに頼まれたメロンパンを手に取ろうとして、

同じ棚に伸びた手と触れそうになる。


「あ…」


顔を上げると、彼だった。


一瞬だけ驚いて、すぐに少し笑う。


「また会ったね」


「ほんとだね」


前よりも自然に言葉が出る。


少しだけ距離が近い。


それが、少しだけ怖い。




---




「これ、よく買うの?」


彼がメロンパンを軽く持ち上げる。


「うん、子どもが好きで」


「うちも」


同じだね、と笑う。


その一言が、妙に胸に残る。




---




レジに並ぶまでの短い時間、

なんでもない会話が続く。


天気とか、最近の忙しさとか、

本当にどうでもいいことばかり。


でも、沈黙が怖くない。


むしろ、言葉が少ないほうが落ち着く。




---




「このあと、時間ある?」


ふいに、彼が言った。


心臓が一瞬だけ強く鳴る。


ほんの少しの沈黙。


その間に、いろんなものがよぎる。


でも——


「少しだけなら」


気づけば、そう答えていた。




---




前と同じように、近くのカフェに入る。


同じ席じゃないのに、似た空気。


でも、前よりも静かだった。


お互いに分かっているから。


これは、長く続けるものじゃないって。




---




「この前さ」


彼がコーヒーを見ながら言う。


「帰ってから、ちょっと考えちゃって」


「なにを?」


分かっているのに、聞いた。


「もし、あのまま中学も一緒だったら、とか」



「成人式で会った時に、連絡先を交換しておけばよかったな、とか」


少しだけ笑う。


「今更言っても、もう遅いかもしれないけど…」


私は何も言わない。


言えない、が近いかもしれない。




---




「でもさ」


彼が顔を上げる。


「今だから、いいのかもって思った」


その言葉に、少しだけ息が止まる。


「今だから?」


「うん」


ゆっくりうなずく。


「もし昔だったら、たぶん気づいてなかったし」


「気づいてても、うまくいかなかった気がする」


視線が、まっすぐ向けられる。


「でも今は、ちゃんと分かる」


少しだけ間を置く。


「いいなって思う」


その一言は、軽くもなく、重すぎもしなかった。


ただ、逃げ場がなかった。




---




私は、少しだけ笑った。


困ったように。


「やめてよ。いい大人だし。子どももいるし。」


やわらかく言う。


責めるわけでも、拒絶でもなく。


ただ、線を引くみたいに。


でも、自分で自分に言ってるみたいに…


彼も、小さく笑った。


「だよね」


その一言で、全部伝わる。




---




店を出る。


前と同じように、別々の方向。


でも、少しだけ違う。


今回は、ほんの一瞬だけ立ち止まった。


「じゃあね」


「うん、じゃあね」


それだけ。


それ以上は言わない。




---




歩き出してから、少しだけ振り返りそうになる。


でも、振り返らない。


振り返ったら、きっと何かが変わってしまうような気がしたから。




---




家に帰ると、いつも通りの時間が流れる。


子どもが笑って、

夕飯の準備をして、

なんでもない一日が続いていく。


それでいいんだ。


それがいいんだ。


間違ってない。




---




でも、ふとした瞬間に思い出してしまう。


パン売り場で、手が重なりそうになったこと。


同じメロンパンを選んだこと。


そして、


「いいなって思う」


と、まっすぐ言われたこと。




---




叶わないから、特別なんじゃない。


壊さないから、残るんだと思う。


私は静かに息を吐いて、

目の前の現実に手を伸ばす。


その中にちゃんといながら、


ほんの少しだけ、


あのとき隣にいたということを思い出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ