七夕は旧暦に
3日目のテストが三時間目で終了し、普通の生活に戻る。半日で帰れる日は終わってしまった。少し残念だ。しかし、だからといってすねるわけにはいかない。というか、もう慣れた。
なんだか、とても久しぶりに感じる昼休み。図書室に行こうと席を立ったら、沙耶香ちゃんに呼び止められた。
「さっちゃん、図書室行くの?」
いつのまにやらさっちゃんと呼ばれるようになっているが、これはここ最近のことだ。テスト直前じゃなかっただろうか。もう慣れたから、いつからだったか、はっきりとは思い出せない。ちなみに、鈴華ちゃんはかなり前からこう呼んでいたな。
彼女自体、私が図書室に行くことを確信している。本を抱えて教室を出て行くのだから、そうでないと考える人の方が、あるいは少ないのかもしれないけれど。
案の定。私の返事がなくても、机から本を取り出して、笑った。
「一緒に行ってもいい?」
「もちろん」
例えば、図書室に行く間の、ほんのわずかな時間でも、会話が絶えないのが女子高生というものだろう。
「そういえばさぁ。うちの神社の七夕祭りが、8月だった気がするんだけど、なんで? こっちではそうなの?」
自分の家の神社のことなのに知らないというのも、なかなか恥ずかしいことだけれど、不思議だ。私の以前住んでいたところでは、ちゃんと7月7日に七夕をしていた。こっち特有の事なのかもしれない。そうなると、地元の人に聞くことが一番だと思うのだ。
「うん。なんか、旧暦に合わせてるみたいだよ」
全然知らなかった。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。聞いておける友達がいて、本当に良かったと思う。
「中学までは、7月7日に、七夕メニューが出てたんだよ、給食で。この学校は、給食はあるけどでないからね。ここら辺にすんでる、高校生以上の人には、七夕は7月7日だって意識もほとんど無いんじゃないかな?」
「ふぅん……。なんだか、変な感じだな」
同じ日本だし、7区分では、同じ“関東地方”に入る。さほど遠くもないのに、こんなに違うなんて、少し変な感じだ。
図書室にはいってすぐ、まずは本を返却する。
しかし、会話は絶えない。代わりに、ほんの少し、ボリュームを落とした。
「そしたらさ。照彰くんも、8月に七夕をするって知らないのかな?」
「う~ん、どうだろう?」
……七夕を知っているかどうかすら怪しい、なんて言えない。
「……っていう事があったんだよ」
神宮さんに、私の思考部分を一切合切省いて、一連の会話を教えてみた。そして、最後に、七夕を知っているか聞いてみた。
聞かれた神宮さんは、少し怒っているようだ。
「私とて、七夕くらい知っている」
そして、怒った態度から一転、ふんっ、とそっぽを向いた。いじけてしまったようだ。
「ちょっとっ。……ごめんってば」
私が、慌てて謝る。しばらく反応してもらえず、何度か謝ってみる。
すると、口をとがらせたまま、こっちを向いて、
「……と言っても、実は、菅野のマンガを読んで知ったのだけれど」
そして、「なんちゃって」と言ったあと、照れたように笑った。
……うそ。今の、冗談? ぜんっぜん分からなかった! 普段とキャラが違いすぎて、どう反応していいのか分からない。
「じ、じゃあ、神宮さんは、どんな願い事をするの?」
話題を変えてごまかそうと思って、
「……だから、明後日ではないのだろうに。その話をしたかったのではないのか?」
墓穴を掘ってしまった。
むぅ。明後日の7月7日に七夕をしない、という話を得意そうにした私が、結局話題を戻してしまった。あ~あ……。
「……えーと、なんか、気になって。書くのは当日だから、別に言わなくてもいいけど」
「ふむ」
視線を落として、納得したらしい後、神宮さんは、急に顔を上げた。
「では、菅野はどんな願い事をするのだ?」
「え……」
どうしよう、と考える。
「えと……」
何だろうか。なんだか、毎年こんな風に悩んでいる気がする。
「いや、言いづらいなら、無理に聞きたいわけではないから、いいぞ。本番は8月7日なのだし」
「……」
「では、お互いに、当日のお楽しみ、という事で、な?」
私へのフォローなのだというのは、よくわかる。最近、神宮さんが鋭くなってきている気がして、少し焦る。
まあでも、当日のお楽しみ、というのは、本当に楽しみだ。普段お願いされる側の神様が、どんな願いを書くのか。“世界平和”とか書いてあったら笑ってしまう。
「どうした?」
心配そうに聞いてくる神宮さん。ふと、今日は負けっぱなしの気がして、少しやり返してみることにした。
「……お願いは、“世界平和”とかですか? ……神様」
びっくりしたように固まる神宮さん。そして、少しすねたように、再びそっぽを向く。
そして、本当に小さな声で、一言。私の聴力では、はっきりとは聞こえないほど。
「もっと、個人的な願いだ」
8月7日、何を書くのか、楽しみになった。
これまでに投稿していた話を、大幅に編集しました。
総話数がかなり減っていると思いますが、多分全体の文字数は増えています。




