サレ妻の我儘
「どういう意味?」
「いや……今日はちょっと、買いすぎっていうか…」
独り言のつもりだったのに、私にしっかり聞かれていることに気づいた圭太はバツが悪そうに話す。
「もう一度2人でやっていこうって決めたのに、こんなにお金使われるのは
ちょっと俺も辛いなって…」
「でも、さっきは良いって言ってたから」
こういうときだけは、本当に予想以上の行動をしてくれる圭太のクズさにはむしろ尊敬する。
圭太のすべてを掴んで壊すために、泳がせている私だからいいけども。
あまりにも勝手な言い草だとは、思いもしないのだろうか?
「いや、それはそうなんだけどこれはさすがにさ……。選んだもの全部
女っぽいっていうか。美玖の趣味だから、もうちょっと俺の意見反映してくれてもよかったんじゃないかってちょっと思っただけだよ」
今の家はシンプルモダンな家具と雑貨で彩られている。
これは2人で住みやすい家のためにと、私がかなり真剣に選んだものだ。
そして夫のSNSアカウント【圭太|バツイチ男のシンプル生活】で、たーっぷりと写真も動画も使われている。
新しい家具を買うのはいいとしても、こんなに女性のイメージが強い模様替えは考えてなかったのだろう。
「ああ…気づかなかった。無意識のうちにちょっと警戒しちゃってたのかも」
「……なにを?」
普段は使わない敵意を表すパワーワードに圭太がたじろぐ。
「もし……あなたがもう一度ここに女を連れ込んだらどうしようって」
「そんなことしないよ…!え、だから俺昨日から美玖のためにって変わろうと
してるとこじゃん…!」
心外だ…!と圭太は辛そうな声をいとも簡単に出してきた。
「昨日の今日でそんな風に言わなくてもよくない⁉もっとしばらく様子見てさ。俺が怪しいとか信じられないとか思ったならわかるけど…!」
「うん、うん。でも私も昨日の今日だから」
「…ッ!……ごめん」
自分で言っておいて私の気持ちは理解してないらしい。
「今ある家具は辛いことを思い出すから。荷物が届いた物から全部捨てさせてもらう」
(そうすればSNSにあげられなくなってとーーっても困るでしょう?)
「………わかったよ。でも勿体ないから誰かに売るとかさ」
「それはいいよ!そのお金は全部私に頂戴ねあ、あとこれを機会に、お小遣い制にさせてもらうから」
「えっ……そんな困るよ。俺にも付き合いがあるし…!」
「拒否したらどうなるか、もしかしてわかってないの?」
「どうなるって……。え……なにその言い方…怖いんだけど…」
「浮気した人なりの償いってあるよね」
さっきまでブツブツ言っていた圭太の顔がこわばっていく。
「私はあなたにも慰謝料を請求するだろうし、離婚だってするか考えるし」
「慰謝料って……!そんなドラマじゃないんだし」
「わかるわかる!なんか大げさに聞こえるよね」
冗談だろ?と圭太笑う圭太の顔はひきつってる。
「でも、現実だよ?浮気したんだから。それくらいする権利が発生しちゃったんだよね」
「……で、でも、美玖はしないだろ…?」
「もちろん再構築で考えてるから安心して。でも……あなたがあんまり
しつこいし、くどいし反省してるのかなって思っちゃうことばかり言うから。あなたのために忠告したくて」
「ただ……あなたがしたことがどういう結果をもたらすのか、ちゃんと知っておいて欲しかったの」
小刻みに震える圭太の手を優しくふんわりと包む。
「さ、帰えろう?晩御飯はお惣菜でも買って今日は楽しようよ」
「うん……」
これで少しの不安と安心が、圭太の心に残る。
それから私は圭太に洗い物や片付けを全部お願いして、少しずつ部屋の模様替えも、圭太を使って終わらせていった。
仕事もひと段落ついたので、これからは定時すぎにはちゃんと帰れるようになった。
でも、圭太の方が会社に近い分、帰ってくるのも早い。
「ただいま。今日のごはんなあに?」
「おかえり……。酢豚にしたよ」
模様替えした部屋の家具は、部屋の隅に置いてある。
フリマアプリで販売中だが、まだ売れずうっすらほこりをかぶってる。
「わーおいしそう」
圭太の作ったご飯をパクパク食べお風呂に入ろうと席を立つ。
「あ、あのさ!ごはんなんだけどこれも、俺が毎日作らないとダメ?結構しんどいんだけど」
「どうして?」
「いやだって俺にも仕事があるし…結構疲れてて」
「ん~そうだね」
「だろ⁉だからさ…!」
「……でもダメ」
「なんで……?」
「あなたが浮気したから」
その場で呆然とする圭太を放置して暮らして3日。
アイコとして圭太にDM送りながら帰宅すると、玄関に女物の靴が置いてあった。
2秒後、耳障りの悪いうるさい声で、すぐ大嫌いな義姉の物だとわかった。
「やっと帰ってきたわね!」
「遅い!もっと早く帰れないの⁉」
ふんふんと偉そうに私を睨みつける義姉、ナツミ。
これからたっぷり私に嫌味を言えることを、ご褒美にこんな時間まで待ってたらしい。
「ああ、お義姉さん。こんばんは。どうされたんですか?今日は別に約束した記憶はないんですが」
暗になんで来たのか?としらっと笑顔で語りながら、靴を脱いで部屋に入る。
圭太をチラ見するとすぐに視線をそらされる。
また勝手に家に義姉を入れたことに罪悪感はあるようだ。
「弟が最近元気がないから様子を見に来たの」
「へえ、そうなんですか」
「そうなんですかって、もっと言うことあるでしょ⁉」
「も……もうすぐご飯できるから。姉ちゃんも食べていってよ」
圭太は義姉の陰に隠れるように、だまってごはんの準備を進める。
臨戦態勢の義姉をほうって、洗面所に行ってから、ソファでごはんが
できるのを待とうと座ると義姉が私が持ったリモコンを奪った。
「帰ってきたのになんで圭太のこと手伝わないの?あなたが代わりにごはん
作るでしょうが!普通!」
「……はい?」
「私も来てるのにもてなす気ないの?いつも圭太に料理させてるんでしょ!
リモコンなんて持ってさ!ソファでだらだら寝転んでテレビでも見るつもり?」
ああ可哀そう、ああ非常識だと義姉は嘆く。
だけどそんなの私の知ったことではない。
「リモコン返して下さい」
わざとごろーんとゆったりめに、くつろぐようにソファに座りなおしてあげた
。
「!」
「だいたい仕事が終わるのは私の方が遅いですし?前の家より会社がちょっと
遠くなったんで帰ってくるの遅いのは仕方ないんですよ。私たちは共働きですし、早く帰った圭太方がご飯を作ってても何の不思議もありませんよね?」
「だからって私が来てるのに圭太に普通作らせる?仮にも妻なのに……!女として恥ずかしくない⁉」
前に言っていた体調管理は妻の仕事…とでも言いたいのか。
「弟のおかげで、結婚もできて家も住めてるのに!仕事してるからってそんな
えらいわけないでしょ!いい加減にしなさいよ!」
義姉は気分がよくなったようだが
この私にケンカを売ったのは大間違いだ。
「それってお義姉さんに関係ないですよね?」




