テスト後の自由時間
「終わった~」
神宮さん、あなたは、テスト初日が終わっただけで、まだあと2日あるというのに、なぜそんなに晴れやかな笑顔ができるんですか?
「どうだった? テスト」
「うむ。たったの3時間だけ席に座っていれば後は自由とは、すばらしいではないか!」
落ち着けー!!
「ほら、深呼吸3回」
「う、うむ……」
律儀に深呼吸を3回する神宮さん。本当にそれだけで直るんだから素晴らしい。
――というか、テスト後の学生にそれ言ったら、切り捨て御免だよ? 友達いなくなるよ?
「この後は、どうする?」
「とりあえず昼食。どうする? 外で食べる?」
「むぅ……」
何で悩んでいるのかがさっぱり分からないが、何かに迷っているらしい。私としては、作るのは大変面倒だから、外食がいい。でも、自費となると……、確かに迷うね。うん。
「外食でもいいよ?」
誰だって、外食を喜ぶだろう、という私にとっての一般常識にそって聞いてみた。神宮さんはまだ少し迷い、何か言おうとしたのか口を開き、――すぐに閉じた。
「外食でいい」
「何処がいい?」
お店の名前などの詳しい情報を期待して聞いた。
「……近いところで、安いところ……」
神宮さん、地図とか見てないね?
「そしたら、すぐそこに個人経営の、おばあちゃんの知り合いの店があるから、そこに行こう。……神宮さん、そばとかうどん、平気?」
「うどんの方が好きだな」
さいですか。
一旦家に帰って、それぞれ制服を私服に着替え、鞄の代わりにいつも持ち歩いているバッグを持ち、家を出る。
神宮さんは、白い半袖に、水色チェックのシャツを着てきた。もちろんジーンズだ。あまり、服にこだわりがない神宮さんも、半ズボンは拒否したため、長ズボン。それから、最近手に入れた、肩から斜めにかけるバッグを持ってきた。
「何が入ってるの?」
「サイフと、文庫本が一冊。後は特に」
なるほど。
私は長めの白い半袖シャツ。左胸には、“Reflected in the mind”と黒い太字で書かれている。その上に、薄くゆったりとした黄色の上着。下はもちろんジーンズ。
「さあ、レッツゴー!」
……もちろん歩きで。
ハァ、早く車欲しい。
「こんにちは~」
「はい、いらっしゃい」
店内は、お昼にしては少し遅いからか、割と空いていた。しかし、2人で切り盛りしているようで、大変そうだ。
――ここでならアルバイト許可が下りるかな? 近いし、おばあちゃんの知り合いだし。
もう何回も考えていることだが、隙あらばアルバイトができないか、と狙っている。
高校生のお財布事情は厳しいんだってば!
「月見うどんと」
神宮さんをみる。
「じゃあ、それ2つ」
「はい、月見うどん2つね」
月見うどんが来る前に、次の予定を把握する。
「この後、絶対にしなくてはいけないことが、買い物。メモはもらってあるから、スーパーに寄っていけばよさそう。で、ものは相談なんだけど……」
少しためて、いい話感を出す。いや、実際いい話なんだけど。
「ここからスーパーに向かう間に、少しだけ遠回りすれば、古本屋さんがあるんだよね。……寄っていかない?」
「古本!? 寄る!」
よし。
目を輝かせる神宮さんの前に、月見うどんがおかれる。神宮さんの目がまぶしい。
でも実際、私もお腹は空いていたので、神宮さんの気持ちが分からなくもない。ありがたく食べる。
「いただきます~」
しばらく無言で食べる私たち。空腹は最高の調味料とはよく言ったものだ。
「そういえば」
お互いのどんぶりの中身が半分に減った頃、神宮さんが切り出した。
「テスト、どうだったんだ? 手応えは」
「あったよ」
即答してみる。実際に、即答できるほどのできだったのだ。
「普段よりも、身についてた。復習って大事だね」
「ならよかった」
久しぶりに見る神宮さんの誇らしげな笑顔は、前に見たのとどこか違っている気がした。ここになれてきた安心感やらそんなのがあったのだろうか。でも、違和感の正体は分からない。別にそこまで気にならないから放っておく。
「ごちそうさまでした」
すっかりお客の減ったお店を出ると、神宮さんが言った。
「さあ、古本屋へレッツゴー!」
……といっても、すぐ近くなんだよね。2分くらいで着く。
「はい、到着」
“大江堂”と書かれた古そうな看板を見て、神宮さんが一言。
「思ったより早かったな……」
「こんにちは~」
私は、無視してお店に入る。外で見ていてもいいことはない。本が目の前にあるのに、入らないわけにはいかないじゃない!
「いらっしゃい」
優しそうなお兄さんがいた。お兄さんという表現が一番しっくりくる。大学生くらいだ。……この前覗いたときは、おじいさんが店番していると思っていたけど。入ってはいないから、はっきりとは分からない。
店番をしているお兄さんは、私たちが本棚に向かい、本を見始めたのを確認すると、再び本を読み始めた。私の目は、お兄さんの読む本に釘付けになる。
「その本、読んでるんですか!?」
他にお客さんはおらず、店内は静かだ。興奮気味の私の声は、若干反響した。
「え? あ、ああ、これかい?」
「そうです! ……その本、面白いですよね! 特に、――ここが!」
「そこに惹かれるとは、結構渋いねぇ。でも、僕も賛成」
まるでお年寄りのようにゆっくりと話す。マイペースなんだろうけど、話は合った。この人も、相当読み込んでいる。
「……そんなに面白いのか?」
「そりゃあ、もう! 私、持っているから、貸すよ!」
「共有の本棚にはなかったぞ」
「うん。部屋に置いてある。帰ったら貸すよ」
しかし、神宮さんは乗り気でなさそうだ。
「……いいのか? 共有じゃないんだろう」
「好きだったから、部屋に置いといたんだけど、喜んで貸す。むしろ読んで」
「ありがとう」
そこで、お兄さんのことを忘れていることに気づき、慌ててそっちを見る。
「……」
話を聞いているのかいないのか、本を読んでいた。
マイペース……。
その後、しっかり忘れずにスーパーにも行った。
神宮さんが覚えていなければ忘れていた。良かった。




