最後
三度目も、やっぱり“偶然”だった。
大型商業施設のキッズスペース。
子どもを遊ばせようと近づくと、
女の子と一緒にいる、見覚えのある後ろ姿がふと目に入った。
少し迷ってから、声をかけた。
「…こんにちは」
振り向いた彼は、一瞬だけ驚いて、
それからすぐに、あの柔らかい表情になった。
「また、会ったね」
「うん」
短い会話。
キッズスペースの周りにあった椅子に座っていた彼の横に少し離れて座る。
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子どもたちはそれぞれ遊んでてこちらをあまり気にしていないようだ。
「奥さんは?」
「買い物」
「うちもそう。夫が店内回ってる笑」
前と同じようで、少し違う距離。
近すぎず、遠すぎず。
前と違うのは今回は子どもが一緒にいることだった。
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「俺さ」
彼がふっと言う。
「引っ越すことになった」
彼の方を見そうになった。
子どもが手を振ってきたので振り返した。
「そっか」
それだけ答える。
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「来月」
もう、すぐだ。
「そ、そうなんだ…。」
今、目を合わせるとだめな気がして
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「なんかさ」
彼が少し笑う。
「こうなる気はしてた」
「うん」
私も、少しだけ笑う。
「私も」
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ゲームセンターが近いキッズスペースの騒音の中。
二人の空間だけは静かな少しだけ空気が流れているような気がした。
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「出会うタイミングって、あるよね」
彼が言う。
「うん。あると思う。」
「ちょっとずれてるだけで、全然違う」
その言葉に、私は何も返さない。
返さなくても、同じことを思っているから。
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「でも」
彼が続ける。
「これはこれで、よかったと思う」
視線が、少しだけこちらに向く。
「ちゃんと気づけたし」
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私は、ゆっくりうなずいた。
「うん」
それだけで、十分だった。
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他の親子がやってきて遊び始めた。
「お互い元気で頑張ろう。」
「風邪には気をつけろよ。子どもからもらうから。」
彼が子どもに手を振りながら言う
「もうもらったよ笑」
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「君もね」
私は小さく返した。
子どもが少し遠くから笑ったので笑い返した。
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連絡先は、聞かない。
聞けば、つながってしまうから。
つながらないまま終わるほうが、きっときれいだから。
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ほんの一瞬だけ、目が合う。
言葉にしないものが、その中に全部ある。
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「ありがと」
彼が言う。
私は少しだけ笑う。
「こちらこそ」
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「私ね、多分初恋だった。」
彼がこちらを見たような気がしたが、私は子どもを見ながら続けた。
「小学校の時も、成人式で会った時も気づけなかったけど。多分、初恋で、好きだった。」
「……。」
嬉しそうな苦笑いのような顔になる彼に私は続けた。
「会えて良かった。ありがとう!元気でね!」
「お、おう!お前もな!」
今度は迷わず、彼に笑顔を見せる。
もう大丈夫だ。
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「おやつ買いに行こう?」
と子どもに声をかけて、お片付けを促す。
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いつも通り。
子どもの声、生活の音、
変わらず続いていく日常。
ふとした瞬間に思い出す。
入学式の日、隣を歩いたこと。
あの時は気付かなかった気持ち。
少しだけ重なった時間。
そして、偶然が続いただけのこと。
これ以上でも、これ以下でもなくていい。
もう過去のことだから。
あの時の青春はあの時のままでいい。
あの写真の笑顔はずっと綺麗なままでいてほしい。
私は小さく息を吐いて、前を向く。
今の場所で、生きていくために。
あのとき、となりにいた人は、
もう、同じ街にはいない。




