夏休みのある日
夏休みも2週間が過ぎ、7月の後半。
「ヒマなら手伝いなさい」と、ものすごい威圧感でおばあちゃんに言われたため、今日の午前中は境内の掃除である。面倒なので、もう掃除って言っちゃう。
「菅野、こっちは終わったぞ」
「はーい。じゃあ、こっち手伝って」
有名どころよりは短い階段の掃き掃除を終えた神宮さんが、若干離れたところから、叫ぶようにして呼ぶ。ちなみに、巫女装束の私とは違い、神宮さんは普通のTシャツである。とてもうらやましい。……巫女装束、結構暑いんだよね。
「箒か?」
「うん」
「分かった。……あっ」
何か、虫でもいたのだろうか。それとも落とし物か。神宮さんの驚いた声で終わった短い会話の後、神宮さんは、階段を上がってすぐに来た。そして、その後ろから、沙耶香ちゃんと雅人くんが上がってくる。
「おーい、久しぶり!」
沙耶香ちゃんは階段を駆け上がってきて、途中で足を止める。息を整えている間に、歩いて登ってきた雅人くんが追い越した。
「よっ、久しぶり!」
「居てよかった~。ホントに連絡なしできちゃったから……。今、平気? お掃除終わるまで待ってようか?」
「あ~、多分大丈夫だと思うけど、おばあちゃんに聞いてくるね! ちょっと待ってて!」
言うやいなや、私は、みんなに背を向けて本殿の中へ。おばあちゃんがまだ掃除を終えていなければ、ここにいるはずだ。
本殿に入った途端、すっと涼しくなる。直接日光を浴びないだけで、こうも違うものか。室内で掃除、いいなぁ。
愚痴をたれていても仕方がないので、おばあちゃんを探す。
「あ、咲子」
おばあちゃんに呼び止められる。掃除を始める前に持っていたはたきがなくなっている。どうやら片付けてきたようだ。それで本殿にいなかったらしい。
「そろそろ終わりにしていいよ。ありがとう」
「はーい。友達来てるんだけど、離れにあげてもいい?」
おばあちゃんは少し考えると、確か、と付け足した。
「サイダーと羊羹があったと思うけど、離れに持って行けばいいかい? それとも、自分で持って行くかい?」
おばあちゃんが選択肢を用意してくれたのは、友達に親を見せたくない可能性を考えてだろう。だがしかし、あの2人はそんな心配をしなくて大丈夫だろうし、何より、私は気にしない。神宮さんも、別に気にしないだろう。
「持ってきてくれた方が嬉しい」
正直にそう言って、境内に戻る。日陰に避難していた3人に、離れに向かうことを報告。ついでに、サイダーと羊羹がもらえることも言ってみる。
「うっし、サイダーッ!」
「雅人、雅人」
喜ぶ雅人くんを見て、沙耶香ちゃんが呼ぶ。振り向いた雅人くんのおでこに一発、デコピン。
「反省しましょう。失礼でしょ」
「へ~い」
いつ見ても楽しそうなペアだな。
「なんか、夫婦げんかみたいだな」
神宮さんの一言は、2人の調子を狂わせる。いたたまれない。
「神宮さん、そういうことは……」
あんまり言わないで、の一言は、無垢すぎる神宮さんの瞳を見て、飲み込んだ。
「うむ?」
うん、予想はしてた。ホント、変わらないよなぁ、も~。
多分、悪気のない神宮さんの方が、雅人くんより厄介だろうな。
なんだかんだで離れに着いた。なんだか、移動時間がとても長く感じた。普段の調子を取り戻した沙耶香ちゃんと雅人くんを、居間に案内する。
「なんか、昔って感じがするよな」
扉を開けてすぐ、石のタイルを敷き詰めた土間。その奥は長い一直線の廊下。向かって右手側に、3つの部屋とトイレや風呂の部屋が順に並ぶ。確かに、一般的な家にはないかもしれない。
「目の前の部屋が居間だから。その向こうの2つは個人の部屋だから立ち入り禁止で。私、着替えてくるから、神宮さんよろしく」
「うむ」
自室で、5分くらいで着替えを済ませ、髪をまとめる。
「ごめん、待たせて」
居間に行くと、既にサイダーと羊羹が人数分並んでいた。
「いや、いきなり来たのは私たちだから、気にしないで。むしろゴメン」
「いや、そんなことは。……で、決まったの? 海の日程」
そのために来たんだろう。私は、気になって仕方がなかった。
「そう。7月の28、29日でどうかな?」
神宮さんは、さっとカレンダーを確認した。心なしか、いつもより動きが速かった。よほど楽しみなのだろう。リアクションがわかりやすい。
「来週の土日か。俺は、予定はないな」
「私もないよ。あとは、おばあちゃんに聞いてみないとだけど。ちょっと聞いてくるよ」
離れの廊下の一番奥、母屋側のドアを開ける。その先は、渡り廊下のようになっていて、居間は窓が全開なので風が通り、涼しい。おばあちゃんが離れで生活していた頃、つまり、私のひいひいおばあちゃんの代に、いちいち外を通るのは面倒だから、と、増築したらしい。おかげで、移動は楽だ。ひいひいおばあちゃん、ありがとう。
「……ということなんだけど、いい?」
「うん、その日はいいよ。旅行代くらいは出すから、4人で楽しんできなさい」
と、おばあちゃんは、二つ返事で許可をくれた。
これを3人に伝えると、早速詳しい事を決め始めた。持ち物や集合時間を決めると、現実味が増してくる。結局、お昼の時間になって2人が帰るまで、会話が絶えることはなかった。
「そういえば神宮さん、私が着替えてる間、何の話をしてたの?」
「む? ……」
神宮さんは黙り込み、目をそらされた。……あれ?
「まぁ、その……。うむ……」
なんだか、ものすごく気になる。心なしか耳が赤くなってる気もしなくはないが……。神宮さんがからかわれたんだろうか?
――海に行く日、絶対に、2人から聞き出そう。
居間は冬なので、早く夏にならないかな~と思います。
冬は嫌いだ……




