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坂本さんの異世界飯処  作者: とま坊


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【第6話】旅人ジェービスときつねうどん

旅の途中、ふらり…と立ち寄った街でジェービスが出会ったのは、小さな食堂『ごはん処〜坂本〜』。

そこで彼を待っていたのは、見慣れぬ料理一一『キツネウドン』だった。

温かなスープともちもちの麺、そして甘辛いアブラアゲ…

何気ない一杯の料理が、旅に疲れた彼の心と身体を優しく満たしていく。

これは、異世界の旅人が謎の食べ物と出会う、ちょっと違ったサイドストーリー…

それでは、どうぞお楽しみください!

ジェービスは、街道を歩きながら小さく息を吐いた。この街に到着してから、すでに半日が経とうとしている。

目的地へ向かう途中で立ち寄った街だったが、思いのほか広く、必要な買い物を済ませるだけでもずいぶんと時間がかかってしまった。


おまけに、朝から歩き通しだ…

そろそろ腹も減ってきた…


「……どこか、食事のできる店はないだろうか……」


独り言をこぼし、ジェービスは周囲を見渡す。大通りにはこの街の名物だろうか…謎のグルメの店舗が並んでいる。

しかし、どこもそれなりに混雑しており、今から店を探すのも少々面倒だった。

懐事情に余裕がないわけではないが、旅を続ける以上、無駄遣いは避けたい。


「食事」は大切だ。


だが、毎回豪勢なものを食べる必要もない。

腹を満たし、午後も問題なく歩けるだけの力が戻れば、それで十分だった。

そう考えながら歩いていた、そのとき…


ふわり……と鼻をくすぐる香りがした。


「……ん?」


ジェービスは足を止めた。

何かを煮込んでいるような、優しく、それでいて食欲をそそる香り。肉の焼ける匂いとは少し違う。

どこか懐かしさを感じさせるような、温かな香りだった。

気になって辺りを見回すと、大通りから少し外れた裏路地に、一軒の小さな食堂があるのが目に入った。木製の看板には、店の名前が書かれている。

ごはん処〜坂本〜


「ここか……」


看板を見上げ、ジェービスは少し考え込んだ。初めて入る店だ。

どのような料理を出しているのかも分からない。

しかし、扉の向こうから漂ってくる香りは、どうにも無視できそうになかった。


「……よし」


小さく頷くと、ジェービスは扉に手をかけた。


……カラン、コロン…


「いらっしゃいませー!」


扉についた鈴が鳴ると、明るい声が飛んできた。

店内は木を基調とした落ち着いた造りで、カウンターといくつかのテーブル席が並んでいる。

昼食時のピークは過ぎているらしく、客の姿はまばらだった。


厨房では、料理人らしき男が見たことのない緑のものを切っている。

その近くには、小柄な少女が立っていた。


「お一人ですか?」


「あぁ、一人だ。」


「それでは、こちらの席へどうぞ!」


少女はにこやかに笑い、カウンター席へ案内してくれた。

ジェービスは礼を言って腰を下ろす。


「……ふぅむ…」


本日の品は、……『きつねうどん』


「キツネ……ウドン!?」


聞き慣れない料理名だった。

動物の料理なのだろうか。

名前だけではまったく想像がつかない。

ジェービスが首を傾げていると、厨房にいた料理人がこちらに気づいた。


「何か気になるもんでもあったか?」


「あぁ、すみません。

この、キツネウドンって何だろうなと思いまして…」


「あー…なるほどな。

うどんっていう麺を、温かい出汁に入れて、甘辛く煮た油揚げを乗せた料理だよ。」


「ア、アブラアゲ……?」


「あぁ、大豆から作る食材だな。まぁ、食べてみりゃ分かるさ。」


料理人は気さくに笑う。

ジェービスは少し考えたあと、頷いた。


「では、それを一つお願いします。」


「はいよ! きつねうどん一丁!」


威勢のいい声が厨房に響いた。

ジェービスはカウンターに肘をつかず、姿勢を正して待つことにした。

旅先で食事をする際には、店の人への礼儀を忘れない。

それが彼の習慣だった。

しばらくすると、厨房から湯気が立ち上った。


そして――。


「お待たせしました! 

        きつねうどんです!」


少女が両手で器を運んできた。


「ありがとうございます」


礼を言い、ジェービスは目の前に置かれた丼を見つめた。

まず目に入ったのは、澄んだ黄金色のスープだ。その中に白いウドンが沈み、中央には大きなアブラアゲが一枚。

刻まれた青い謎の葉も添えられており、彩りもきれいだった。

丼からは、先ほど店の外で感じた香りが漂ってくる。

ジェービスは思わず背筋を伸ばした。


「……見たことのない料理、

でもこれは、うまそうだ…」


まずは、スープからいただくことにした。

丼を持ち上げ、そっと口をつける。

すうっ、と一口。


「…………」


ジェービスは目を見開いた。


塩気は強すぎず、かといって薄いわけでもない。絶妙なバランス…

口の中に広がるのは、深く優しい旨味だった。

飲み込んだあとも、香りがふわりと鼻に抜けていく。


不思議なほど、ほっ、とする味だった。


「……いい、これは、いいな。」


思わず、そんな言葉が漏れた。

次に、ウドンをフォークで持ち上げる。

白く、つやのある麺だ。

ちゅるり。


「……!」


もちもちとした食感。

噛むたびに感じる、ほどよい弾力。

そして、麺に絡んだ出汁の旨味。

ジェービスは、もう一口、もう一口と箸を進めた。

最後に、丼の中央に鎮座するアブラアゲへと目を向ける。

フォークで刺してみると見た目以上に柔らかい。どうやら、汁をたっぷり吸い込んでいるらしい。


ジェービスは一口かじった。


…じゅわっ!!!


「……っ!」


口の中に、甘辛い味が広がっていく…

スープの旨味と、アブラアゲに染み込んだ甘みが合わさり、なんとも言えないおいしさを生み出している。

単に甘いだけではない。

ウドンのスープともよく合っていて、食べ進めるほどに味わいが深まっていく。


「これは……うまい。」


今度は、はっきりと口に出していた。

ジェービスは決して食事にうるさい人間ではない。旅の途中では、固いパンや干し肉で済ませることも珍しくない。

食べられるものがあるだけありがたい。

そう考えて、これまでの旅を続けてきた。

だからこそ、目の前の一杯が妙に心に染みた。


温かいスープ。

柔らかなウドン。

優しい甘さのアブラアゲ。

特別に豪華な料理というわけではない。

それでも、今の自分が求めていたものは、まさにこれだったのかもしれない。

気がつけば、ジェービスは夢中で食べ進めていた。

途中で水を一口飲み、再びフォークを動かす。

そうして最後のウドンをすすり、残ったスープをゆっくりと飲み干した。


「……ふぅ…美味かった…」


空になった丼を前に、ジェービスは満足げに息を吐いた。

腹が満たされた。

それだけではない。

先ほどまで感じていた足の疲れも、少し和らいだ気がした。


「お口に合いましたか?」


声をかけられ、顔を上げる。

先ほどの少女が、空になった丼を見て微笑んでいた。


「ええ。とてもおいしかったです」


「本当ですか! よかったぁ!」


少女は嬉しそうに笑った。

その様子を見て、ジェービスも自然と口元を緩める。

すると、厨房から料理人が顔を出した。


「おっ、きれいに食べてくれたねぇ。

ありがとよぉ!」


「こちらこそ、ごちそうさまでした。

とてもおいしかったです」


「そりゃよかった。またいつでも来てくれよ!」


料理人は気取ることなく、そう言って笑った。

ジェービスは一瞬、返事に迷った。

旅人である自分は、この街に長く滞在する予定はない。

明日には次の目的地へ向けて出発するつもりだった。


それでも。


「……はい。また、この街に来ることがあれば、是非!」


そう答えていた。

会計を済ませ、ジェービスは店の扉を開いた。


……カラン、コロン…


外へ出ると、午後の柔らかな日差しが降り注いでいた。

来店する前は、ただ腹を満たせればいいと思っていた。


「ただ腹を満たせればいい」


そう思っていたはずなのに、今は、不思議と心まで満たされている気がした。

ジェービスは、先ほど出てきた食堂を振り返った。

大通りから少し外れた、小さな店。

特別に珍しい料理があったわけではない。目を見張るような豪華な食事をしたわけでもない。

それでも、あの一杯は忘れがたいものになりそうだった。


「……キツネウドン、か…」


口の中で、先ほど食べた料理の名を繰り返す。

温かなスープと、もちもちとした麺。甘辛いアブラアゲの味が、まだ舌の上に残っているようだった。

旅に出てからというもの、食事は腹を満たすためのものになっていた。

硬いパンをかじり、水で流し込む。

干し肉を噛み、次の町までの道のりを考える。それが当たり前になっていた。

だからだろうか。

誰かが作った温かい料理を、店の人と言葉を交わしながら食べる。

そんな何気ない時間が、思っていた以上に心地よかった。


「……また食べたいものだな、ふっ…」


ぽつりと呟き、ジェービスは小さく笑った。

明日には、この街を離れる。

次にいつ訪れることができるかも分からない。

それでも、もし再びこの街を通ることがあれば。またあの食堂に立ち寄ろう。

そして今度は、キツネウドン以外の料理も食べてみたい。

そんなささやかな楽しみが、一つ増えた。

ジェービスは軽く伸びをすると、再び街道へと歩き出した。

午後の陽射しは、まだ暖かい。

先ほどまで重く感じていた足取りも、今は幾分軽くなっている。

腹が満たされ、心も満たされた。

旅を続けるには、それだけで十分だった。


「さてと、日が暮れる前に宿を探さないとな…」


そう呟いて、ジェービスは人通りの多い大通りへと戻っていった。

その足取りは、店に入る前よりも、ほんの少しだけ軽やかだった。

読んでくださりありがとうございました。

今回は坂本&シャルロット視点ではなく、お客様(ジェービス)視点で書いてみました。

結構難しかったぁーー!!!

日本ではよく食べられているうどんですが皆さんはどんなうどんがお好きでしょうか?

かけうどん、天ぷらうどんに、肉うどん

麺も細いものもあれば逆に太いものもありますもんね!

他にも麺の硬さも十人十色と沢山のうどんが全国に展開されています。


今回のジェービスのように旅行に行った際に御当地うどんを食べてみてはいかがでしょうか…

ちなみに私はぶっかけうどん(冷)派です!

少しでも『お腹が空いた』『おもしろい』と思ったら、下にある【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で応援していただけると、執筆の励みになります!

また次の営業でお会いしましょう…

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