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さっちゃんが寝ちゃった

「ご迷惑をおかけしますが、孫をよろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそ。娘も、随分前から楽しみにしていたようで。それでは、お預かりします」

「よろしくお願いします」

 おばあちゃんと沙耶香ちゃんのお母さんが話している。おばあちゃんは、こう見ると若いのかもしれない。若く見えるだけであって、本当は既に70代だ。それでも、若い。元気だからかもしれないし、服のチョイスがいいのかもしれないけれど。

 茶髪がかった髪をひとつにまとめた沙耶香ちゃんのお母さんは、とても元気そうで、笑顔の素敵な人だ。車から降り、こちらを見ているのはお父さんだろう。こちらもずっと笑っている、優しそうな人だ。

 沙耶香ちゃんと雅人くんは、沙耶香ちゃんのお母さんと一緒に来て、おばあちゃんに、この前のお礼を言っていた。それからは、私と神宮さんと同じく、黙って2人の会話を聞いていた。

「じゃあ、行きましょうか」

「よろしくお願いします」

おばあちゃんと沙耶香ちゃんのお母さんの会話が一段落したところで、私と神宮さんも頭を下げ、挨拶した。

「よろしく、沙耶香ちゃん、雅人くん」

「うん。神宮さんは、一番後ろに、雅人と乗ってね。さっちゃんは、私と真ん中に乗ろう」

「うむ」

 沙耶香ちゃんの指示を受け、言われたとおりに座る。大きな車だ。荷台にはたくさんの荷物が積んであるらしい。乗るときに「よろしくお願いします」と言うと、運転席にいた、沙耶香ちゃんのお父さんが返事をしてくれた。

「太平洋の方に行くんだ。2,3時間でつくと思うよ。ここは、県内で遊ぶにはちょっと物足りないけど、交通の便はいいから。2人とも、引っ越して来てから、県外には行った?」

沙耶香ちゃんに聞かれ、正直に答える。

「いや、行ってない」

「そっか」

「待たせてゴメンねー。じゃあ出発するから。よろしく」

「おう。じゃあ、出発しまーす」

沙耶香ちゃんのお母さんが乗り込んできて、車が動き出す。

「咲子ちゃんと照彰くんだね。沙耶香から聞いてるよ。私は、沙耶香の母です。弥生やよいって呼んでください。こっちは旦那の昭洋あきひろ

「よろしくね」

二人とも、若いというか、随分とノリがいい。楽しそうな家族だ。横から、沙耶香ちゃんが、話しかけてきた。

「うちの親、二人とも元気でしょ」

「沙耶香だって負けず劣らずでしょうに」

「まぁ、親譲りだろうなぁ」

昭洋さんの指摘に、親子二人の声がハモった。

「あなただって一緒よ」

「父さんも一緒だよ」

 ……なんだか、沙耶香ちゃんの元気さのルーツを見た気がした。



「……ぐっすり寝てるな」

 雅人が言う。さっちゃんは、車が発進して1時間程すると、会話が途切れたものの10分程の間に、熟睡してしまった。海に着いたのに、揺すっても、耳を引っ張っても、くすぐっても起きない。

「あー、寝たのか……」

 照彰君は、仕方ないな、という風にため息をひとつつくと、さっちゃんのおでこを、軽く握った拳で小突いた。

 すると、私が何をしても起きなかったさっちゃんが反応した。まるで猫みたいな声を出して、うっすらとまぶたを開ける。

「なぁ……?」

「菅野、ついたぞ」

「……どなた様ですか?」

寝ぼけているようで、照彰君を誰とも認識できていないようだ。さっちゃんのこんな一面は、初めて見た。照彰君は、少し視線を宙に泳がせた。何か思いついたようで、さっちゃんの顔を見て、少し声色を変えて言う。

「県警の者です。あなたに逮捕状が出ています。署にご同行願えますか」

「そんな! 私は無実です! 私が何をしたというのですかぁ……」

普段は絶対聞かない照彰君のこんなセリフにも驚いたが、それに、急にぱっちりと目を開け、はっきりと答えるさっちゃんにも驚いた。2人とも、まるで役者のようだ。雅人も、何もできずに立ったまま、成り行きを見ている。

「……あってる?」

「菅野はあってると思うけど、俺が間違えたかもしれない」

なんだか、本のセリフかなにからしい。そんな、とてもついて行けない会話のあと、さっちゃんは、急にそわそわし始めた。

「どこ?」

「海。思い出した?」

「あー、思い出した……。お恥ずかしいところをお見せしました……」

急に赤くなるさっちゃん。

「っていうか、さっちゃん、面白い起き方するんだね」

「うむ。菅野は、ああしないと、五分以上は起きないぞ。最初の頃は、2ケタ2ケタの足し算を出したりしていたんだけど、あまり難しすぎると出てこないし、簡単すぎてもまた寝てしまうしで、大変だったんだ」

「神宮さん! そーやって、ばらさなくていいから!」

「え、どういうこと?」

 会話に入っていく雅人。さぅちゃんへの配慮が感じられないけれど、私も気になるので、止めない。

「あーもう、そんなに気になる事かなぁ……」

 さっちゃんは真っ赤で、前髪を指でつまんでは、いじっている。

「起きなきゃって分かってても、起きられないことって、ない?」

「いや、あるけど」

でも、あんな起こし方をされたことはない。

「寝起きって、意識がはっきりしないから。目覚ましとかだったら、十分前にセットすれば、意識がはっきりするまで待てるんだけど。急に起きる時って、そうもいかなくて」

「居間で昼寝をされたとき、夕飯前に起こすときは、いつもこうなんだ。最近、計算問題を考えるのが面倒になって、共通して読んだ本のセリフを、抜き出したりしているんだ」

「え、それ、すごいよ。二人とも覚えてるって事でしょ?」

「まぁ、うろ覚えだけどね」

さっちゃんが、照彰君に同意を求める。二人とも、こともなげに言うけれど、すごい事だと思う。



 普段、明らかに優等生という様子で、非の打ち所がないさっちゃん。今日、とてもかわいい一面を見た気がした。

 それから、学校では、カップルらしい言動の少ない二人だけど、ちゃんと仲いいんだ、と、思ってしまった。……少し上から目線だけど。

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