楽しい食卓
テーブルには、笑顔の浮気相手と妻の私。複雑そうな表情の夫。
中原あゆは、ごはんもワインも美味しそう食べていた。
「えーっと……中原さんだったかしら?」
「あ、はい。中原あゆです~。ご挨拶が遅れてすみません」
「圭太と仲良くしてくれてるみたいだけど、なにがきっかけか聞いてもいい?」
「いやそれはちょっと、俺が恥ずかしいから……!」
「なによいいじゃない。私も気になるから」
「まあすごく普通ですよ。圭太さんが転職してきて話すようになって自然に…って感じで」
アルコールが回っているから機嫌がいいのか、中原あゆは、えへへっと可愛く笑う。
自然に既婚者と仲良くなって、家に上がって料理するのか。
「へぇーそうなの。圭太はどう?ちゃんと仕事出来てる?」
「はい!すごく!みんなと打ち解けるのも早くてとっても頼りになってますよ」
「ふーん、そうなんだ?なんだか意外」
とんでもない嘘つきなのに、と心の中で付け加える。
「お、俺だって仕事中はちゃんとしてるんだよ」
「それなら安心した。ほらこの人、一緒に暮らしてるのに、家事なんか全部私任せでね」
「なんのためのルームシェアなのかわからないでしょう?」
「えっそうなんですか?」
中原あゆの顔に「聞いてる話と違う」という感情がよぎったのが見えた。
「だから心配で。中原さんに迷惑かけてない?」
「いえいえ私は全然……!でもお掃除とかお洗濯は、分担してやっているって
聞いてたんで、ちょっとびっくりです」
「いやっやってる時はやってるよ?でも姉ちゃんは、そのあれだからさ」
「あ…うん。そっかそうだったね」
(あれってなに?)
義姉の悪口でも言っていたのだろうか?
「中原さんは本当にいい人ね。圭太だけじゃなくて、私の分までご飯を用意してくれてるなんて」
「いえいえそんな!」
「圭太のことを大事に思ってくれて、とっても嬉しい。でも、この子まだ
結婚してるでしょ?それについて中原さんはどう思ってるの?」
「ほら、世間でいう不倫……になっちゃうんじゃないかって、私、心配で」
圭太の生唾を飲みこむ音がする。
私にバレたくないことが、どんどん明るみに出ていくのはどんな気持ちだろう
。
「……私は平気です。だってひどすぎませんか?奥さんは家を買ったと同時に、別居に持ち込んだんでしょう?」
「大きな決断をした矢先に圭太さんを裏切るなんてひどすぎますよね…」
「へぇ……」
そういう嘘ついてるんだ。
新築のこのマンションを買わせて、すぐ逃げた妻がいると。
私が見ても、圭太は黙って下を向いたまま。
「私許せなくて……圭太さんはこんなにいい人なのに、そんな冷たいこと…最低です」
「お義姉さんもそう思いませんか??」
「ひどい奥さんね」
「ですよね……⁉しかも前から浮気してるって言うじゃないですか?」
「そうだったの?」
別居、浮気、ローンの押し付け、とずいぶん「圭太の奥さん」には、問題がありそうだ。
「え……知らなかったんですか?」
中原あゆは、なんで?と不思議そうに圭太に説明を求めている。
「いや……姉ちゃんに心配させたくなかったから」
「ダメだよちゃんとこういう事は伝えておかないと…!」
「そ、そうだけど。まだ離婚してないし…その俺にも男のメンツっていうか
言いたくないこともあるからさ…」
男のメンツは随分都合がいい。
「それは……ごめん」
夫の気持ちを察してか、中原あゆが申し訳なさそうに謝る。
「でも私は真剣だから……。同じ経験を持つ理解あるお義姉さんに伝えておいた方が、私たちの気持ちもわかってもらえるかなって思って……」
「全然……気持ちは嬉しいし」
(お義姉さん、浮気されたことあるの?聞いたことないけど……そうだとしても、まあ私には言わないか……)
何とも言えない微妙な空気の中、2人は絆を感じ合ってるらしい。
「それじゃ中原さんは、圭太が既婚者でも奥さんが浮気してるから
別居してるのを知ったうえでお付き合いしてるってこと?だから世間からは
不倫と言われたとしても、特に問題を感じてないってことね?」
「はい!そうですね……奥さんと離婚したいけど応じてもらえない夫くんの想いはよく理解してるので」
「そっかそっか。なるほどねぇ……中原さんが既婚者と知って、不倫相手に甘んじてるのかなと思ってたからすごく心配してたの」
「心配してくれてありがとうございます…!圭太さんは、既婚者だし私も最初はそのつもりなかったんです。でも、話を聞くうちに圭太さんのぽっかり空いた寂しさを私が埋めてあげたいなって」
うんうんと微笑んで頷く私に、中原あゆは、嬉しそうに続ける。
「それに!圭太さんの場合は、ただ離婚してないだけですしね!
それにまだまだ私たちの関係も始まったばかりなので、これからいくらでも待てますし」
「でも……最初から既婚者って知ってて、よくそこまで踏み切れたよね?」
「えっ?」
「もし奥さんが、浮気も別居もしてなかったら、あなたどうするの?」
「えっ…?どうって…」
さっきまで笑顔で話しを聞いていたはずの私に、中原あゆはとても驚いていた。
「だってそうでしょう?奥さんが浮気してるとか、出て行ってしまったとか
何も根拠がないし。あるのは圭太が結婚している事実だけ」
「……そ、そう言われたらそうなんですけど……」
「中原さんは若くて、とても可愛らしいわね。だから今まで誰も教えて
くれなかったのかしら?不倫はいけないことだって」
さっきまで味方で歓迎されていると信じ切っていた私に、こんな冷たい言い方をされると思っていなかったようで、中原あゆは一気に居心地が悪そうになる。
「最初」から既婚者と知っているなら、不倫に飛び込んだのは自分だと自覚している証拠だ。
「姉さん、疲れてるんじゃない?そろそろお開きにしようか。中原ちゃん!もうこんな時間だし遅くなる前に送っていくよ!」
時間はまだ20時にもなってないのに何を言ってるのだろう。
「ごめん、不安にさせちゃった?ただ確認したかっただけなの」
安心させるように微笑むと、中原あゆは、ほっとしていた
「大丈夫です」
「じゃ、行こうか。今日は姉さんに付き合ってくれてありがとう!」
「ううん、私こそ……」
中原あゆは、若干の気まずさを感じ取ったのか、圭太に続いて帰ろうとする。
「もうすこしゆっくりしていってもいいのに。だって、今日映画を見るんでしょう?」
「えっ……なんで知ってるの?」
圭太は震えているようだった。
「ん?」
何を言ってるのかわからないフリをする私と圭太のやり取りを、中原あゆは、
ようやく変だと思ったらしい。
「圭太くん……?どうしたの……?」
「な、なんでもない…tね!」
変に大きな声が出てしまう圭太。
あれでは、自分でなにかあると言っているようなものだ。
「なんでもなくないでしょ」
「あの……?なにかあったんですか?」
「なんでもないって言ってるだろう!!!!」
圭太の大声に、中原あゆが、びくっと身体を震わせる。
「ど、どうして怒鳴るの?」
「ご、ごめん!そんなつもりじゃなくて」
フルフルと頭を振る圭太を、ただ中原あゆは心配していた。
「謝るなら最初から訂正すればよかったのに。私がこのまま帰して
あげるとでも思った?」
「……!だってもとはといえばそっちが……!」
「もとはといえば?あなたが「姉」と住んでいるって嘘ついたからでしょ?
私は勘違いした彼女とあなたの話に乗ってあげただけ」
「………!!」
「えっ……え……?」
「嘘をついてごめんなさい。私、姉じゃなくて妻なんです。この意味…わかりますか?」




