表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/27

「だ~か~ら~、」


テスト2日目が終了した。すでに半分以上燃え尽きている私の隣には、相変わらず普段通りの神宮さん。離れの居間で、明日に備えて勉強会中だ。

 初めは2人で机を挟むようにしていたのだが、神宮さんが勉強に飽きたのと、私の質問がしつこいのとでこういう配置になった。

 しかし、私も、解き方が分かってしまえば早いのだ。さっきまでの質問の量は一変して、居間は静かになった。神宮さんは、私が昨日言っていた本を読んでいる。昨日、帰ってきてから貸した。

 数学のワークの見開き1ページを終え、丸付けが終わると、次のページをめくる。途端に、青ざめる。私の嫌いな、にっくき三角関数の問題が並んでいた。全世界の数学好きのみなさん、本当にすみません。でも、嫌いなものは嫌いなんだよ!

「どうしたのだ? 随分と顔色が悪いように見えるが」

 いいところまで読み切ったらしい神宮さんが、私の顔を見て、ゆっくりと本を閉じた。

「何処が分からないのだ?」

テキストをのぞき込む神宮さん。少し近い気もするが、あえてスルーしよう。神宮さん本人は気にしていないはずだし。

「ここは図を書いた方がいいかもしれないな。こう、こうに線を引いて」

「こう?」

「いや、違う。……こうだ」

違ったらしく、さらに身を乗り出して、テキストの余白に、指で線を引いていく。私もシャーペンで後を追う。

「こういうこと?」

「そうだ。で、ここがこう……」

「え? あぁ、それで良かったんだ」

“四角1”が解決した。“四角1”の確認兼練習である“四角2”はいいのだが、“四角3”は解けなかった。先ほどの質問から5分とちょっとしか経過していないが、再び次の質問。ページをめくりかけた神宮さんが、嫌な顔をせずにテキストを覗きこんだ。……ごめんね。

「ここは、こうだ」

「こう?」

「いや、違う。……だから、こう、だ」

神宮さんは、いちいち説明するのが面倒になったらしい。私の手の上からシャーペンを握り、線をひき始めた。ドキドキする展開なんだろうけど、一瞬、思考が置いてけぼりになって、それどころじゃない。

「……と、こういうことだ」

「――え? あ、……もう一度お願いします」

「……」

神宮さんは、もう一度、丁寧に説明してくれた。だがしかし、やっと帰ってきた思考が、数学の問題じゃないところに反応し始めた。少女マンガとかで、主人公が惚れてしまう、よくあるシーンだ。いつだったか、神宮さんのこと好きなのかと考えたときとは違う。王道中の王道だ。

 神宮さんの手が温かい。温かくて、私の手よりも少しゴツゴツしてて、骨張ってた。男子の手って、すごい。お父さんのと違って、細くて、柔らかったけど、私のとは、あきらかに違った。

「……わかったか?」

「あへ?」

 変な声を出してしまい、慌てて口を押さえる。いかん。まったく分からなかった。

 ――私、何考えてるんだろう……。

「ごめん、神宮さん。私、もう無理」

「うぬ?」

「集中力が限界」

「……。では、少し休憩にしようではないか」

時計を見た神宮さんが、ため息をついた。その割には楽しそうなので、よしとしよう。

 離れにある簡易キッチンでお茶を入れると、神宮さんが目覚ましを取り出した。

「20分休憩しよう。気づいたら、かれこれ2時間勉強していた」

ホントだ。

ティーバッグの紅茶を飲みつつ、何か話題を探す。

「そういえば、神宮さんの目覚まし、音楽が鳴らない?」

 毎朝、うっすい壁一枚しか仕切りがない部屋にすんでいるから、目覚ましの音楽も、わずかとは言え聞こえてきてしまう。もちろん私のも聞こえているんだろうな。

「ああ。寬子さんにもらったのだが、何かの懸賞で当たったらしくてな。それのCMソングなのだそうだ」

「なんの?」

「何だったか……。たしか、のど飴か何かだったと思う」

「あぁ、あれか!」

やっと思い出した。最近、テレビでは聞かなかったから、いわれるまで分からなかった。

「あれね、歌詞があるんだよ」

「……あんなに短いのにか?」

「そりゃあ、CMですから」

歌詞とは言わないかもしれないけどね。

 こんなくだらない話題でもここまでもりあがれるとは……。

 例の音楽が鳴る頃には、面白がった神宮さんも、すっかり歌詞を覚えていた。

「毎日おもしろい~」

 神宮さん、ノリノリ。でも、勉強に戻らなくてはいけない。

 ふとシンデレラを思い出した私は、勉強のために、頭を切り替える。


 ……でも、神宮さんの鈍さには、どうにも耐えきれないらしい。

 しっかり覚えることができないまま、いたずらに時間は過ぎゆく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ