表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/27

文化祭午後


 1時間の重労働に耐え、班のメンバー達と交換で昼食をとる。目の前に、あんなにおいしそうな和菓子が並んでいるのに、私の手元にあるのは、自作のお弁当。

 ため息をつきつつ、沙耶香ちゃんと2人並んで、黙々と食べる。早く交代しなくてはならないと思うと、自然と早食いになってしまう。

 ……むせてしまった。

「慌てなくていいのに」

 空っぽの弁当箱を閉じ、沙耶香ちゃんが言う。沙耶香ちゃんは元々早食い? とても意外。

 結局、沙耶香ちゃんに10分遅れて食べ終わると、お店は、結構混んでいた。

「流石ご飯時」

「……おやつの時間に混んで、ご飯時には空くかと思ったのに」

「まあ、儲かって……え~と、繁盛してるんだからいいじゃん!」

私が言うと、雅人くんが反応した。

 ……雅人くんは、お金にがめつい?

「雅人、本音でてる」

沙耶香ちゃんが突っ込む。それに笑顔で返し、神宮さんを連れて教室を出て行く。お弁当を持っていなかったから、どこかのクラスで買うんだろう。

 そういえば、と、実技系の苦手な神宮さんを思った。

「そういえば、神宮さんは、お弁当、どうしたんだろう? 一緒につくってあげれば良かったかな……って!」

 ぽつりともらした独り言に突っ込みを入れ、頬が火照るのを感じる。体中の体温が高くなり、手に変な汗をかいた。

「どうした? さっちゃん」

鈴香ちゃんに呼ばれ、火照ったままの頬を軽くたたき、小さく深呼吸。

「大丈夫」

答えるが、さほど大丈夫なようにも思えない。

 最近、神宮さんの事を考えて、勝手に赤くなってることが増えた気がする。

 全然、大丈夫じゃないよ。

 ……私、熱でもある……?



 しばらくして、正気に戻って厨房係を開始。どうやら、一部のお客さんは、先生にやられたらしい。

 確かに、まだ若く、やる気に満ちあふれる先生は、とてもきれいだ。身長は、背の高い高校生と大して変わらない。超美人で、多少色気を兼ね備えた女子高校生に見えなくもない。でも、先生目当てのお客さんがそこまで多いとは思っていなかった。

「流石、オトナノジョセイ」

「……ねえ、それ、からかってない?」

 明らかに棒読みの沙耶香ちゃんの言葉に、ため息交じりで聞く。沙耶香ちゃんは否定しているが、顔が笑っている。

「そんなことないっテ」

最後の方、笑いをこらえきれていない。変な発音だった。

 からかい100%の沙耶香ちゃんを止めたのは、Eグループの彩花ちゃんだった。

「その、オトナノジョセイってやつ、きっと沙耶香も入ってるよ」

石化した沙耶香ちゃんに、さらに追い打ちをかける。

「雰囲気が、オトナノジョセイ(笑)だもん。外見がいいのは認めるけど、話で気を引いてさぁ。……手も動かそうか?」

今、“オトナノジョセイ”の後、“(笑)”ついてた。クスッ、って笑ったよね?

「彩花、たまに黒いよな……」

 私は、鈴香ちゃんに同意しようとするけれど、彩花ちゃんの笑顔を見て止めた。ひくっ、と頬が引きつるのを感じる。

「今何か言った?」

「いえ、何も……」

 鈴香ちゃんが降参ポーズをとる。恐るべき彩花ちゃん。怒らせてはならない人だ。

 ……今日は、人の意外な一面をたくさん見ている気がする。



 神宮さんと雅人くんが帰ってきて、彩花ちゃんともう1人の子が出て行く。Aグループのみんなが終わったため、次はEグループだ。

 彩花ちゃんがいなくなった教室(厨房部分)は、わいわいガヤガヤとし始めた。手は動かしつつも、今までの張り詰めた雰囲気はない。そのまま、15分が経過した頃。

 彩花ちゃんが帰ってきて、厨房が凍り付く。

 沙耶香ちゃんが、伏せていた目を上げる。厨房にいる全ての人が、落雷を覚悟した。

 しかし、いつまでたっても落ちないどころか、鼻歌を歌っている。

「ふ~、お腹いっぱい! さ、働くぞ~」

鈴香ちゃんの頬が引きつる。

「彩花、お腹が空くと暴走するタイプ?」

 ……恐るべし彩花ちゃん。



 再び休憩を手にした私たちは、鈴香ちゃんに、「はい、カップル組は行った行った」と、半ば追い払われるようにして別れた。沙耶香さん達とも別れ、私たちは、またしても2人きりだ。

「今度は、何処行く?」

神宮さんに聞かれ、パンフレットを見る。ふと目に付いた教室を指さし、神宮さんに見せた。

「文芸部?」

「そう。私も、巫女に呼ばれなければ、向こうの高校で、入ってたかも」

バレーボール部と卓球部、それと文芸部で迷っていたのは事実だ。

 もっとも、部活を禁止されてしまった今では、それもできない話だけれど。



 文芸部は、3階の空き教室を使っていた。部誌を販売していたので、500円で一冊買う。

「俺にも貸して」

「もちろん!」

 教室の黒板には、たくさんの紙が貼り付けてあった。そして、チョークで大きく、“意中の相手に 月がきれいですね と言われたら、なんと答える?”と書いてある。

「月がきれい……?」

「そう。夏目漱石が、I love youを“月がきれいですね”と訳したっていう逸話があるから、たぶん、その事だと思う」

「なるほど、それで、“ありがとう”とか書いてあるわけか」

 確かに、紙には、“ありがとう”や、“月はずっときれいですよ”(ずっと前から私も好き、という意味)、“死んでもいいわ”(文豪の二葉亭四迷が「Yoursあなたのものよ」というセリフを「(あなたのためになら)死んでもいいわ」と訳した話からきている)なんてのもある。

「こっちのはちょっと面白いぞ」

「ん?」

神宮さんに呼ばれ、目を向ける。

 “私はどうなの?”と書いてある紙。ストレートだけど、意味を理解できていないように思う。さらには、“はぁ?”と書いてあるものも。

「……この人は、きっとこの言葉の意味を知らなかったんだね」

「……初めの頃に貼ったようだから、参考にできるまわりの紙も少なかったのかもな……」

少しかわいそうに思ってから、残りの30分は劇を見ようという話になり、体育館へ向かう。

「神話を劇にするなんて、よくわかっている!」

「劇の内容にケチつけたりしないでね。簡易版なんだろうし」

「う、うむ……」

 興奮気味な神宮さんをなだめつつ、比較的前の方の席を取る。

 はじめに、ナレーターが解説をする。内容は、神話をピックアップした物らしい。

 説明を終えると、劇モードに入ったであろうナレーションが、2人で、交代ですらすらと言葉を口にする。

「世界はまだ、混沌としていました……」

 3人の神様役の人が出てきて、次に、男女二人が出てくる。あれがイザナギ役とイザナミ役だろう。

 劇らしく、大きな声でセリフを言った後、イザナギ役とイザナミ役の2人が、急に声を張り、ひときわ大きな声で言う。

「手には矛を」

決めゼリフというか、重要なセリフなのだろうと分かる。

 剣を持つイザナギ役の手に、イザナミ役が手を重ね、ゆっくりとかき回す動作をする。



 隣で、神宮さんが目を輝かせていた。

 それを見て、なんだか心が温かくなるのを感じ、慌てて否定した。

 ……やっぱり、今日の私、なんかおかしい。



 劇は、イザナミとイザナギが、矛をこおろこおろとかき回し、すっと引き上げる。矛の先から落ちた雫が、島となった……というところで一旦切られ、第2幕として、天孫降臨になった。



「イザナギから生まれ、神々のすむ高天原を任されたアマテラスは、孫のニニギを葦原の中つ国、つまり私たちの住む世界へと降らせ、治めさせることにしました……」

先ほどとは違うナレーターが話す。



 どこかで聞いた名前が出てきたので、神宮さんに確認する。

「ニニギって、あの?」

「そう。お父上だ」

 お父上……。小声だったからセーフ?



 ナレーションに続き、アマテラス役が、ニニギ役に向かって言った。

「葦原の中つ国は、イザナギとイザナミが産んで、オオクニヌシが育てて、私たちが譲ってもらった、大切な国なのです。ですから、この国に住んでいる人たちのことを、よろしくお願いします」

 ニニギ役も答える。なかなか演技が上手い。緊張しつつも、誇らしく思っているのだということが、よく伝わってくる。

「おまかせください」



 まだ劇は終わっていないけど、交代のため、5分前には教室にいたい。続きは神宮さんに聞くとしよう。神宮さんを急かし、教室へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ