【第7話】肉屋の親父とコロッケ定食
お昼時の食事処に、今日も馴染みの顔がやってきた。
街の肉屋、ミート。常連だ。
腹を空かせた彼を待っていたのは…坂本が腕を振るう、いつもとは少し違った昼飯だった。
揚げたての香ばしい匂いに誘われて、
今日も食事処はのんびりとした時間が流れていく。
それでは、どうぞお楽しみください。
昼前。
『食事処〜坂本〜』の厨房では、包丁の音が小気味よく響いていた。
まな板の上で、玉ねぎが細かく刻まれていく。
俺は刻み終えた玉ねぎをフライパンに移し、少量の油を引いて火にかけた。
じゅぅ〜…と音が鳴る。
焦がさないように木べらで混ぜながら、
じっくりと火を通していく。
辛みが抜け、甘い香りが立ち始めたところで、ひき肉を加えていき肉の色が変わり、脂がじんわりと染み出してくる。
塩と胡椒で味を調え、火を止める。
その間に、茹で上がったジャガイモの湯を切った。
鍋を再び火にかけ、表面の水分を飛ばす。
木べらを入れると、ほろり…と崩れる。
熱いうちに潰し、先ほど炒めた具材を混ぜ合わせた。
味を確かめる。
……よし。
あとは粗熱を取って、形を整えればいい。
俺はボウルに布巾をかけ、厨房の時計に目をやった。
そろそろランチ時だな……
「おう、坂本ぉ。飯ぃ、食わせてくれぇ!
あれ…?お嬢ちゃん今日はいねぇのか?」
聞き慣れた声とともに、店の扉が開いた。
入ってきたのは、街で肉屋を営んでいる常連のミートだった。
「おいおい…今日はやけに早いなぁ…
シャルロットなら今お使いに行ってもらってるよ。」
「なるほどな。
それはそうと今日は昼の仕事がひと段落してなぁ。腹が減っちまったんだよぉ。」
ミートはいつもの席に腰を下ろし、カウンター越しに厨房を覗いた。
「今日は何の定食だぁ?」
「下準備はしてある。少し待ってろよ。」
「おう。あんたの店なら、何が出てきても文句はねぇよ。」
そう言って、ミートは懐からハンカチを取り出し、額の汗を拭った。
肉屋の仕事は体力を使う。
朝から肉を切り、客の注文をさばき、重い荷物も運ぶ。昼飯くらいはゆっくり食いたいということだろう。
俺は皿を並べ、付け合わせの準備を始めた。
千切りにしたキャベツを盛り、漬物を小皿に用意する。
炊き上がったツヤツヤなごはんを茶碗によそい、味噌汁を温め直した。
そして、油の温度を確かめる。
よし、十分だ。
形を整えたタネに、小麦粉、溶き卵、パン粉を順につける。
余計なパン粉を落とし、ひとつずつ油の中へ滑らせた。
……じゅわあっ!!!
油が弾け、厨房に軽やかな音が広がった。
衣の色がゆっくりと変わっていく。
焦らず、触りすぎず。
表面が固まったところで、頃合いを見て返す。
きつね色に揚がったものから油切りに上げた。
サクッ…とした衣の中に、熱を閉じ込めたまま。
これでいい。
俺は皿に二つ盛りつけ、キャベツを添えた。
「待たせたな!」
「本日の定食、コロッケ定食だ。」
「ほぅ……コロッケ…とな。」
おっさんは皿を見下ろした。
揚げたてのコロッケが二つ。横には細く刻まれたキャベツ。白い飯に味噌汁。
気取ったところはない、馴染み深い組み合わせだ。
「こいつはうまそうだなぁ、おい!」
おっさんはフォークを手に取る。
まずは一つ、真ん中から割ってみる。
サクッ!!
衣が小気味よく割れ、中から湯気が立ち上った。
「……ほぉう…」
おっさんは断面を覗き込んだ。
「中身はヌーメリックか…」
「ヌーメリックって…あ、じゃがいもの事か。
そうだ。ひき肉と玉ねぎも入ってる。」
「肉とタマネギってやつも入ってるのか…」
おっさんは一口、口に運んだ。
しばらく黙って噛みしめる。
それから、ゆっくりと頷いた。
「うめぇな、こりゃ…」
「そりゃ良かった。」
「外はサクサク、中はほくほく。タマネギってやつの甘みもいい。肉の味もしっかりしてる」
ミートは二口目を食べ、白飯をかき込んだ。
「うん、コメに合う。こいつはいい…」
「揚げ物だからな。飯が進むようには作ってある。」
「いや、そういう意味だけじゃねぇよ…」
おっさんは手を止め、皿の上のコロッケを眺めた。
「肉屋をやってるとよぉ、どうしても肉そのものの味を考えちまうんだがな。こういう料理は、肉と野菜をどう合わせるかが大事なんだな…」
「まあ、そうだな。」
「タマネギってやつの炒め方ひとつでも変わるだろ。火を入れすぎりゃ香りが飛ぶし、足りなきゃ辛みが残る。ヌーメリックだって、潰し方で食感が変わる」
「よく分かってるじゃねぇか。」
「そりゃこっちも商売だからよぉ。」
ミートは得意げに笑い、残りを食べ始めた。
その食べっぷりを見て、俺も自然と口元が緩む。
料理を褒められるのは、やっぱり悪い気はしない。
ましてや、食材を扱う仕事をしている人間ならなおさらだ。
「ところで坂本よぉ。」
「あ?」
「これ、もう一つ頼めるか?」
空になりかけた皿を指さし、ミートが言った。
「は…?定食をもう一つか?」
「いや、そりゃ腹がはち切れちまう。
単品で一つだ。」
「単品のみはあまりしたくねぇんだけどなぁ。しゃねぇか…。待ってな。」
俺は厨房に戻り、追加の注文を受けた。
油の温度は、まだ十分に保たれている。
「しかし、こいつは店でも出せそうだな……」
背中越しに、おっさんの呟きが聞こえた。
「肉屋で出すのか?肉屋でコロッケとか懐かしいな。」
「懐かしい…って何の話だ…?
いや、うちは肉を売る店だ。揚げ物まで始めたら、女房に怒鳴られる」
「まぁ文化もちげぇだろうからなぁ…」
俺が笑うと、おっさんも豪快に笑った。
そんなやり取りを交わしながら、俺は追加の一つを油に入れた。
昼の店内には、揚げ物の香ばしい匂いと、のんびりした笑い声が満ちていたのだった。
読んでくださりありがとうございました。
じ、実は私コロッケはソースがないと何か少し物足りないと思ってしまうのです……
まぁとんかつとかの揚げ物全般ですけどね!
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ではまた次の営業でお会いしましょう…




