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夫のスマホ

 夫のパスワードは3通りある。


『いつも忘れちゃうからって姉さんに言われてさ』


 聞いたのは結婚前、名前の誕生日のありきたりな組み合わせ。


 覚えていたあたり、いつかこういうことが起こったときに戦えるように、

 女の本能が動いていたんだろうか。


 スマホのロックは数字だけ。

 間違えないように覚えてる3パターンを1つずつ打ち込む。


(ロックがかからないといいけど……)


 2つめの数字を打ち込むと、アイコンが並んだ画面がうつる。


(……開いた!)


 圭太がいつ起きてもいいように、隣で寝転びスマホを触る。


 まずはメッセージアプリだ。

 お義姉さん、私……友達らしき人物が並び、一番上には「あゆ」という名前がある。


(この女か……)


 一瞬のためらいのあと、メッセージをタップする。


 どうやら寝る前までメッセージを送っりあっていたらしい。


『今日のごはんめちゃおいしかったー!ほんと中原ちゃんは俺の救世主だよ!』


『そんなことないですよぉ。ちゃんと食材買い置きしてて、圭太さん偉すぎます。辛くて寂しいと思いますけど、いつでも力になりますから』


『ありがとう…!俺、中原ちゃんに会えてほんとうによかった…!』


『奥さん早く離婚してくれるといいですね。私はいつまでも待ってます♡』


『俺も…仕事帰りにわざわざ来てもらってごめん。今度は俺からデートに誘うよ』


『えーじゃ一緒に新しいクッション探してあげますね』


『楽しみにしてる!じゃあまた明日』


『また明日です』と、可愛いスタンプと一緒に締めくくられている。


 この子が『中原ちゃん』。

 私の作ったお弁当を食べたあの子だ。


 ”奥さん早く離婚して

 くれるといいですね”


 ”私はいつまでも待ってます♡”


 圭太が既婚者であることを知って、この家によく来れたな。

 呆れを通り越して、その図太さに尊敬の念すら湧く。


 ぐうすか眠る圭太は、まだ起きる気配すらない。

 私は圭太のスマホを持って、今度は堂々と寝室の外へ行き、自分のタブレットを開く。


 タブレットに同じメッセージアプリをダウンロードして、圭太のアカウントでログインする。


 メールアドレスも電話番号も、そのまま打ち込んでいくと

 圭太のスマホと同じ画面が映し出される。


(……これで同期よし)


 同時にデータのダウンロード。

 アプリと既読をつかないアプリを探してダウンロードする。


 通知を長押しして、読んだり機内モードで読んだ

 ときに誤って既読にしてしまうと怪しまれてしまう。


 登録にかかったメールも、全部削除して痕跡を残さない。


(メッセージはこれでいくらでも読める…あとは…)


 手つかずだった写真アプリを開いてみると、同じ場所で違う角度の写真が何枚もあった。


「……なにこれ?」


 オシャレなカフェや外の風景。家の中のふとした写真や、それに自撮り動画まで。


 同じ写真が続いた後、編集されているショート動画のようなものまであった。


(歯磨きしてる後ろ姿とかまである……これってもしかして)


 SNSのアプリを開くと、思った通りだった。


【○○|バツイチ男のシンプル生活】というアカウントで、ご丁寧に写真や動画が投稿されている


(はっあああああ……⁉)


 バツイチ?シンプル生活?


 1日Vlogと取られた動画で、直接的な顔は出さないものの、シルエットや少し遠くからのカットでカッコつけているものばかり。


 いくつかついているコメントでは「カッコイイ」「背中がイケメンさん!」

 なんて書かれている。


(……うわぁ……)


 ストーリー投稿を見ると、19時ごろにあげられた写真があった。


【今日は久しぶりに自炊。野菜たっぷり意識してみたアクセントのトマト。

 みんなに伝わるかなぁ…?】


(うっそ………)


 浮気相手に作らせたご飯を、さも自分が作った風に全世界に発信している。


 圭太はこんなバカげたやつだったことに、やっと気づいた私のみじめさと

 自分を間抜けだと強く罵りたい気持ちが合わさって気持ち悪い。


 圭太のスマホからあらかたデータを抜き取って、寝室の枕元に戻した。


 圭太の動向はこれで探れる。

 あとは決定的な自白か、言い逃れできない証拠が欲しい。


 ベッドでもソファでも眠れる気にならず、客用の布団で別の部屋に寝ながら、圭太のSNSを見てあることを思いつく。


 AIの女の子写真に口元を隠し、20代OL風の写真をネットで拾って投稿すればそれっぽいアカウントの出来上がり。


【はじめまして♡トマト美味しそうですね!レシピ教えてほしいかもです~】


 そうDMに送って浅い眠りで6時に目を覚ますと、もう既読がついていた。


【はじめまして!いいですよ。あとでレシピ送りますね!】

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