義姉、麗香の転落劇
「なんなのっあの女…!」
(本当に頭にくる…!なにもかもぶち壊して…!)
人気が出ている弟、圭太にあやかって、今日の集まりで、私は仕事をもらう予定だった。
そうすれば、嫌味を言ってばかりの夫の航平を見返せる。
コンサル?秘書?やったことなんかない、でも、圭太を成功させた私には、才能がある。やればいくらでも、成功するに決まってる!
(なのにあいつら…!)
お金をかけて用意したのに、集まったインフルエンサーたちは薄情者ばかりだった。
圭太が、バツイチじゃなかったって情報流さないか、気が気じゃない。
(そうなれば仕事の話だってなくなるかもしれない!)
指の爪を噛む私を、お母さんが冷たい目で見てくる。
「………麗香。自分のしたことわかってるの?」
「私は何も悪いことしてない!お母さんこそなんで、あんな女の味方すんの!」
「敵とか味方とか……。なんでそういう風にしか考えられないの?」
お母さんはいつもこう。
私の質問に対して、どっちでもない答えをする。
「やっていいことと、悪いことがあるでしょう。あんたたちは、その一線を超えたの」
「なにが!?」
弟のことを考えてあげただけなのに。
そんなイヤそうな顔して怒鳴るの?!
部屋にずかずか戻ると、まだ涙の筋が顔に残る圭太が膝をついていた。
「なにへこんでんの?!」
返事は嗚咽でしか、返ってこなかった。
「あの女と別れたかったんでしょ!思い通りになってよかったじゃない!」
そうだ、圭太が望んだとおりになった。
「………だよ」
「え?」
「全部最悪だよ!姉ちゃんのせいで、ぜんっぶ終わった!!」
「なっ…⁉」
(はあ!?)
「姉ちゃんの言うことなんか聞かなきゃよかった!終わりだ終わり…!
今日来てたやつらにぜんぶ、ばらされて終わり!!せっかく時間かけて育てた
アカウントもパーだし、美玖も出てくしなんっも上手くいかねえの!」
「それがなんで私のせい⁉元はといえばあんたが先に、浮気しちゃったからじゃん!それが原因でいろいろバレちゃったんでしょ⁉」
「それも姉ちゃんが、浮気くらいいいじゃん!広い目で探さないとねーって
言って止めなかったじゃん!」
部屋に戻ってきたお母さんも、圭太の言い分に、目を丸くして驚いている。
「あのね。『止めなかったから』じゃないでしょうが」
お母さんの言うとおりだし。どうせ私が止めなくても、浮気してた。
逆恨みもいいとこよ!
「でも、でもさ…とにかく姉ちゃんが責任取ってよ…!美玖の最後の顔見ただろ…⁉ぜってぇ許してくれねぇもん…!慰謝料とかなんやら請求されたら、俺金なんっも残らないよ!」
「……はぁ⁉なんで私が!?そんなのアンタの自業自得じゃん!私には関係ないし!」
「自分で何とかしたら⁉とにかく私には関係ないから!」
優しさでいろいろ教えてあげたのに。
圭太は恩を仇で返すつもりだ。
(しんっっっじらんない!)
「待ちなさい!まだ話は……!」
「話すことなんかない!帰るからついてこないで!」
「お姉ちゃん!このことは~!」
出ていく私に、母がごちゃごちゃ言ってたけどどうせお説教だ。
(やってらんない!なにが私のせい⁉嘘を実行したのは圭太本人じゃないの!)
私はイライラしながら自分の家に帰った。
(SNSが上手くいったのも、私が教えてあげたからなのに)
よくよく考えれば私とは違って、フォロワー数も伸びてる。
もしかしてバラされるかもと、心配してあげた私が馬鹿みたい。
思いのままカバンを放り出すと、がちゃっとイヤな音がした。
「もぉー!こんなとこに物置かないでよ…」
今日のために買ったちょっといいカバンなのに。
傷でもついたらどうしてくれんの?
イライラしながら見ると、壊れたのは夫が作っている途中のフィギュアだった
「この辺に置いとく方が悪いし」
作りかけのフィギュアは、まだ箱に入ってたが、開けてないから中身が見えない。
「気分転換に飲んじゃお!美味しいおつまみどこだっけ」
どうせわからないと思ってそのまま放置。
海外ドラマとお笑いを見ながらソファで、いつのまにか眠ってしまった。
「おい……おい!起きろよ!」
「いたっ…何⁉やめてよ…⁉」
ぺちぺちと起こされたほっぺが痛い。
さっきお母さんに叩かれたばっかりなのに…!
目を開けると、旦那の航平が怒っていた。
「お前…!俺のフィギュア落としたか⁉」
「はぁ……っ⁉そんっなどうでもいいことで起こしたの⁉」
「どうでもいいことじゃねえよ!」
航平の大きな声は久しぶりに聞いた。
不穏な空気をようやく感じた。
「思いっきり落としてそのままとかありえないだろ⁉上司に頼まれて買ってきた高いやつなんだぞ⁉」
「だ、大事なもんなら、ちゃんと仕舞っておけば⁉」
「置いてたろ!ここは触るなって、さんざん言ったぞ⁉」
朝そういえばそんなことを、言われたような記憶がよぎる。
「すぐ持っていけるようにしてたのに…。家も片づけないし働きもしない
マジで何なの…⁉さっさとこの家から出てけよ!」
「………⁉た、たかがフィギュアで出ていけ…⁉頭おかしいの⁉」
理解できるはずもなく、反論すると航平はより、声を荒げた。
「こっちはもう限界なんだ!だいたいなんだよこのカバン!」
フィギュア近くに置いた、買ったばかりの鞄を投げられる。
「ちょっとやめてよ!」
「ブランド物って!バカにしてんのか⁉どう考えても小遣いじゃ買えないだろ!この前から、こそこそ仕事だーなんだか言ってるけどさぁっ!何にも稼げてないだろ!それなのに無駄遣いしてよくドヤ顔できんな!」
こっちは必死なのに、なんでそんな言い方しかできないの?
成功に下積みは絶対なのに。利益が出るには時間がかかるものだ。
「私が何を買おうがどうでもいいでしょ!あなたのお金は夫婦のお金
なんだから!」
言い切った私を、航平は憎しみを込めた目で、私を睨みつけたと思うと、呆れたように溜息をついて、すたすた部屋に戻っていった。
(ほら言い返せない。私は何にも悪いことしてないのよ!夫を妻が養うのは当たり前のことじゃない!)
思えばこのとき、結構酔っていたかもしれない。
圭太は私のアドバイスが、あったらから上手くいった。
私も自分よりレベルの高い人からアドバイス受けたら…上手くいくんじゃない?
そのまま高額スクールに、申し込み、航平のクレジットカードを借りて支払いを済ませた。
(これで、航平もなにも言わなくなるでしょ!!)
離婚したいなんて嘘。
私が稼いでないから、あの人は多分不満なだけ。
翌朝起きてきた航平に、私は自信満々に宣言した。
「仕事見つかったから。私が何しても文句なしね」
まだ見つかってはないけど。スクールつながりでいくつか、仕事はもらえるらしい。
だからきっと大丈夫だ。
「………早く出てけよ」
航平は特に反応もせず、無言で仕事に出かけてった。
(おめでとうも言えないんて、最低ね)
翌日には離婚届が置いてあったけど、私に何も非はないのに、離婚するが意味ない。
1人パソコンに向かって、よくわからない動画を見ながら勉強していたら、
帰ってきた航平に、いきなりパソコンの電源を切られた。
「⁉なにすんの⁉消えちゃったじゃん!」
「おい、これどういうことだよ」
「…は⁉」
航平が持っていたのは印刷したクレジットカードの明細。
「60万も何使ったんだ⁉こいつ誰だよ…!」
支払先は、まさに今見ていた動画のSNS運用を教わってる先生だ。
「……初期費用よ仕方ないでしょ」
航平を無視して、パソコンの電源をつける。私には1分1秒が貴重だから。
「……じゃあこれは?お前、なにやってんの?」
深いため息の後、航平がぺしっと渡してきた書類は、封筒の封が空いていた。
「勝手に開けたの⁉」と、怒ろうとしたとき書類に、書かれてる名前が目についた。
「井口 美玖……?慰謝料請求に関する通知…?」
「このたび、あなたが私の夫の離婚を助けていたことが判明しました。この行為により、精神的・経済的な苦痛を受け……慰謝料50万円請求させて
いただきます…ぅ⁉」
差出人は弁護士。そして送ってきたのは美玖さんだ。
「あの女……!私は何もしてないのに!」
今すぐ訴えてやる!とスマホで電話しようとする私を、航平が心底、軽蔑してきた。
「お義母さんから聞いたよ。君がしたこと全部。自分はなにも、できてないくせに。よく偉そうにできるよな。マジでないわ」
「はぁ⁉可愛い圭太を助けてあげただけだし!」
圭太の偉そうな嫁を、姉として躾けただけ。
なのに、なんで航平がキレてんの?
「俺も、お前にクレカの60万請求するから。全額返せよ」
「家計から出したお金でしょ⁉返さないし、返せないわよ!無理!」
話を聞かず部屋から出ていく航平に、いちゃもんをつけようと追いかけると、
大きな荷物を持っていた。
「どこ行くのよ……」
「麗香の仕事が見つかるまで、我慢するつもりだったけど。俺の方こそもう
一緒にいるのマジで無理だ」
何を言ってるのか理解ができない。
「人の家庭壊しといて、罪悪感もまったくないのも信じられない」
よく部屋を見れば、航平の私物が少しずつ減ってる。
(私の知らない間に、出て行く準備、してたの?)
「この部屋、今月までだから。それまでに出てけよ」
「え……」
「離婚届も書いといて」
「なに勝手に決めてんの⁉書くわけないし、離婚しないわよ!」
まだ稼げる手段もない。
どうやって生活しろと?
「もう決めたことだ。お義母さんにも言ってる。長引かせる方が時間のムダだから」
「………!!う、訴えるわよ!こんなの認めないから!」
喉のかぎり叫ぶ私を、航平は鼻でフッと笑う。
「弁護士雇う金もないのに?」
「……っ!まだお金になってないだけよ!これから稼ぐの!!」
「自分は口だけだっていい加減認めろよ!じゃあな」
「……!待ちなさいよっ。航平!!!!」
叫んでも、叫んでも、振り返りもせず、航平は私を置いて出ていった。
「ありえない……っ」
全身に寒気がする。
スクール代金、慰謝料、挙句に引っ越し……。それに離婚?
生活費はこれからどうすればいいの?
努力して努力して……。上手くいきはじめた途端、全部あの女に壊される。
「っっっあああああ!私がなにをしたっていうのよぉおおお!」




