悪影響の理由
「……浮気?」
いきなり浮気を疑われて、思わずお箸を落としてしまった。
「ヤダな仕事だよ。そんなことしてるわけないじゃない」
「でも残業多すぎない?前はそんなことなかったのにさぁ……。やっぱり俺が勝手に仕事辞めたこと怒ってるの?」
「そんなことないよ」
否定しているのに夫の言い分は変わらない。
「その腹いせなら正直やめてほしい。今なら謝れば許してあげるけど?」
「浮気なんかしてないよ……!残業が増えたのは新しい、プロジェクトを任されたから。それに時間がかかってるの!」
「……ふーん……本当にそうならいいけど」
(なんでそんな態度とるの?この前まで普通だったのに)
「せっかく夕飯作ったのに帰ってくるの遅いから、冷めちゃうんだよね。だから、嫌がらせかなって」
「ちゃんと遅くなる日は連絡してるよ?夕飯だって完璧じゃなくていいし、冷めてもおいしいよ。私が嫌がらせでわざわざ残業してくるわけないじゃん」
「そ…それくらいわかってるけどさぁ……」
まだ納得している様子がない。
そこまで疑われるようなことも、そもそも浮気もしてない。
晩御飯を用意してくれるのは嬉しいが、それは夫が有給中で家にいるからだ。以前は私が仕事終わりに毎日作ってた。
それに遅くなる時は前もって、何なら朝には連絡してる。
しんどい時はお互い自分で済ませるルールは今も健在なのに。
正論で話す私に、圭太はばつが悪そうにしながら、言い返してくる。
「あんまり多いから、浮気してるんじゃないかって今日姉ちゃんと話してただけ!」
「お義姉さん…?え?今日家に来てたの?」
夫の突然の告白に、即座に嫌な予感がよぎる。
夫の義姉はどちらかというといい性格をしていない。
前に住んでいた家に来た時は私の物を散々物色していったのを、夫もよく知っているはずなのに。
「家にお義姉さんをあげるなら一言、言ってほしいんだけど…」
私の一言に、圭太は一気に機嫌が悪くなった。
「なんで俺が買った家なのに美玖の許可とらないといけないわけ⁉」
「俺は自分の姉ちゃんに働いて頑張って手に入れた努力の結晶として、自分の家招待することもできないのかよ」
フン!と嫌味を言う圭太。
話の矛先が違いすぎて、イライラしてしまう。
「だーかーらー…私はただ一言言ってほしいだけ!他の人に見られたくない物だってあるんだから…!だいたい何…『俺の家』?ここは私とあなたの家なんじゃないの?」
「俺の名前で買ってるんだから俺の家だろ!俺の城だ…!
だって姉ちゃんもそう言ってたし!」
自信を持って言い切る圭太の発言に、心からため息をつきたい。
名義はそうだけど、ローンや生活費は2人で払っているからこそなのに。
(この言い方…やっぱりお義姉さんか)
義母は別に悪い人じゃないのに、義姉だけはすごくしつこい。
結婚してすぐ、義姉の誕生日を知らなかった私に、いきなり怒りの電話がかかってきたのだ。
『美玖さんは私の義妹なんだから。プレゼント送って当たり前でしょ?』
(お義母さんに…ならまだわかるけど…お義姉さんまで??っていうかこういうのって気持ちだよね……?自分で催促してくるのなんなの…??)
考えるのも面倒で適当にネットで入浴剤を送った。
そしたら正月に、ぷんぷんと文句を言ってきたのだ。
『どうして私の好きな物を聞いてくれなかったの?柑橘系なんて嫌いなのに』
『……ああ、すみません。人気のものだったんですけど、お義姉さんの好みに合わなかったようで残念です。私にはセンスがないので今後はプレゼント送るのやめときますね!』
『ええっ…』
こいつ言い返してくるの⁉と馬鹿正直に、顔に書いていた義姉の顔は今でも覚えてる。
もちろん嫌味のたびに普通に言い返している。
可愛くないと言われればそれまでだけど、ひどい態度を取る人に気を遣う必要があるとは思えないから。
だからか知らないが、私のいないところで、弟の圭太にこうやって嫌味のような戯言を言いつけてくるのだ。
そして圭太は義姉にとても影響されやすい。
「とにかく!前も言ったけど、妻なんだから。ちょっとは俺のことたてても、罰当たんないだろ⁉」
(ああ、もうめんどくさい)
「だからさ…あなたの給料だけで、今の生活ができてるわけじゃないよね?」
「そりゃそうだけど……でも俺の給料がないと、この家は買えなかった!」
「わかってるよ…でもさ、私の給料があるから、安心してこのマンションを
買えたんでしょう?」
「……そう…だけど」
「もういいからさ。いつもお義姉さんに毒されるのやめてくれない?」
「私はケンカがしたいわけじゃない。家のことで男が女が、お金がどうだこうだを、話し合いにわざわざ出したくないのよ。2人で平和に暮らせたら
それでいいと思うんだけど」
「……」
「けんか腰になるのはやめて」
「……ごめん」
冷静に言いなして圭太が頭を冷やして謝る。
義姉が絡むと、ここまでがワンセットになってきていることがイヤだ。
「俺マンション買って毎日1人でゆったりしてるとさ。散歩とかしてなんだか
セミリタイアしたみたいで……。ちょっと気が大きくなっちゃったかも」
「セミリタイアは羨ましいよね。はやく本当にそうなればいいね」
にっこりフォローをしてあげると、圭太はいつも通り気分を良くしたようで、照れくさそうに笑った。
「ほんと…ごめん……!来週から仕事始まるしちゃんと気合入れて働くよ!
だから期待しといて…!」
「ふふっ大いに期待してまーす」
単純だけどすぐに謝れる圭太のいいところだ。
たまに嫌気はさすものの、離婚したいと真剣に考えるほどではなかった。
夫婦なんてこんなもの。
理想をおしつけてばかりじゃやっていけない。
デートもするし、上手くやっていけてる、そう思っていた。
この考えが悪かったのだろうか。
夫が浮気するだなんて、私は思ってもみなかった。
無事に再就職を果たした夫の分まで、また朝にお弁当を作るようになって1週間。自分の弁当箱を洗おうとすると、夫の弁当箱が置きっぱしだった。
(もー臭くなるから、すぐ洗ってって言ってるのに)
包みを開くとひらりと一枚。
ほんのりピンク色のメモが落ちる。
『お弁当、ごちそうさまでした♡』




