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【完結】俺の彼女はセイジョウです  作者: アカアオ
3章 罪

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この先に待っているのが例え地獄でも

『ねぇ秋にぃ、僕の恋人が犯罪者だったらどうする?』


 たしか一年ぐらい前、斬琉(きる)からこんな質問をされたことがある。

 奇妙な会話を妹とすることになった原因は当時流行った『私はボニー、あなたはクライド』通称『ボニクラ』と呼ばれていたドラマ。


 質問内容から察せられるように、『ボニクラ』の内容は指名手配中の犯罪者に恋をしてしまった女性の恋愛を描いた物だ。

 いわばこの質問はそのドラマのラストを見届けた妹の感想共有会が始まる合図と同義だった訳だ。


 『警察に突き出して別れさせるが?』

 『ちょっと!!秋にぃは今までボニクラの何を見てきた訳?!』

 『見てきたも何も、俺はあのドラマそんなに好きじゃないんだよな。いくら好きな人が出来たからって相手の正体が犯罪者って分かったら冷めるもんだろ。常識的に考えて』

 『うわぁ……流石。恋人って存在がどれだけ特別で手放したくない物なのかまるで分かってない』


 余計な一言を添えながらソファーの上でうなだれる斬琉(きる)に俺は小言を挟みながら仕返しと言わんばかりの質問をしたことを覚えている。


 『それじゃぁ、俺が犯罪者の恋人を連れて来たらお前はどうするつもりなんだよ』

 『ん~そりゃ、僕と秋にぃが赤の他人だったらそんな恋愛許さないだろうけど……牛草斬琉(きる)が牛草秋良の可愛い妹である限り、秋にぃの恋路は全力で応援するつもりだよ。たとえ相手が何者でもね』

 『なんだその変な言い回し』

 『兄妹はお互いの恋を応援する義務があると僕は述べたい訳だよ』

 

 ムフーと自慢げな顔で語る妹に対して『そんなことは無い』と言葉を差す。

 なんてことも無い日常の一ページ。

 そんな思い出を無意識の内に振り返ってしまったのはきっとー





 俺の彼女が犯罪者を超越する何かだったからだ。



 



 「それからは大変だったよ。天界を周って、地上へ降り立って、私を受け入れてくれる人を探し続けてたから」

 

 ファナエルは落ち着いたような口調で言葉をこぼしている。

 その声色はさながら仕事でくたびれた社会人が飲み屋で愚痴を言う時の様。

 そんな声色がやけに落ち着いていると感じたのは単にさっきまでの彼女の様子が見ていられないほど痛々しい物だったからだ。


 両親の話が出るたびに彼女の呼吸はひどく乱れ、わざとらしく思えるほどの大きな呼吸を何度か繰り返した後に震えた声で仕切り直す。

 

 彼女から聞こえてくる心の声は過去のトラウマに対するやり場のない怒りと今の幸せが壊れて染まうんじゃないかと言う不安で埋め尽くされていた。


 「天界じゃ私の姿を見て逃げ出す天使ばかり、地上に降りたってからは沢山の人が私に寄り添って来て恋人になろうとしてきたけど……私の正体が堕天使ってことが分かったとたん悲鳴をあげて拒絶してきたり、恋人を堕天使に変える私の計画を知られた時点で縁を切られたり。世界がお前に居場所なんて無いんだぞって語りかけてるみたいだった」


 ふと、彼女の視線が下降する。

 その先には俺が無意識に握っていた彼女の手があった。


 その手が真っ赤な血で濡れているのは彼女の罪を表す暗示だろうか?

 彼女の手を握る俺の手さえも同じように赤く染まっているのはこれからの未来を示唆しているのだろうか?


 一般的な感性ならばそれは不吉な未来を表していると表現される事だろう。

 けれど、俺には手を覆う赤い血液が俺達を繋げる何重にも絡まった赤い糸の様に見えてしまって仕方が無かった。


 「でも、そんな事無かった。だってこんなに素敵な恋人を見つけたんだもの」

 

 ガバっと体を動かしたファナエルが俺の身体に抱きつく。

 初めて出会った時に感じたミステリアスな雰囲気はとうに無くなり、そこにあったのは弱々しい顔でこちらを見つめる一人のか弱い少女の姿だけだった。


 「ごめんね。アキラは絶対私を見捨てないって分かってるはずなのに過去の話を聞いたら私の事嫌いになるんじゃないかって不安がいっぱいで……変だよね、心の声が聞える力を持ってるのにこんな事で悩むなんて」

 「……そんな事無いよ。あんな経験があったら不安で一杯になるのは当たり前の事だ」

 「ヘヘ……そうかな。なんか力が一気に抜けて、おかしいな」

 「ずっと気を張ってたんだろ。やっと安心できる居場所を見つけたんだ、むしろその反応は正常だよ」

 

 精一杯の言葉を彼女に伝える。

 ファナエルは脱力しきった体を俺に預け、「ありがとう」と口にしながら優しく笑っていた。

 

 「ねぇ、アキラ。背中ピンと張って」

 「えっと、こんな感じか?」

 「うん。そのまま顔動かさないでね」


 次の瞬間、唇に温かい感覚伝播する。

 文字通り目と鼻の先にあるファナエルの顔を見ながら俺は一人考えていた。


 きっとファナエルにこの先何が起こったとしても、しかるべき罰を受けて彼女が地獄のような生活を強いられたとしても、俺は一緒にそれを受けて一生一緒に生きてしまうのだろうと。


 そんな人生を幸福な物だと心の底から思ってしまうほどに、俺の脳はファナエルに焼かれてしまっているのだから。

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