宣戦布告……?
昨日、家に帰ってから、ぐだぐだになってた私。神宮さんと慌てて設定を見直して、覚えた。悠長に構えてる場合じゃないよ。あんな所から突っ込まれるとは思ってもいなかった。油断大敵。そう思っていたけど、まさかあそこまでとは……。
今日登校すると、沙耶香さんと彩花さん、それから、え~と、名前が分からない女の子が2人、教室の、私の席を中心に集まっている。沙耶香さんと彩花さんの席の間が私の席だから、しょうが無いと思うけど……。
「あ、きたきた! 私、鈴香! よろしく!」
ショートカットで元気の良さそうな人。絶対運動部だよね。 目が大きくてぱっちりしてるな。
「私、文音。よろしく、菅野さん」
低いところで髪を結んでいる、優しそうに笑う子。金属製の赤い眼鏡がよく似合う。
「おはよ、咲子ちゃん」
「おはよう、菅野さん」
沙耶香さんと、彩花さん。
「おはよう」
返事をして席に着こうとすると、彩花さんに呼び止められた。
「まって、菅野さん」
顔を上げると、かわいくほおを染めた彩花さんがいた。
「神宮くんを、紹介して!!」
……はぁ!?
私が固まっていると、反対側から、沙耶香さんが説明してくれた。
「彩花、一目惚れなんだってさ」
「だって、まだそこまで発展してないんでしょ? 昨日の様子だと、幼なじみみたいに見えたし。その、恋愛感情は、まだ、ないよね?」
「え~? 昨日は、発展途上にしろ何にしろ、2人はナイスコンビだと思ったんだけどなぁ」
ぐっ。彩花さんのおとめな視線が痛い。ハイと答えてしまいたいのに、言えない。言っちゃダメだよね。そこに、さらに追い打ちをかける沙耶香さん。フォローしてるの? って疑いたくなるくらい、楽しんでるのが分かる。
そんな時、教室に、武藤くん、その友達1名と共に、神宮さんが入ってくる。玄関で彼らに遭遇して私と別れた後、そのままゆっくり来たらしい。
彩花さんの視線が、神宮さんを追う。
「いくら何でも、急じゃない?」
ぽろっとこぼれた言葉に反応した彩花さんは、だからよ! と、キリッと私に視線を向けた。
「まってたら、先越されちゃうよ!」
その“越されそうな相手”にそれを頼むの? ……越されてるし。絶対、宣戦布告だよね。――なんて厄介な!
「まあ、あいつイケメンだもんな。昨日も、何人かそんなこと言ってるのがいたな~。武藤と並んでるのを見て、イケメンコンビだ! とかなんとかって……」
「そうそう、とられちゃっても不思議じゃないかも」
鈴香さんの言葉が追い打ちをかけ、文音さんの言葉が決定打になったようだ。
ねぇ、文音さん。それは私への言葉ですか? 私も、冷や汗ものだ。一つひとつの言葉が、私の心に深く刺さっていく。
――うぅ、心が痛いよー!
「ねえ! 紹介だけでいいの!」
「こう見えて人見知りなんだよね。自分からは話せないタイプ? きっと、昨日の話に入ってこなかったのもそれが原因だし……。紹介だけでも」
「うっ……。じゃあ、昼休みに」
「やった! ありがとう!」
さっさと自分の席について、準備する。今日はブラウスだ。ベストや上着は家で、ハンガーに掛けてある。
「朝から何の話? 随分と盛り上がっているように見えたけど」
「あ、あー、あー……。え~っと、昼休みに」
ちょうど先生が入ってきたので助かった。あそこまで言われて、「恋人です」って言えない私。設定なのに。私も、昨日の神宮さんと大して変わらない。
「神宮さん、私の足を思いっきり踏みつけて」
「む!? 何を言いだ……何を言ってるんだ」
一瞬慌てた神宮さん、すぐに冷静に私を見た。
「神宮さんに申し訳ない」
「……熱でもあるのか? なんだかよくわからないけど、これを貸してやる」
神宮さんの本だった。この前読んだ本の、続刊だ。
「あ、ありがと」
「元に戻ったのならよかった」
時間は無情にも一定に進み、早くも昼休みとなった。
ていうか、席が近いんだから、話しかければいいでしょうに! なんで私を巻き込むかなぁ……。
高校入って初の(そもそも2日目)憂鬱な昼休み。
肝心の彩花さんが来ないため、沙耶香さんと話をすることになった。お互いに、知っている故の気まずい沈黙に、耐えられなくなったからだ。
「……そういえば、断らなかったね、咲子ちゃんは」
「ま~ね……。私が断っても聞かなそうだったし。後は神宮さんに丸投げ」
それに、私は、はっきりと“恋人”だと言いたくない。
「む?」
名前を出された神宮さんが反応してこっちを見る。耳がいいことを忘れてました。
「別に、何も……。そのうち分かる」
なおも疑わしそうに私を見ていたが、やがて本に視線を戻した。
彩花さんが来たため、私は、神宮さんに話しかけ、そのままのノリで彩花さんに話しかけた。
2人の会話が乗ってきたところで、私と沙耶香さんは少し離れる。
彩花さんと2人になっても、神宮さんが、いつも通りに接しているのが分かった。緊張なしだ。2人は、他愛ない会話を続け、そのままコイバナのノリで彩花さんが訪ねた。
「ねえ、神宮くんは、好きな人とかいるの?」
「む!?」
神宮さんが困ったのと一緒に、私もあきれていた。
「……沙耶香さん」
「ん?」
「あれでも、人見知りになるのかなぁ」
「……」
沙耶香さんが質問から逃げた。神宮さんも、沈黙で通している。
「彼女とか……」
彩花さんの問いかけを聞いて、唐突に、おじいちゃんの言葉を思い出した。
『恋なら、照彰とすればいいだろう。どのみち、他のみんなには、この関係のことを隠さなければならない。だったらなおさら、まわりには『付き合っています』と言うことにした方がいいだろう?』
なるほど。許嫁だと言うことを隠して生活し、その上で将来結婚するためには、2人の間に、誰も介入させてはいけない。そうなると、たしかに、付き合っていることにした方が、楽だし、簡単だ。
あぁ、やっぱり、こうなったのって、私のせいだ。
……でもなぁ。無茶だよね。恋に恋するお年頃の女子高生に、急に来た相手の彼女役なんて。役者じゃあるまいし、恋愛禁止はないよね。うん、ないな。
私の言い訳がまとまった頃、
「……、菅野……?」
ものすごくもったいぶって、ものすごく曖昧に、神宮さんは言った。
断言しないの? 神宮さんの素直さ&律儀さなら、昨日確認した通りに言うと思ったのに。
「そっ、か……」
彩花さんは、話の一環として聞いた、と言うことにしてあるので、普通に納得するふりをした。しかし、動揺は隠せないようだ。しかし、あの程度では、神宮さんは気づいていないだろう。
そのまま、もう少し話をして、授業開始10分前頃には、教室を出て行った。
「次は、移動教室だったっけな」
神宮さんに聞かれて、確か次は国語だったな、と思い出す。
「いや、教室だけど……」
「ふうん。なにか用事でもあったのか?」
……鈍感だなぁ。ドンマイ、彩花さん。
「それより、なんであんなに曖昧に答えたの?」
それが聞きたくて仕方ないのだ。
神宮さんは、聞いていたのか、と少し嫌そうに顔をそらす。
「だって、菅野は、はっきりとしたくはないんだろ?」
「え?」
「む? 違うのか? 俺はてっきり、そういうのをはっきりと公表したくないように見えたけど……。その、仕方なく、というか……」
……そんな事考えてたの? あれだけ鈍感で素直な神宮さんが?
「ありがと」
そう言うと、神宮さんが嬉しそうに笑った。
ショッピングの日、お茶した時に見た、頼もしい笑顔だった。
……神宮さんの背後で、沙耶香さんがニヤニヤしてるのは、この際無視しよう。うん。




