終業式
先ほどの六時間目で、全ての教科のテストが返却された。
そして、珍しいことに、私は舞い上がっていた。
どの教科も、平均点を10点は超していたからだ。得意な国語は25点、苦手な数学も12点上だ。やったね!
「菅野、合計はどうだった?」
「超いいよ。ちょーいい。復習ってすごいね!」
元々副教科はいいので、5教科のワークを繰り返し解くだけでも、全体平均が安定した。
各教科の自分の点数や、学年平均などがまとめてあるプリントをまとめるファイル、“向上の栞”の中には、一枚の藁半紙。
先ほどのホームルーム中に渡されたそれに書いてある合計点数は、見たこともない点数になっている。
ふと気になって、やはり好奇心が勝った。嫌な予感がしつつも、聞いてみることにする。
「神宮さんの点数は?」
「まぁ、満点にはとどかなかったけれど……」
「とどいてたら怖いよ!」
そう突っ込みを入れつつ、神宮さんの見せてくれた向上の栞を見る。
――そして、失神しそうになった。
「全部90点台とか、これ本物!?」
思わず紙を疑いたくなる。しかし、名前のらんに“神宮照彰”と書いてあったので、信じることにしよう。
「……こんなものか?」
多分、大げさに驚く私を見て、これで問題ないと認識したのだろう。だがしかしっ!
「こんなものも何も、こんなにいい点数とってたら1位もとれちゃうんじゃない?」
しかし、神宮さんの目は大きく見開かれただけで、代わりに人差し指がある数字を指した。
“学年総合順位 2位”
「1番、とれてないんだけど」
「はぁ?」
2番だっていいじゃない! 私なんて2ケタだよ、2ケタ。中学時代は40番台で、それでもまわりに褒められてたんだよ? 今日だって、20番台弱だって言ったら、おばあちゃん、どれだけ喜んでくれるか、って考えてたのに。
ホントに怪物だわ。
「菅野、次のテストはいつだったか」
「2学期はいってすぐだよ。中間テストって言って、主要5教科だけテストするの。――まさか……」
「次は勝つ」
そう言って、今初めて名前を覚えたばかりの“相島英理くん”に、宣戦布告。
……わー、神宮さん、負けず嫌いだったんだー。がんばれー。
レベルの違いすぎる戦いに、私は、若干ついて行けていなかった。
テストを(特におじいちゃんに)たくさん褒められ、それからの勉強に対する姿勢も少し変わった。
1週間とは早いもので、がんばろうと思っていた授業も、すぐに終わりを迎える。これから、お待ちかねの夏期長期休暇――すなわち“夏休み”である。
「あーっ! さっちゃん、ちょっと待って」
「あと、照彰も」
沙耶香ちゃんと雅人くんに呼び止められ、教室から一歩踏み出す形で止まる。2歩ほどの差で、既に廊下にいた神宮さんも振り返った。
急いで鞄を持って、そして上着をしまい忘れたことに気がつき、慌ててしまう沙耶香ちゃん。それを待ちつつ、少しだけ急かす雅人くん。
うわー、恋人っぽーい……。
慌てて合流してきた沙耶香ちゃんたち。
「2人は、夏休みの間、神社のお手伝いとかあるの?」
「さぁ、どうだろう……? おばあちゃんに聞いてみないといけないけれど、自由時間ぐらいはあるよ。っていうか、なかったらおばあちゃんとケンカするよ。ねぇ、神宮さん」
「うむ。でも、寬子さんには勝てないと思う」
「そういうことじゃないんだってば」
雅人くんに吹き出されてしまったため、どこかずれた会話を一旦止める。
「漫才みてぇ」
「たしかに」
「……それはそうと、何かあるの?」
そう聞くと、本来の目的を思い出したようだった。
「あぁ、そうだ! 7月の後半に、一緒に海の家に行かない?」
「ウミノイエ?」
明らかに分かっていない神宮さんを無視して、私が聞く。
「いつ?」
「それが、詳しくは決まってないんだよね~。なんか、お母さんが実家に帰るんだけど、そこが、新潟の海の近くなんだ。で、2人も一緒にどう? ってこと」
「……いいの?」
「うん。2人がいいなら」
やっほーい、海だ~!
「で、日にちが決まったら連絡したいんだけど、メルアドとか教えて?」
「あー……。うち、携帯もパソコンもない。おばあちゃん用はあるけど、メルアドは貸してもらえなそう」
「うそ、携帯ないんだ……」
それは、馬鹿にするのではなく、単に驚いている表情。
「私たち、そういう代金を、全部自分で出せって言われてるんだ。携帯に回るお金がなくて……」
神宮さんが、そっと一歩下がった。多分、会話について行けなくなったのだ。
「だから、遊びに来ない? 私たち、平日は基本的に神社にいるから。いつでもいいよ。どうせ、境内ではいつでも、ちっちゃい子たちが遊んでるし」
「あ、いつでもいいならいくよ。ね」
「おう」
雅人くんも来るようだ。まぁ、何人来たところで問題はない。
「じゃあ、そういうことで!」
2人が先に帰ると、神宮さんが一歩踏み出した。つまり、再び私に並んだ。
「……菅野、会話の前半の説明を頼む」
ああ。そうだね。
「帰りながらね。最終的に決まったことは分かった?」
「うむ。海は初めてだ!」
おばあちゃんを説得しなくちゃ。
鞄を持ち直し、家路につく。
いただいたご指摘を参考に、ほぼ全ての話を修正しました。
読んでいただかなくても支障はないかと思いますが、読んでいただけたらありがたいです。




