関係修復
「美玖、ありがとう……!俺、生まれ変わるから…!」
圭太の表情がぱぁっと明るくなり、私を優しく抱きしめる。
「そう……ちゃんと変わってくれるのね」
「もちろんだよ!俺、なんでもするから」
しっかりと抱きしめているから、私が今どんな顔をしているか、のんきな圭太は気づきもしない。
「……じゃあとりあえず、やっぱり使ったものは、新しいものが欲しいな。あの子を思い出すのは嫌だから」
「もちろん!明日は土曜日だし、美玖が好きな物買いにいこう!」
ふいに解放されたので、私は慌てて笑顔の仮面をかぶった。
「ほんとにごめん。もう浮気しない。俺の妻は美玖だけだから」
「うん。わかった。あなたとは付き合いが長いし、一緒に生活してきたから
情もある……でもね?」
「今回のことは本当にショックだった。いきなりは元に戻れない。……これから、あなたを何度も試すようなことをしてしまうかもしれない。それでもあなたは、なにがあっても私を許してくれるんだよね?」
圭太にとって私はお金と、快適な空間を届けてくれるカモ。
SNSでまだお金も稼げてない。
たった今一番有力な次のカモを逃がしたばかり。
そんな中、私がこの家から出ていけば、圭太の生活は崩壊してしまう。
(そのことが何よりも怖いんでしょう?)
「もちろん……!美玖がそれでいいなら俺はなんだってするから」
「ありがと……じゃあさっそく悪いけど、これ後片付けお願いしていい?私、疲れちゃって…」
「うん!任せて…!本当にごめん!!こんなに優しい美玖を裏切るようなことして……」
「ありがとう。先にお風呂貰うね」
カチャカチャと洗い物をシンクに運ぶ圭太に背を向け、洗面所で1人きりになる。
中原あゆが料理をしていたので、私は台所にも監視カメラを仕掛けている。
スマホでチェックしながら、同時にSNSで圭太にDMを送る。
【こんばんは!今日おすすめのジムに行きましたよ。圭太さんと会えるかなって期待しつつ。笑】
スマホの画面の中の、圭太は通知に気づいたのか、すぐにスマホをとりだしてそそくさと打ち込んでいる。
期待を外れることなく、1分以内に返信がきた。
【え………?笑 アイコちゃんマジで? それ嬉しすぎるんですけど!よかったら今度待ち合わせとかしちゃいます?】
圭太は気づいているだろうか。
私は一言も「許す」と言ってないことに。
自分がまさに今、私に試されているということに。
(これで終われると……思わないでね)
お風呂から出ると、テーブルの上もシンクの中もきれいさっぱり片付いていた。
「これくらい全然平気!」
いつもよりきれいにしていて、頑張った感のある圭太に「そうなの?じゃあこれから毎日後片付けお願い」とご褒美を追加する。
「えっ?毎日……?」
「うん、平気なんでしょ?」
「いや、そうだけど……共働きだし。お互いにできる時にやればいいんじゃない……?あ、イヤってわけじゃなくて!」
自分の負担を増やしたくない。
けど機嫌は取りたいらしい。
「イヤじゃないならよかった~!今までどっちかっていうと、私がなんだかんだ片づけることも多かったじゃない?あなたも新しい環境で疲れてるだろうって…」
控えめにふわふわに。優しい私を演出して。
「遠慮してたんだけど、そういうの全部必要なかったくらい元気に浮気してたし」
追い打ちをかける。
「ご、ごめん。それは悪いと思ってるから」
「わかってるよ。大丈夫。じゃあ明日も……明日からも後片付けよろしくね」
さすがに私と話しているときは、約束を守ろうと意識するらしい。
「うん、大丈夫大丈夫、任せといて」
ふーっと自分の言った言葉の重みを感じているが、私からするとあほらしくて仕方がない。
(今まで私がやってたことを自分でやるようになることが、罰に思うなんて変なの)
「じゃあ今日はもう寝るね。おやすみ」
あれから私は朝が早くて起こしちゃうと悪いからと、ずっと別の部屋で寝ているのですぐに一人和室の布団の中に入る。
圭太のSNSを見ると、ご丁寧にシンクを綺麗にするまでの投稿が上がっている。
【今日はホームパーティ友達におうちごはんをちょっと豪華にふるまった。よろこんでくれてよかった~!後片付けまでしっかり◎】
全然反省してないどころか、人が作ったご飯までもネタにするありえなさに
もう寒気しかしない。
すかさず、圭太とやりとりしている人格「アイコ」としてコメントする。
【わぁ~!今日はパーティだったんですね!お料理の写真はないんですか?】
と送ると圭太から、コメントじゃなくDMがすぐに帰ってくる。
【飲みすぎて忘れてて。次は撮るのでお楽しみに。ちょっとバタバタしてるから、ジムはまた今度いきましょう!ホームパーティならいつでもお誘いしますよ】
また私のいないときに女を連れ込むつもりなんだ。
どうなるかも知らない圭太のバカ面を想像すると笑みがこぼれる。
「……はーい。楽しみにしてまーす」
翌日、私は圭太とショッピングセンターにいた。
昨日、中原あゆが使ったものを私が使いたくないからと、好きな物を買っていいと言ったので、さっそく買い物にやってきた。
「うーん……。こっちとこっちどっちがいいかな?」
私がいるのはちょっとお高い寝具がそろうお店。
数万以上する枕を持って、圭太に質問する。
「どっちもいいやつだと思うけど……そうだ、他の見てみたら?」
「ダメだよー。せっかく買うならいいものを買わないと」
「でも持ってたやつの何倍もする奴を別に選ばなくても……」
「……なんでも買ってくれるって言ったの、圭太だよ?」
さっきまで持っていた枕を悲しそうにそっと戻す。
「本当に自分がしたことをさ。反省してるならそんなこと言わないと思うんだけど……。やっぱり昨日の言葉って嘘だったの?それなら私…」
「ち、ちがうちがう!なんでもないから!何にも気にせず買っていいよ
だからほら……ね⁉」
ヤバいと思ったのか、圭太は私が置いた枕を二つ持ち、どっちがいいかな!と
検証し始める。
「よかった!じゃあこっちにするね!」
すぐ笑顔に切り替えて高い方の枕を選ぶ。
「う、うん!これなら部屋の雰囲気にも合うしいいと思う!」
「あ、今のベッドも捨てるから。新しいの見に行こ。今日の配送はさすがに無理かな~」
圭太の「ベッドも⁉」という顔に書かれた言葉を無視して、私は寝具の散策を続ける。
ふかふかの高級布団。
女性の雰囲気が漂うシーツ。
薄い毛布にブランケットまで。
途中から店員さんの「長持ちするならこれですよ」というアドバイスもしっかり、聞いて全部まとめて購入した。
「じゃ、お願いね」
もちろん支払いは、私でなく圭太のカードで。
「ありがとう」
そのあとも色々な雑貨や細かい家電を買いなおした。昨日謝らずに、自分で家賃を払ったほうが安いと思えるくらいの金額を。
ネットの方が安くなるのはわかってるけど、生活にも少しで足りないものがあったら圭太が、かわいそうなので全部お店で揃えてあげた。
(もう昨日の約束を後悔できてるでしょう?)
多分、圭太の給料なら、カードの支払金額は一括では、とても払えない。
「私のためにありがとう。他の女と使ってる布団に寝るのがどうしてもいやで」
と私が言うと、圭太はぼそっと独り言のようにつぶやく。
「俺が言ったことだからもういいけどさ……。いくらなんでも、これはわがまますぎない…?」




