二度と戻らない幸せ
「……住む?なんで?姉ちゃんは結婚してるし家もあるだろ」
「離婚するの」
姉ちゃんは、俺が鍵を開けるなりすぐに、部屋で荷物を広げ始めた。
「なんで…⁉」
家庭が上手くいってないとは、聞いたことがない。
航平さんとは、仲が良かったはずだ。
「アンタらのせいに決まってんでしょうが!!」
「……はぁ⁉」
「ほんと美玖さんのせいで何もかも最悪!こうなるくらいなら、初めから別れとけばよかったのに!アンタが私の助言聞かないから、私に被害がくるんじゃない!」
「いやいやそうだとしても、姉ちゃんの旦那とはなんの関係もねえだろ……!離婚されるようなことしたんじゃねえの⁉」
「べっ別にしてないわよ……!」
顔を背けて口をとがらせる姉は怪しいったらない
「しばらくいてもいいけど。早めに出てけよな」
俺も鬼じゃない。居候くらいはいいけど、ずっといられるのはごめんだ。
「あ、家賃ちゃんと払って!半分で9万円な!」
どうせいるなら、美玖が払ってた生活費分、お金を払ってもらおう。
居候するんだから、あたりまえだ。ところが、
「なにそれ。ぼったっくらないでよ!払えるわけないじゃん」
「え?」
「いくら慰謝料で困ってるからってさぁ、実の姉にたからないでよ」
その言葉にカチンときた。
さんざん美玖のことを、ダメ嫁って言ってたくせに。
同じ金額が払えないのか?
「っていうか聞いてよ!航平がさぁ!」
こんな女の言うこと聞いてたんだろう。
取り返せない時間と、姉の声がとにかくうるさい。
俺が転職活動中、結局姉さんはずっと家にいる。
だけど、家事もしない、生活費も払わない。
母さんと父さんに頼んでも、援助の1つもしてくれない。
次第に美玖との離婚が成立してしまい、俺は毎月慰謝料を払うことになった。
さらには中原ちゃんから訴えられてもう大変だ……。
幸い転職先は見つかったが、給料は低いし生活はギリギリ。
ローンの引き落としと慰謝料の支払い。
生活費はクレジットカードだよりだった。
姉ちゃんは出ていく気がなく、最近はお金までたかってくる。
汚い部屋で、買ってきた半額弁当を冷たいまま食べると、涙が出てきた。
「……っくっ…く…」
あったかい美玖のごはん。
いつものお弁当に綺麗な部屋。
もう二度と…戻ってない。




