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高校初日の長い一日


 入学式って、わくわくして臨んでも、結局、あまり面白くないんだよね。半分以上はお話だし。緊張してるしね。

 だから、入学式が終わって、クラスでの学活の時間が、一番好き。

 先生が入ってきて、クラスが静かになった。

「え~と、まずは、配布物の確認をしよう。机の上にある物の確認ね」

1つずつ確認する。生徒手帳も青色だ。

「あ、もう入学式は終わったから、上着脱いじゃってもいいよ。先輩達もそうしてたしね」

半分くらいの生徒が白い服になる。教室は暑いのだ。

 配布物の確認が終わると、席替えだ。

「え~と、どうに決めたい? 先生が決めてもいいけど、いきなりくじでもいいよ」

「じゃあ、くじがいいです」

 知らない男子が声を上げると、続いて、何人かからくじがいいという声が上がった。それにしても、初っぱなから生徒に決めさせていいのだろうか?

「じゃあ、くじ! 今作るから、待っててね」

 裏紙を取り出して線をかいていく先生。準備はしていなかったようだ。面白い先生だなぁ。生徒に近い感じがする。友達じゃないけど、そんな風な、フレンドリーというか、軽い感じがある。

 まわりのみんながおしゃべりを始めたのを見て、神宮さんがこっちを向いた。後ろの方の席である私とは違い、神宮さんは前の方だ。必然的に視界に入ってくる。

 神宮さんは、手を合わせるようにして、苦笑いする。

 入学式前に話していたことを考えているのかもしれない。“神頼み”なのだろう。私も、苦笑いで返す。

「はい、できた~。どっちから回そうかな。どうせなら全員やるか。全員起立!」

こうして、クラス全員のじゃんけん大会が始まる。優勝を勝ち取った男子が、ガッツポーズで「おっしゃ!!」といった。しかし、瀬戸先生が「一番勝ちの人は、ラスト!」というと、その男子は、大げさに肩を落とした。それを見て、クラスで笑いが起こった。

 知らない人とか、関係ない。先生の雰囲気が、クラスをまとめているように思う。

「うそうそ。つい、ノリがよかったから」

 結局、その男子から紙が回り始めると、所々で、「え~。どうしよ」とか、「早く回せー」とか、いろんな声が飛び交い始めた。中には、「どちらにしようかな、天の神様の……」とか言い始める人もいて、神宮さんが苦笑いしていた。

「なかなか回って来ないね~」

「ほんとだね」

「おれたちの所に来る頃には、1時間目が終わってるかもしれないな」

 私も、席が近くの、全然知らない子(そもそも、この学校に知り合いなど、某カフェで会った子を除けば神宮さんしかいない)と話ができていた。私の隣に座っていた男子も参戦して来る。男女の壁など、無かった。

 先生も、たまにからかいに行ったりして、クラスは、静かにならない。まわりとも自然と話をしている。

 ――これが、瀬戸先生の力なんだ。一番初めのイベント、文化祭でも、楽しめそうな気がしてきた。

 結局、私たちの所まで紙がまわってきたのは、チャイムが鳴るほんの少し前だった。


 全員が、線を引いただけのあみだくじに名前を書き終わると、移動になった。

「神頼みとは、してみるものだな」

 それを聞きつつ、苦笑しかできない私。神宮さんと隣の席になれるなんて、流石神様。グッジョブ神様。これで監視が楽になるよ!

 なんと、さっき話をしていた男の子の方も、席が近かった。私の後ろだ。

「うっす、よろしく」

 爽やかに笑う彼は、武藤蒼真むとう そうまくん。背が高い。

「よろしく! 沙耶香でいいよ」

 元気いっぱいな沙耶香さやかさんは、武藤くんの隣の席。某――面倒だから省略――で会った人だ。こちらも背が高めだ。

「俺も照彰でいいぞ!」

「菅野です。呼び方とかは気にしてません」

神宮さんも背が高い。

 みんな、背が高いなぁ。そうに言ってみたら、みんなに意外そうな顔をされた。

「……そうか? 気にしたことがなかったが」

「俺は、少し高いって言われるけど」

「え? 私、標準だよ!?」

 ……てことは、

「私が低いって事!?」

「菅野の背が低いって事だな」

「菅野さんの背が低いって事?」

「咲子ちゃんの背が低いって事だね」

 呼び方は違えど、言っていることは同じだ。

 ……えぇ~!?

私が落ち込んだのは無視して沙耶香さんが言うと、武藤くんが食いついてきた。

「あ、そういえば。春休みに会ったよね、2人一緒に」

「え? なになに、ふたりはカレカノですか」

「え!?」

赤くなる私とは正反対に、神宮さんはきょとんと首をかしげた。

「カレ……カノ?」

そして、顔をしかめてうなる。

 ――きっと、この人は“カレカノ”がわからなくて悩んでるんだな。

 どう、ごまかそう。高校生にもなって、カレカノも分からないなんて、流石に怪しまれちゃうよね?

「ふ~ん。まだ、そこまで発展してないんだぁ?」

 ……は?

「なるほど、発展途中って事か」

 ……へ?

 どうやら、沙耶香さんや武藤くんは、勝手に誤解してくれたらしい。いいやら悪いやら……。

 すると、神宮さんの前の席の子が耳をこちらに向けたのが分かったが、先生が「はい。じゃあ、朝の会でもやるかな」って言って、会話が中断されると、すぐに元に戻した。……何だろうな?

 神宮さんが声を潜めて聞いてくる。

「カレカノとは何だ?」

当然、私も小声になる。耳のいい神宮さんには、大して問題ないのかもしれないけどね。

「彼氏、彼女の略でしょ。ようは、カップルって事」

「俺たちは、そうなるのか?」

「まあ、設定ではそうだけど、わざわざ言うことじゃないでしょ。それに、私はできるだけ隠しておきたいの」

「……ふぅん」

 ――やっぱり遠慮しちゃうからね、恋人です、なんて嘘ついて。やっぱり、本当に恋人になったときに言いたい。

 まぁ、そういうわけにもいかないんだけどね。


 私の高校生活初日は、後ろの席の2人を友達にし、結構打ち解けることができたこと。それから、神宮さんの隣の席になって、これからの努力を極限まで減らすことができた。あとは、他の子と同様に、生徒手帳や(いろんな意味で)重~い教科書をもらってきた。

 そんなわけで、半日しかない本日の学校は終了し、早すぎる放課後になった。

「行きには全然分からなかったが、このバスで登下校する人もいるんだな」

「あれ、同じクラスですよね?」

神宮さんのつぶやきを拾った私が、神宮さんを無視して、その人に話しかける。たしか、神宮さんの前の席の子だ。

「ああ、えっと……。菅野さん?」

「そうです。えぇと……」

向こうが当ててくれたのにもかかわらず、私は分からない。情けないな……。

「彩花です。そっちは神宮さん?」

「そうだ。よく覚えているなぁ。流石」

神宮さんが褒めると、彩花さんはほおを染めた。かわいいけど、何……? この反応は……。

「ヤだなぁ。後ろで面白そうな会話してたから、なんとなく覚えてただけ。自信は無かったしね。それに、私と直接は話してないでしょ? 仕方ないよ」

 彩花さんは、さっぱりとした性格のようだ。

「それより、2人は仲いいと思ってたけど、家も近いんだ~。幼なじみで、気づいたら好きでした、みたいな感じ? ……あれ? でも、中学にはいなかったよね? それに、神宮さんちなんて、見たことないなぁ。“菅野”は神社だろうけど……」

 ずっとここに住んでるけどね、と、こてりと首をかしげられて、慌てて設定を思い出しつつ話す。

「え? え~と……。中学で知り合ったんだけどね」

さっき、神宮さんが、口を開いた。けど、……“イ”の形だったよね!?

 ……まさか、今、“許嫁”って言おうとしてたりは……しないですよね?

 目を細くして見つめてみると、神宮さんが、彩花さんに気づかれないように、顔は動かさず、わずかに視線をそらした。

 ……嘘だと言って~!!

「私が、神社にお勤めをするのと同じタイミングで、神宮さんのご両親が、外国に出張になっちゃって」

彩花さんが顔を向ければ、そのとおりだ、と言う風に1回うなずいた。

「俺は一人で住むって言ったんだけど……。は」

 だんっ!

 神宮さんの足を(彩花さんにばれないようにそ~っとすこしだけ足を持ち上げて、かかとで)思いっきり踏みつける。神宮さんが手をぎゅっと握ったけど、それだけで耐えた。

「母さんが、菅野さんと知り合いで。その、照彰おれを頼みます、って、言ってっちゃったから」

「ふぅ~ん」

「それで、神宮さんには離れを貸してるの」

彩花さんの目が痛い。視線が刺さるようです……。

 ナイスタイミングでバスが到着、彩花さんとは、そこで別れた。彼女の家はもう一つ先のバス停らしい。

 ほっと胸をなで下ろす私とは対照的に、神宮さんが、私を潤んだ目で見てくる。

「菅野、あれはひどいぞ。いきなり、あんな……」

結構いい感じに当たっちゃった? なんというか、私のせ――いや、神宮さんが悪いことだとは言え、少しかわいそうになってきた。あくまでも、私は悪くない。

「母上、なんて言いかけたのが悪い」

「む……。しかしだな……。……まあ、でも、その……すまなかった」

 ――す、素直。いや、ここまでされると……。

「こちらこそ、すみませんでした」

 なんか、くやしい。負けた気がする。

「なんだか、疲れた。……でも、まだお昼前なんだよな……」

 神宮さんの言葉に、敗北感とかどうでもよくなって、どっと疲れが押し寄せてきた。

 日は、まだ高い。


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