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第三話(中) 業(わざ)

「二人は魔法に関してどれだけ知っておる?」


「言ったことがそのまま起こるわね。」

「それから、辞書の説明通りに詠唱すると、威力がより大きくなります。」

「ふむ。概ねその通りだな。それが魔法の性質の1つ。紡いだ言葉が正確で具体的であるほど、起こる事象もそれに近づくということだ。」


「ですが、僕たちを襲った相手は、とても短い言葉なのにとても強力な魔法を使ってきました。」

「それにはいくつか理由がある。例えば、ただ『風』というよりも、『疾風』といった方が身を切る速さと鋭さが増す。ただの『風』は一方向に流れるのに対して、『旋風』なら渦巻く乱気流となる。」


「たしかに、あいつら『氷結』とか『凍雨』って言ってた。普通の雨だと思ったのに、アレクスの体に当たった瞬間凍り付いたわ。」

「そう、ただの単語よりも『どんな過程を経て、どんな結果になるか』を説明している単語の方が、より起こしたい結果に近づくということだ。」


 そうか。僕は自分でも気付かない間に具体的な詠唱をしようとしていたけど、言葉の種類を使い分けることも大切なんだ。


「それからもう1つ。言葉を知っているだけでは超えられないものがある。それは『イメージ』だ。試しに二人とも炎を出してみなさい。」

 二人は同時に炎を唱える。コハルの炎より、アレクスの炎の方が明るく大きい。

 

 「では、私が見本を見せよう。」

 アルケーが指先を立てると、そこにはマッチの火ほどの極めて小さな、しかし揺らぐことのない青い炎が灯っていた。全く無駄のない、完璧に制御された魔法だった。

 

「っ……すごい。こんなに小さくても、周りの空気が温かい。それに、その青い炎は辞書に載っていたやつだ。どうして青い炎を出したんですか?」

「赤いものの方が煌びやかで目を奪われがちだが、炎は本来、青い方が安定していて火力も大きいものだ。実際に、この程度の大きさでもお前さんが出した赤い炎に負けんほどの熱を感じるだろう。」

 新しい発見をしたことと、アルケーが本当に魔法に詳しいことがわかり、アレクスは感嘆の声を上げた。

 

「次は風魔法を使って、撫でるような優しい風を吹かせてみなさい。」

 アレクスの風は強く、机の上に置いてあった本のページがパラパラパラと音を立てて捲れた。

 それに対してコハルが吹かせた風は優しく穏やかで、頬を撫でられるようで気持ちよかった。

 たしかに、使う魔法によって二人の間には違いがあった。


 「これは二人がそれぞれの事象をどこまで知っているか、それは知識としてではなく、どこまで明確にイメージして言葉を使っているかによる違いだ。より鮮明に、より具体的にイメージするほど、結果はそのイメージに近付くのだ。」


 それから数日。洞窟の奥で暖を取りながら、二人はアルケーの指導のもとでひたすらに魔法のイメージを研ぎ澄ませていった。

「だんだん掴めてきたわね!」

「そうだね。アルケーさんの魔法を見ながら練習するとすごく捗るね。」


 二人の順調に成長しているのを見てアルケーは切り出した。

「二人は、この世界がどうしてこのようになってしまったか知っているのか?言葉が欠けてしまっていたり、大陸全土が凍り付いておる。」

 「いえ、知りません。それを知るために、僕たちは旅をしているんです。」

 

 その返事を聞いて、アルケーは重々しく口を開いた。

「そうか。そうしたら話しておこう。この世界の歴史を。」


「この世界はもともと言葉の欠けた凍てつく大地ではなかった。四季があり、春になれば花が咲き誇っていた。しかし、一つの戦争で世界が変わってしまった。その戦争は世界中を巻き込み、100年も続いたのだ。世界中のあらゆる国が疲弊し、すべての民が終戦を望んだ。しかし、それでも一度始まった戦争を終わらせられる者はいなかった。」


 二人は息を呑む以外にはできなかった。アルケーはさらに続ける。

「争っている理由をもう誰も知らなくなっていた。一度始まったもの止める術を知っている者もいなかった。」


「そんな中、ある国の一人の王が世界を凍てつかせてしまった。そして、戦争の中で使われた強力な魔法になる言葉を世界からなくすため、言葉を書き留めた辞書などをすべて焚書して世界を回ったのだ。同時に、炎のように頻繁に使われた強力な事象も取り上げていったのだ。」


「なんだか信じられない話ですね。一人の人間にそんなことができるなんて……。」


「そうだな。もちろん王一人ですべてを行ったわけではない。その王は誰もが認めるカリスマの持ち主だった。幼いころから多くの者を惹き付け、最期までついて行った者も沢山いた。その熱狂的な家臣たちの多くが協力したのだ。」

 

「でも、それって変だわ。世界中が氷漬けにされたのは分かったけど、みんなが炎や風を知らない、魔法が使えないってこととどういう関係があるの?」

 コハルが当然の疑問を口にした。


「魔法の性質は先ほど話した通り2つ、言葉を紡ぐこととイメージをすることだ。そして、新しい事象が見つかり、名前が付けられれば、新たな魔法が1つ増えるということでもある。」


 二人は目を見開いた。

 新しい魔法が増え続ける。当たり前のはずなのに、そんなこと今まで考えもしなかった。

 

「では反対に、言葉も事象そのものでさえも、誰の記憶からもなくなってしまった場合、それはどうなる。」


「……っ!まさか⁉」


「そうだ。この世界から、魔法のみならず、事象そのものもなくなる。正確には認識しなくなるということだが、本人たちの中では存在しないも同然なのだ。」


「そんなことまでわかっていたんですか?」


「いや、そこまではわかっていなかっただろうな。火種を極力小さくしようとした結果の、思わぬ副産物だったのだろう。意図せずして戦争の無い世界にしてしまった。」


 あまりに巨大な真実を前に、洞窟の中は深い沈黙に包まれた。

 アレクスは、自分の両手を見つめた。

 不思議な祠を開き辞書を見つけ、村に「炎」を取り戻した。その時は自分が村を救えたことがとても嬉しかったし、同じ苦しみにあえぐ人たちを救うことは正しいことだと信じて疑わなかった。しかし、もし王のやったことが、戦争をなくすための苦渋の決断だったのだとしたら?

(僕は……世界にまた戦争の火種をばら撒こうとしているのか……?)

 失われた言葉を、魔法を取り戻すことは、本当に「善」なのだろうか。炎のあたたかさを知ってしまった今、アレクスには答えが出せなかった。


「少し、外の空気を吸ってきます。」

 アレクスが沈黙を破り、重い腰を上げ、洞窟の外に出て空を見上げた。

 

 ――その時だった。

 突然氷の礫が襲う。アレクスがこれを撃ち落とす。

 

 「アレクス大丈夫⁉何があったの⁉」

 異変を感じた二人が洞窟から出てきたところで、聞覚えのある声が聞こえてきた。


「こんなところにいたのか。探したぞ!今度こそ逃がさん!」

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