浮気じゃない
「俺たちはただ心の傷を癒し合ってただけなんだ…!だから大事にしなくても大丈夫だから…!中原ちゃんを今日は帰してあげようよ」
心の傷…?
「奥さまには不快な思いをさせてしまって、大変申し訳ございませんでした」
機転を利かせた中原あゆはすぐに、夫と同じように頭を下げた。
「うぬぼれてました。私なんかに力になれることなんてなかったのに……!」
「いやいや俺の方こそ…!」
なんでいきなり、こんな強気で喋れるのかと混乱していたがすぐにわかった
「スマホも別に見せなくていいから!そんなの個人情報の塊じゃん!
ほんとごめんね…!俺が迷惑かけちゃって」
そう、スマホだ
(中原あゆのスマホから、私が浮気の証拠を取るつもりだと思ってるんだ)
そういえばさっきから、圭太も、中原あゆも「浮気した」とは一言も言ってない。
だから自白にもならない。
そう踏んでいるのだろうか。
「奥さまがいられるのなら、私にできることはありませんね。私だってそんな幸せな既婚者に手を出すほど、落ちぶれた女じゃありませんこの度は私の軽率な行動が、誤解を招き大変申し訳ございませんでした」
「俺の方こそ…!本当に申し訳ない…!!」
私は2人の寸劇をそのまま眺めて感想を言う。
「まるで打合せしてたみたいにきれいに収まるのね」
「えっ…そんなつもりは」
「そうですよ、本当に。今日のことはびっくりしたんですから」
圭太はただ乗っかっているだけ……。
中原あゆは本当に頭が回るらしい。
(ぜひとも別の方向でその才能を使ってほしいわ)
「本当に申し訳ございませんでした。今回のことは改めてお詫び
させていただければと思います。とりあえず今日は私がいると話が進まないと思うので…」
「このあたりで失礼させていただきますね。それじゃあ圭太くん。また会社で…!」
「うん、今日はごめんね!」
そわそわバタバタと、一刻も早く私から逃げたいのか。
黙って観劇していた私は、見送るていで玄関へ移動する。
「こんなことになってとても残念に思います」
「いえいえこちらこそ…」
ぺこっと謝罪して出ていこうとする中原あゆは、もうドアを半分開けている。
一緒について行こうと靴を慌てて履く、圭太の足を思いっきり踏みつぶしてやった。
「美玖? なにするの……?」
「なめてんじゃないわよ」
「「え……?」」
「嘘に嘘を重ねたんだから、覚悟、できてるんでしょうね」
「お、奥様…⁉」
「美玖、嘘じゃないって。足、どけてよ。俺、中原ちゃん送んないと…」
「送る?出ていった瞬間この家に二度と入れないわよ?あなたの大事な大事な
新しい素敵なお部屋に」
より強く、靴を踏んで、中原あゆだけがを外に出れるように、ドアを広げてあげる。
「あ、あの……」
いつでも逃げられる状態なのに、駆けださないのは、私が怖いからじゃない。
「証拠はなにもないと思ってるんですね?身体の関係がないと、仰ってましたが、もしかしていろんな記憶が飛んでるのかなって。ちょっと心配になっちゃいますよ」
「家にね……?最近変な動きがあるので、私、怖くて監視カメラつけたんです」
「監視カメラ⁉」
「ほら知らない間に家に空き巣が入ってたら怖いじゃないですか?」
「………え」
「圭太には内緒だったの。だってあなたがもし共犯だったら困るでしょう?」
「おまっ……⁉」
「前々からお義姉さんが勝手に上がり込んで、私の物を物色していく……
なんてこともあったから」
さっきまできちんと私を見ていた中原あゆの目が、だんだん合わなくなっていく。
「だからビデオをチェックしてびっくりしちゃった!」
「まさか……女性のあんな姿が映ってるなんて思わなかったなぁ」
口をパクパクさせる中原あゆ。
私を説得させる言葉を必死に探している。
「お、奥様…!あの…それは……ですねちょうど火傷…そう火傷して!それでお風呂を借りた時の…!」
「あ、そうなんですか」
「はいっ…!だから奥様が思うようなやましいことは」
「私…映っていたのが、中原さんだったなんて言ってませんが?」
「あ……」
「責めるつもりはないですよ。だって私が思うような関係は、2人にはないんですよね?」
訂正するなら今しかない。
だけど私はチャンスを2回も与えるほど優しくはない。
「夫とは清い関係と仰っていましたもんね?」
「そ、そうです」
「よかったぁ。嘘だと思ってましたけど、そこまで言うならあなたを信じます
。じゃあ今日はお帰り頂いて結構ですよ」
逃げられる…?そんな安堵の息が伝わるくらいの距離。
「あ、はい。じゃあ後日改めて謝罪に……失礼します」
「でも……。夫と浮気した女性は間違いなくいるようなので」
ドアが閉まり切る寸前に、私は笑顔でこう伝えた。
「家にいる女性が誰か確かめるために職場の人にも映像を見せて、聞いてみようと思います。あなたじゃないそうなので、もちろん、大丈夫ですよね?」
「ま、待って!!!」
最後にドアが閉まる直前、隙間から顔面蒼白の、中原あゆの顔が見えた。
私はすぐに施錠して、チェーンもかける。
ドア越しに濁った声で、とんとん中原あゆ女がドアを叩く。
「やめ…やめてください!謝りますから…!」
夫はまだ靴を履こうと、座り込んだ体勢のまま動けないのか唖然としている。
「スマホ出して」
「えっ」
「はやく」
トントン、コンコンと控えめなノックが鳴り響く中、私は圭太のスマホから「あゆ」へ電話をかける。
何コール目で気づいた中原あゆが電話にでた。
「もしもし?」
「あ、開けてください。さっきのどういう意味ですか」
「そのままの意味です。浮気相手らしい女性も映っているので確認します」
「……⁉脅迫ですよ⁉」
「なにがですか?」
「~~~!私って分かってるのにもし裸が映ってる動画を人に見せようとするなら……盗撮で訴えてやりますから」
この距離での通話はドア越しだから夫にも筒抜けだ。
「え?だってあなたは夫とはそんな関係がないって言ったじゃないですか?
もし映っていたとしてもそれは火傷したからなんでしょう?」
「私はその言葉を信じようと思っただけなんですけど。それに私は空き巣の被害として警察の目を借りようと思っただけのことです。その際に職場であったり家の近くの方に聞いたりするのは過程として普通ですよ」
「そ、そうかもしれないですけど」
「夫とそういう関係だからこそ、この動画、誰にも見せたくないって言いたいんですか?」
「ちがいます。でも……!」
「ですよねぇ……私も疑いたくはないんですけど、今日あなたにお会いして
カメラに映る女性に見れば見るほど似ている気がするけど、中原さんじゃないって言うし。いろんな角度から撮りすぎて変に情報が多くなっちゃったのかも…」
「だからやっぱり第三者に確認は必要かなって」
「さっきからなんですか……⁉奥様だってわかってるくせに!こんな卑怯なやり方して楽しいですか…⁉」
「楽しいだなんてとんでもない!中原さんの言葉を信じてるから、こうするしかないなって思うんじゃないですか?」
「その結果、中原さんがどうなるかはわかりませんし。お約束できること
じゃないですけど」
「………!!」
「そうですねぇ…私も無駄な争いはしたくないんですよ」
ドアをわざとコンコンと叩いて、ここいるわよと安心させる。
「だって裸にならないといけないほどの火傷の跡がほんとにあるなら、他の人には見せませんよね?」




