バツイチ独身インフルエンサー圭太くん
ひょこっと頭を出して、そのまま義姉は硬直した。
「え…………お、お母さん……?………なんで?」
混乱しているときに、出てくる言葉と反応が同じ。
さすが姉弟と言ったところか
「『なんで』じゃないわよ……!あなたたち…っ一体2人でなにしてるの⁉」
キーンと義母の叱りつける声が廊下に響いた。
「か、母さん、静かにっ…」
「……えっ……えっ⁉」
中の人に騒ぎを聞かれたくない圭太。状況が読み込めないまま騒ぐ義姉。
(なんてみっともないんだろう)
「いい大人がほんとに、ああ…自分の行動を恥ずかしいと思いなさい!」
「母さん黙って……!近所迷惑だから!」
「圭太……!なにごと……?なんでお母さんが…」
義姉はなぜ、義母に叱られているのかすらわかってない。
「実の母親に怒られるのはどんな気分ですか?」
おろおろしていた義姉が私を見つけるなり、きっとに睨む。
ようやく私の存在を認識したと思えば、とんでもないことを言い出した。
「あんた……!もしかしてお母さんに告げ口したの……⁉圭太が他の女に走ったのは、自分に魅力がないからなのに!最低ね!」
「あのですねぇ……」
ここまで、自分たちは一切悪くないと思う義姉に、ここ至るまでの状況を説明しても義姉に理解ができるか悩ましい。
「はぁ……お義母さん、とりあえず中へ入りましょう」
「えっ……いや、それはちょっと…」
義母と私の行く手を、圭太が阻む。
「その友達が来てるから、とりあえず後で……」
ごにょごにょと家に入ることを、拒む圭太にイライラする私を、義姉がさらに逆なでする。
「そーよ!空気読みなさいよ!」
「圭太!麗香!」
義母の声で義姉は身を震わせる
「2人とも黙りなさい」
義母の鋭い眼光を浴びながらも、圭太は震える手で玄関の扉を閉めた。
「だって!ほんとに困るんだ!友達って言っても仕事関係の人だから……!」
「仕事関係の人なら、なおさらご挨拶しないと」
ごたごた御託を並べる圭太を、無視して私と義母は家の中に入ってく。
「お邪魔するわね」
部屋に入るといくつかの手料理のほかに、おしゃれな総菜。
そして、オシャレな若い男女数人がいた
カメラのアングルを細かく撮っているところを見ると、圭太のバツイチ独身男のSNSアカウントの繋がりだろう。
「あれ?こんにちはー」
「圭太さんは?」
「こんにちは、初めまして。圭太の妻、美玖です」
「「えっ??」」
その場にいる全員が「?」と疑問に思い、私の後ろでビクビクしてる、圭太に視線が集まる。
「おもてなしできなくて、すみません。私の家で、パーティがあるなんて知らなかったので」
独身と聞いていた彼らは、顔を見合わせる。
私は、大量の汗を流す圭太に、にっこり微笑んだ。
「どういうことなのか皆さんに説明してくれる?」
「え……妻?【元】じゃなくて?」
「圭太さん離婚してたんじゃなかったの…?」
「どういうこと…?」
口々にざわざわと騒がしい室内、スマホのカメラは数台回ってる。
「えっと……その…」
私は、何とか訂正したい圭太の言葉に、重ねるように話し出す。
「あら、離婚なんてしてませんよ。少し前に引っ越してきたばかりですしーあれ……?」
フリマアプリ用にと、片づけた家具やラグが戻っていることに気づいた。
「この前、模様替えしたばかりなのに。どうして戻ってるの?ねえ、圭太このクッション、あなたと浮気相手が使ったから、見たくもないっていったよね?」
「ええっ⁉」
更に、ざわめきが増しぶつぶつこそこそする音の中、「修羅場じゃん……。やば……」とだけ、はっきりと聞こえた。
「ち、ちが……」
訂正しようとする圭太に、追い打ちをかける。
「もしかして、あなたたちの中にも、夫と身体の関係がある人がいたりしますか?」
「まさか……!すみません、お邪魔ですよね。私たちそろそろ帰りますね」
「お、俺らも、これで失礼します。圭太君ごちそうさま」
女性陣ににこっと微笑み、質問すると波を打ったように、帰っていく。
義姉は、まだ帰らないで、さっきの話は⁉と騒いで止めても、また今度と、苦笑いをされてばかり。
「みんな待って……!このことは秘密にして…」
圭太が切実に叫ぶ声もむなしく、全員が無視。
そして軽蔑の目で、風のように出ていった。
残されたのは私と義母、そして義姉と圭太だけ。
ぼーぜんと突っ立ってる圭太を押しのけて、義姉が私につかみかかった。
「あんたぁぁ!」
「やめなさい!」
義母がすかさず、義姉を止めるが、義姉は私の襟元を離さない。
「今日は大事な集まりだったのに!ぶっ壊して……バカなの⁉」
襟元をつかまれたまま、義姉をにらみつける。
「お義姉さんの方こそ、バカなんじゃないですか」
「…⁉」
「圭太に色々悪知恵を入れたのは、お義姉さんですよね?」
「はぁ……⁉」
義母の前でバレたくないのか。
義姉は何言ってるのか、わからないとしらばっくれる。
「だったらどうして私が家の中に入るの嫌がるんです?圭太が独身のフリしてることを、知ってたからじゃないですか?」
義姉の顔がみるみる青ざめていき、私の襟をつかむ手が緩む。
「なんで知って…」
「さあっ、なんででしょう」
思いっきり振りほどくと、よろよろと義姉は後ずさりした。
私は、教えてあげるほど優しくない。
「でもお義姉さんもいるとは思ってませんでした。弟の不貞行為を助けるのに
お義姉さんも必死ですねー」
義姉はわなわなと肩を震わせていた。
「うるさい!今日は私にとっても大事な日だったのに…!アンタのせいでぶち壊しよ!」
義姉の平手打ちが飛んできそうになったとき、先に頬を赤くしたのは義姉の方だった。
「………お母さん⁉」
真っ赤にほとばしる目が、義姉を鋭くにらみつける。
「言いたいことは、それだけ……⁉」
母である義母に、こんな風叩かれたのは、初めてだったのか。
義姉はその場で頬を押さえて、義母を信じられないという目で見た。
「…………今まで私はあなたのことを、『圭太のお姉ちゃんでしょ』って
強要したことはなかったわ」
義母の声は、震えていた。
「なんでかわかる?姉弟それぞれプレッシャーかけるようなことして、
我慢させたくなかったから。でも、そうしたほうがよかったのかも。そしたら少しは責任感とか、弟が間違えた道に進んだとき、ちゃんとしようって気が
持てたかもしれないもんね。少なくとも……!こんな風に、悪だくみを助けるようなことしなかったかもしれない」
「圭太も!」
圭太は蛇に睨まれたかえるのように身動きが取れなくなった。
「美玖さんから聞いたわ。浮気したんですって?それなのに、また女の子を
家に連れ込もうとしたわね」
「ご、ごめんなさい」
「私じゃなくて、美玖さんに謝りなさい!」
「待ってよ!お母さん……!なんで美玖さんの味方するの⁉圭太と私の話も聞いて…!」
「聞いたわよ!アンタたちがどう考えても悪いんじゃない!」
「!!」
「麗香!たとえ姉弟だろうと、人の家庭にとやかく首を突っ込むんじゃありません!」
今まで義姉にイヤなことをされても、自分で対処して言い返していた。
だが、この際だから全部話した。
プレゼントをせがんで文句を言ったことも、人の私物を物色することも、
浮気を許したくせに偉そうだと説教してきたことも、すべて」
「恥ずかしいわ……。あなたそんなんで旦那さんとうまくやれてるの?」
「やってるわよ……!」
「どうだかね……」
義母は諦めと悟ったような、表情を浮かべた。
「とにかく、あなたはもう今後美玖さんに近づかないでちょうだい」
「別に好きで近づいてるんじゃないし!圭太に会いに来てるだけ!言われなくてもこんな女に会いたくないわよ!」
「私も会いたくないですよ。何回言ってもわからない人と、話しても意味ないんだなって悲しい気持ちになりますから」
「またバカに……!」
「あ、それと安心してください。もう圭太とは離婚します。この家もなんでも圭太の好きなようにできるんです。お義姉さんも安心でしょう?」
「あ、当たり前でしょ!この家は圭太の家なんだから!」
「もう……!麗香はさきに帰りなさい!」
今にも義姉が外に連れ出されそうになっているのに、圭太は何もせず、私の横に来てまるで子どものようにこう言った。
「え……っ?なんで…⁉許してくれるって言ったじゃん」




