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【完結】俺の彼女はセイジョウです  作者: アカアオ
3章 罪

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【アルゴスSIDE】災いの種

 「相変わらず熱いですね、ここは」


 思わず口から愚痴がこぼれ出てしまった。

 依り代を介さずにこの場所に来たのは何年ぶりだろうか?

 と言うか、依り代を使わずに外出すること自体が久しぶりの様な気がする。


 眼下に広がるのは赤い海とも言えるマグマ溜まり。

 そこにはラグナロクと言う名の神々の戦争を引き起こした犯罪者の一人が身動きを封じられた状態で沈められていた。


 個人的に苦手な性格をしている相手だし、彼女の周囲は極端に湿度が上がって不快度が上昇するので面と向かって話すなんて事はしたく無いのですが……今のファナエル・ユピテルを捕まえる為には彼女の力が必要不可欠。


 仕事に私情は挟めない。


 「あの時私がしっかりしていればあなたと顔を合わせることも無かったんですけどね」

 「ケッ、そんな事言うためにわざわざ来たのかよ」

 

 目の前の犯罪者は今日もひどく反抗的な態度を見せている。

 彼女とて私と同じ4枚の羽を持つ神の一人であるというのに、どうしてこう小物感がぬぐえないのだろうか。


 そんな彼女を見ていると頭が痛くなる。


 「私はどんな拷問にかけられたって口を割らねぇぞ。お母様の為なら私はなんだって耐えられる」

 「相変わらず騒がしいですね。少し声のトーンを落としてください、頭に響きます」


 人間と狼を組み合わせた獣人の姿をしている彼女の言動は飼いならされた犬そのもの。

 氷で出来た四枚の羽を持つ神であり、彼女が持つ力も強大なものであるのにも関わらず事あるごとにお母様お母様と誇らしげに声を上げ、牙を抜かれた傀儡(くぐつ)になっている様子は見るに堪えない。


 「今日来たのは別件です」

 「アァン?お母様とは関係のない話ってことか」

 「ええ、そうですよ。あなたにはこれから私の仕事に付き合ってもらいます」

 「はぁ?!なんで私がそんな事をー」

 「生け捕りにしてほしい人間がいるのですよ。氷神の異名を持つあなたなら簡単な事でしょう?」


 まぁ、私達が行動を開始する頃にはもう人間ではなくなっているかもしれませんが。

 

 「おい待て、話が見えねぇぞ。自分で言うのもなんだが私はこの天界の中で上位の強さを持ってる。それこそ4枚羽クラスならお前と合わせて一位二位を争えるレベルにな。人間一人を捕まえるのになぜわざわざ私に協力を仰ぐ。そもそもお前の言う仕事って奴はなんだ」

 「いつもはアホっぽい顔をしてるくせにちゃんと頭は回るんですね」

 「アァ!!なんだとテメェ!!」


 彼女の怒号が脳に響く。

 沸点の低いタイプはこれだから嫌いだ。

 これ以上彼女の大声が響かない様に懇切丁寧に今回の仕事を伝えてしまおう。


 「ファナエル・ユピテルと言う名の堕天使を知っていますか?」

 「ファナエル??ん~どっかで聞いたような」


 彼女は灰色の毛で覆われた耳をピコピコと動かしながら思考を巡らせる。

 やがて何かを思い出したのか、ピンと耳を垂直に立ててまた頭に響く大声を出した。


 「あ~思いだした!お前が取り逃がしたって言う羽の無い堕天使か。いや~お前が逃したのははそいつとお母様だけって話だったから名前だけは憶えてたんだ」

 「私が行うのはファナエル・ユピテルの捕縛……それが難しければ最悪処刑します。貴方には彼女の恋人となっている人間を生け捕りにしてほしいのです」

 「そこまでする必要あるんのかよ……もしかして自分が取り逃がした相手だから徹底的に憂さ晴らしすんのか?」


 私を煽るように笑みを浮かべる彼女の姿に思わず頭を抱えてしまう。

 ファナエル・ユピテルを処刑しても良いと考えたのにはちゃんとした訳がある。


 『簡単な事だよ。二人もこの斧で羽を切り落とせばいいの』


 あの時見た彼女の狂気。

 私の依り代が彼女を見失う頻度が増えたという現状。

 ファナエル・ユピテルの纏うきな臭さが時を重ねるごとに深くなっている。


 そして、最も懸念すべきなのは牛草秋良と言う人間の存在。

 今まで私から逃げるために力を制限しながら行動していたあの堕天使が牛草秋良を助けるためだけに全力を出したという超能力者達の発言から推測するに、今のファナエル・ユピテルは牛草秋良の為ならどんな行動を起こしてもおかしくない状況なのだろう。


 このまま放置していれば近い将来……いや、牛草秋良と言う心の支えに何かが起こった時に彼女は世界を滅ぼす災いになる。


 そう言い切れるほどに今の彼女は牛草秋良に依存している。

 地球が崩れ去ってしまうほどの重い感情を牛草秋良に対して抱いている。


 だから面倒事が起こる前に彼女を始末する。

 牛草秋良を生け捕りにするのは人質として扱うために過ぎない。


 「彼女の性質を逆手にとって事を有利に進めたいのですよ」


 私はそれだけ言葉を残して彼女の身体を縛っている緑色の鎖に触れた。

 かの鎖はギュルギュルと音を鳴らしながらマグマの底に沈んでいた先端部分を表した。


 それは鎖と同じ色をした小さな正方形の物体。

 私が手をかざすと彼女の犯した罪と罰に対する記述がぼんやりと浮かび上がって来た。


 「神罰変更。巨神アルゴスの駒となり、堕天使ファナエル・ユピテルの現恋人である牛草秋良を生け捕りする行為を汝に強制する。これによる尊厳の破壊と身柄の拘束により貴様の罪を清算する」


 私の言葉を反映した文字が正方形の物体に刻み込まれる。

 次の瞬間、緑色の鎖で縛られていた彼女の拘束が解ける。


 「これであなたは私の操り人形です。神罰に逆らう行為を行えばその首輪が貴方の首を絞めます」


 ゆらりゆらりとマグマから這い上がって来た彼女の身体にはやけどの傷一つ無い。


 「もし成果が出せなかった場合、私が首輪を起動させて貴方を殺すかもしれませんのでお気を付けて」

 「おいおい、私を誰だと思ってんだ?」


 ブワリと四枚の羽を広げた彼女は全身を覆う灰色の毛を奮い立たせて咆哮を走らせた。

 マグマの表面が一瞬にして凍る。

 鬱陶しほど汗ばんでいた辺りの気温は一瞬にして氷点下を迎えていた。


 「私は氷神フェンリルだぞ。世界を飲み込む災いにしてお母様の最高傑作。堕天使に惚れた人間を捕まえることぐらい朝飯前だ」

 「それはそれは、随分と頼もしい事ですね」

 「んで、人間界にはいつカチコミするんだ」

 「実行日は7月1日。ファナエル・ユピテルが潜伏している桜薬(おうやく)市を私の結界で閉じ込めたら開始です」

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