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女の影

(ごちそうさま…でした?)


淡いピンク色のメモ用紙に、可愛くきれいな文字。


(なに、これ、どういうこと?)


さっきまで頭の中で考えていたことが吹き飛んでいく。


メモを震える手で横に置いて、お弁当箱を静かに開ける


中身はからっぽ。


でもいつもと違って、おかずが入ってたアルミカップも汚れもない。


(……水洗いしてきたことしないのに)


圭太以外の誰かが、私の作ったお弁当を食べたらしい。


(なんで?)


妻が夫に作ったお弁当を食べてごちそうさまでした?

相手が女なら宣戦布告のようなものなんじゃないか?


(人に浮気を疑っておいて、自分は浮気してるの?)


圭太への不信感が高まっていると、のんきにお風呂から出てきた。


「あっごめんごめん!お弁当洗うの忘れてた」


取って付けたような言い方が、癇に障る。


「……洗ってあるけど?これ、なんなの?」


「えっ?」


洗ったお弁当に添えられた手紙を夫に突きつける。


「こんな手紙までつけてくれちゃってさ、嫌味なの?どういうこと?」


浮気してるって疑っておいて……自分は何様つもりなんだろう。


ところが、夫は動揺するどころか、呑気な声でこう続けた。


「あー中原ちゃん、お弁当箱まで洗ってくれてたのかぁ」


「…は?」


「美玖もごめんな…!今日、打合せがてら飯食べちゃってさ。

戻ったら昼時だったんだけど。ちょうどお昼食べに行けないくらい忙しい子がいて。せっかく作ってもらった弁当無駄にするのも、悪いからその子にあげちゃったんだ」


(ほんとかな…でもこの反応。嘘をついてるように見えないし…。私もちょっと決めつけすぎ…?)


まだ入社して1週間しか経ってないよく知らない人の

弁当をもらうのか?と思ったが、実際にお弁当箱はキレイだった。


「まあ、人助けだと思ってさ。そんなに怒んないでよ。浮気とかじゃないんだからさぁ」


「俺がモテちゃったら心配なのはわかるけど!そんなことしないから!」


ノリノリの笑顔で肩をポンポンされる。

固まって自分が砂になるかと思った。


「中原ちゃんも罪だよなー。わざわざ手紙入れちゃってさ」



私がわざわざ作ったお弁当を、自分がいい格好したいがために、職場の女にあげて人助けしたつもり?


それで浮気の心配をするな…?

ひどく気分が悪い。


この人は自分に都合のいいことしか、考えられないのだろうか。


この家に引っ越してから、お互いの中間地点だからという理由で、職場は電車で15分も遠くなった。逆に夫は転職して電車で5分しかかからない。


忙しい朝にわざわざ作ったのに、感謝もなく、自分の好意に利用したあげく、人を馬鹿にする発想しかできないの?


「そんなこと疑ってない。今どき手作りを渡される方も怖いでしょ。捨てるのがイヤでも持って帰ってきて」


「えー?俺は別にキモイおっさんでもないし。嫁の愛妻弁当だよ?危なくもなんともないから、中原ちゃんも食べたんじゃん?ほら、お礼だって書いてる」


「とにかくもうあげないで」


善意どうこうの話じゃなく、ただ気分が悪い。


「今度から自分でお弁当作れば?そしたら私の気持ち少しはわかるでしょ」


圭太は、まるで私が悪者みたいな溜息をつく。


「弁当1つで…ケチだなぁ」


静かに終わるはずだったのに、この一言で終われなかった。


「……は?今なんていった?」


「ケチだって言ったんだよ。まずいって言われたわけでもないのにさ」


「美玖ってほんと頭固いよな……。心狭いっていうかさ。姉ちゃんも言ってたけど、もうちょっと臨機応変っていうか人にやさしくすることできないの?そんなんで、よく仕事できるね?」

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