――お父上の武勇伝?――
教室へ向かう途中、私は、気になっていた続きを聞こうと、神宮さんに話しかけた。
「神宮さん、天孫五輪? の続きが聞きたい」
「……天孫降臨。それではオリンピックだろう」
……たしかに。
「……よ、良く気づいたね! いやー、気づかれにくい問題だと思ったのに~」
「そうか、クイズのようなものだったのか……。それは、気がつかなくて悪かった」
ハイ、お決まりのパターン。ちょっと強がってみただけなのに、何倍ものダメージを良心に負ってしまうタイプだー……。これこそまさに、自業自得。
「そ、それはいいから、天孫降臨? の続きを教えて? もちろん知っているんでしょ?」
「うむ。父さんの武勇伝だからな!」
さて、高天原から追い払われたスサノオは、地上の世界である“葦原の中つ国”に降り立ちました。
それからかなりの時がすぎ、スサノオの子孫であるオオクニヌシは、いくたびの試練を乗り越え、葦原の中つ国を長いこと治めていましたが、ある日、高天原のアマテラスから国を差し出すよう命じられ、結局それに従ったのでした。
ここで一旦話を切る。神宮さんは、指を折りつつ、解説してくれた。
「実は、天つ神が葦原の中つ国を治めるに至るまでに、何人もの神様がチャレンジしては、失敗しているんだ。ニニギノミコトの父、アメノオシホミミは、1番最初にいって、失敗している」
どうやら、チャレンジした神様を数えていたらしい。言葉にはせずに、手を見せてくれる。4を表していた。
「えっっ!!」
「途中にいったキジを入れると、5人」
「……」
……アマテラス様は、相当諦めが悪いらしい。
ある日のこと、アマテラスは息子のアメノオシホミミを呼んで言いました。
「ようやく葦原の中つ国を治める時がきました。前に話したとおり、あなたがそこに降りて、国を治めなさい」
するとアメノオシホミミは、
「私が葦原の中つ国に降りるしたくをしている間に子どもが生まれました。名をニニギノミコトといいます。私のかわりにこの子を降ろすのがよろしいかと思います」
と答えました。実は、アメノオシホミミは、葦原の中つ国へ降るのが嫌だったのです。
そこでアマテラスは孫のニニギノミコトを呼びよせるとあらためて
「もくもくとたなびくこの雲の下には、稲穂が豊かに実る美しい国があります。その国は、葦原の中つ国といい、“天つ神”のあなたが治める国です。これからそこへ降りて、しっかりと国を治めてきなさい」
と告げました。
「はいっ!」
ニニギノミコトは、さっそく準備を始めました。
その時のことです。一人の神さまが大あわてでやってきてこう報告しました。
「ニニギノミコトがこれから降りられる道の途中で怪しい姿の神が待ちうけています。体からはふしぎな光を出していて、その輝きは下から高天原を照らし、これから向かう葦原の中つ国までも照らしています」
また、ほかの神さまは、ブルブル震えています。
それを聞いたアマテラスは、いろいろな神さまを使わしてその神の正体を確かめようとするのですが、……どの神さまもただ逃げてくるばかりです。
そこで、アマテラスはアメノウズメを呼んで、
「おまえは女神ではあるが、どんな神にも恐れず向かってゆくことのできる勇気のある神です。そこであの怪しい神の正体を確かめてきなさい」と命じました。
アメノウズメは言われたとおりにその神のところへ行き、こうたずねました。
「この道はこれからニニギノミコトがお通りになられます。その前に立ちはだかるとは、そなたはいったい何者か?」
すると、その神は答えました。
「私は“国つ神”のサルタヒコと申します。ニニギノミコトが天から降りられると聞いたので、ぜひともご案内しようと思い、ここでお待ちしておりました」
これを聞いたアマテラスはひと安心。
あらためてニニギノミコトは、アメノウズメ、アメノコヤネ、フトダマ、イシコリドメ、タマノオヤの五人の神さまをお供につけ、サルタヒコの案内で、葦原の中つ国へと旅立ったのでした。
ニニギノミコトはぶ厚い雲をかき分けかき分け、ズッシズッシと、おごそかに、そして堂々と降りて行きました。そして、その途中、天の浮橋に立ち寄ると、地上の世界を見下ろし、これから降り立つ場所をしっかりと確かめました。そして、キリリとそびえ立つ山をめざしてひと息に降り立ちました。
「ここは朝日が海からまっすぐにさしこみ、夕日もひときわ輝いている。ほかとくらべようがないほど、とてもすばらしいところだ」
ニニギノミコトはこう言うと、高天原にも届くかと思われるほどの高さのりっぱな宮殿を建てて、そこに住むことになりました。
こうして天つ神の皇子は地上の大地に降り立ち、葦原の中つ国を支配する時代がいよいよ始まりました。
「ええ? ニニギノミコトって、アマテラス様の孫!?」
「そうだ。私も血縁者というわけになる。父上同様、葦原の中つ国に関する任務を受けられるのだ。命令が来たときは嬉しかった。……もちろん、不安も大きかったけど」
とても誇らしげだ。それはいいのだけれど……。
「……神宮さん、かくして」
「はっっ!」
……天然め。聞いてた人が居なそうで良かったよ。
「でも、尊敬するお父さんと同じような仕事かぁ。そりゃあ、嬉しいだろうね」
「うむ。……菅野にも会えたしな」
――え?
私が神宮さんを見ると、慌てたように付け足す。
「昌幸さんや、寬子さんもそうだぞ。クラスのみんなも……」
……なぁんだ。そうだよね。
「さっ、お仕事がんばろう!」
私は、照れ隠しに、神宮さんの背中をはたいた。
「いてっ」
……やり過ぎたようだ。




