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文化祭の反省


 それからも、忙しく働いた。文化祭終了時刻には、くたくたのヘロヘロだった。

 高校の文化祭には、思ったよりもたくさんの人が来てくれることが判明した。

「たくさんの人が来るんだね」

 そう呟いたら、文音ちゃんが、何かを思い出したように、手をポンとたたいた。

「菅野さんのとこの神社も、夏祭りをやるでしょ? あれはね、もっと大勢の人が集まるんだよ。……それこそ、街全部くらい」

「え!?」

私の疑問は無視して、文音ちゃんと一緒にいた、沙羅さらちゃんが話に参加してきた。

「今年は、菅野さんが神楽かぐらを舞うのかな? ……毎年、みんな、ちゃんと見てるんだよ」

「……」

知らなかった。確かに、夏祭りをやるとは聞いていたけれど、縁日程度だと思っていた。

「ご近所さん同士のつながりも強いみたいだし、たくさん来るよね」

きっと耳の良い神宮さんのことだ。聞こうと思っていなくても、聞こえたには聞こえただろう。――そう思って話を振ってみると、案の定聞いていたらしい。“楽しみなんだけど大変”というような複雑な表情で、答えてくれた。

「……だろうな」

 2人で見合って、ため息をついた。



 無駄話をする内、個人の片付けが終わり、簡易版反省会となる。要は、文化祭お疲れ様バージョンのホームルーム。余計わかりにくくなっている気がするのは気にしない。

「楽しかった人!」

先生の声に、クラス全員が手を上げる。

「疲れた人」

これにも、クラス全員が手を上げたままだ。誰かが、「先生、腕も疲れました」なんていって、クラスに笑いが起こった。

「全力でやった人」

手を下ろす人は誰もいない。先生は満足げに頷き、クラスで一番いい笑顔で、いった。

「よろしい! お疲れ様でした!」

「おつかれさまでしたー」

答える34人分の声は、見事にそろっていた。そして、普段、挨拶が済むと同時にクラスを出て行く人も、今日ばかりはクラスに残っている。みんなで、今日あった面白い話をしたり、余った商品を分けたり。とにかく、楽しげだ。

 バスや電車の時間に合わせ、まとまって人が減っていく教室は、普段は見ることができないもので、みんなで協力できたのだということを、改めて実感していた。



 家に帰ると、ダイニングから、とても良い匂いがした。

鍋には、几帳面に大きさをそろえて切られた、大きめの野菜とお肉。それらが仲良く、焦げ茶色のドロドロとした液体の中で混ざっていた。

「っし、カレーだ!!」

 神宮さんが鍋の中を見てガッツポーズをしている。部屋に入ってきたおばあちゃんに、「それ、ビーフシチュー」と訂正されていた。

「……カレーに見えるけど」

「ビーフシチュー」

 おばあちゃんに繰り返される。しかし、納得できないのか、鍋とにらめっこしながら、小さく、「ビーフシチュー……」と呟いている。

 ……かわいい。

 ――えっ? 私、今、何思った!? え!? どうした、私!? 疲れたのかな……。いや、そう思いたい。

 小説やマンガならば、ダブルダレ(!?)が山ほど並んでいるんだろう。そんなことを考えていたら、頭の中までダブルダレ(!?)でいっぱいになってしまった。

 ……何で悩んでたんだっけ?

 そこへ入ってきたおじいちゃん。蓋を持ったまま、何に悩んでいたのかを考えていた私は、鍋の前から移動する。おじいちゃんは、鍋を覗くなり、嬉しそうに一言。

「珍しいな、ビーフシチューなんて」

「……なんで分かるんだ?」

1人頭を抱える神宮さんを見て、さっき悩んでいた原因を思い出す。

 ……私、神宮さんのこと、意識し始めてない?



 これ、好きって事なのかな?

 頭の中が、今度はクエスチョンマーク(?)でいっぱいになってしまう。

 ――なんだか、思っていた“好き”とは違うな。

 マンガの主人公は、優しくされたときや、2人きりの時にドキドキしてた。顔が“かぁーっ”って真っ赤になって、「ああ、この人が好きなんだ」って思う。そして好きになるんだ。

 それが恋なら、私のは全然当てはまらない。優しくされて照れたのは事実だけれど、誰だって褒められれば照れるでしょ? 

 でも、“好き”が“特別”という事なら、それは当てはまる。

 家族でなく、友達でもない。沙耶香ちゃんは女子だけれど、武藤くんや雅人くんと神宮さんは、圧倒的に違う。

 何だろう。感情って、数学みたいに答えがあるわけではない。だからといって、国語のようにはっきり文字にできるわけでもない。

 “恋”に憧れて、“恋人”に憧れた。でも、実際のところ、何も分からない。

 恋って、何だろう。

 私、神宮さんの事が好き?



「2人とも、よく浴衣が似合ってたな」

夕食を食べながら、不意打ちを仕掛けてくるおじいちゃん。

 ブロッコリーを飲み込むのに失敗して咳き込んでしまった私の隣では、神宮さんが、牛肉を箸に持ったまま固まって、おじいちゃんを見ている。

 一番びっくりしていたのはおじいちゃんのようで、私たちの反応の意味が分からずに戸惑っていた。

 おばあちゃんは、しゃくり上げるように笑っている。……笑い方がおかしい。どうやらツボにはまってしまったようだ。

 全員が元に戻るまで一時会話が止まる。まだ笑い続けているおばあちゃんを放っておき、回復した私と神宮さん、おばあちゃんに笑われて、多少なりともダメージを受けたおじいちゃんで話を進める。

「照彰は、元々持っていた浴衣が小さくなったとかなんとか言っていたが、俺のでも充分に似合っていたと思うぞ」

「……どうも」

照れて、素っ気ない答え方になる神宮さん。私が褒めたときと対応が違うのが気になる。……が、それを気にしてどうする、私。

 今のは、さっきの考えからかもしれないけれど。……沙耶香ちゃん達をはじめ、たくさんのカップルを見てたからかなぁ。今日は、明らかに、神宮さんを意識している。

「咲子もかわいかったぞ。あのクラスで一番は咲子だ。いや、あの学校……」

「あなた、咲子が引いてます」

 冷静な顔をして何を言っているんだろう。おじいちゃんって、小さい頃の記憶があまりなかったけれど、こんな性格してたの? ……もしかして、孫大好き系ですかね。

「本当のことだろうに」

「……」

おばあちゃんがやられた。珍しい。口達者なおばあちゃんを、普段無口というか、決して口数の多い方ではないおじいちゃんが撃退するとは……。

「というか、いつ見に来たの? ……会ってないよね?」

「いや、行ったんだよ。でも、とっても混んでいて大変そうだったから、外から見てくるだけにしたんだよ。それにしても、お茶屋さんとは、よく考えたねぇ」

「それ、神宮さんのアイディアなんだよ」

私のことじゃないけれど、さりげなく自慢しておく。

「いや、でも、最終的には、菅野のフォローがあってこそ採用になったわけだし」

神宮さんが否定する。照れているわけではなさそうだ。

「いやいや、そんなことは……」

私も否定する。


 ……私の向かいの席で、おばあちゃんがニヤニヤしてるのは、この際無視しよう。うん。

 っていうか、前にもこんな展開無かったっけ?


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